no.32 鎮魂歌(レクイエム)

Evil Evelyn(イーヴル・エブリン)

 
 飾り窓から漏れる光は、闇をさらに濃くする。
 シンプルな依頼、誰かの灯火がひとつ消えただけ。
 しかし自分の油断で手傷を負っても、
 この街で医者の代わりに飛び込める所など、
 ひとつしか思い浮かばなかった。

 そこにはたくさんの薬がある。
 痛みを増すものもあれば、
 酩酊と一時の幸福を授けるものまで。
 道化のような作り笑いと敏い目付きのオーナーが座る
 フロントに痛みを堪えながら立ち寄る。


 「Bonsoir Babyface,
  Let me guess, who is the most lucky girl
  spend the night with you…」
 (こんばんはぁ、ベイビーフェイス。さあて、あんたと
  一晩を過ごす幸運な女の子は誰なのかしらねえ…)

 「Gimme the Key.
  Call Evelyn and tell her bring some medicine for me」
 (鍵を寄越せ。イブリンに薬を持って来いと伝えてくれ。)

 「Je le comprenais…
  SPECIAL MEDICINE for you, go HEEEEAAAAVEEEN」
 (わかったわよ…と・く・べ・つな薬ね。
  天国へいってらっしゃぁい。)


 服を脱ぎ捨て身体を検分する。
 致命傷は無く、
 すべてが皮膚表面に留まるものだと確認すると
 突然、呼吸に合わせて
 鼓動がこめかみで大きくバウンドし始める。



              Dies irae, dies illa
              solvet saeclum in favilla:
              teste David cum Sibylla
              Quantus tremor est futurus,
              quando judex est venturus,
              cuncta stricte discussurus

              怒りの日、その日は
              ダビデとシビラの予言のとおり
              世界が灰燼に帰す日です。
              審判者があらわれて
              すべてが厳しく裁かれるとき
              その恐ろしさはどれほどでしょうか。



 

 女の気配が近づいてくる。
 部屋の扉がひそやかに開けられる。
 嬉しそうな弾む声音と
 歌われる歌詞の差異に吐き気がこみ上げる。
 受けた傷による体温の上昇からなのか、朦朧とし始める。


 「SHUT UP your mouth, evil Evelyn!」
 (だまれ、イーヴル・エブリン!)

 「Well…
  Plato argued that which we call evil is merely ignorance,
  Don't you know ? And I know you're wounded.」
 (そうね…プラトンは私たちの言う
  ”悪”って単に”無知”って言ってるわ。知らなかった?
  そしてあんたが傷ついてるのをあたしは知ってるの。)

 
 過去など詮索することも無いが、
 その手つきで看護を嗜むと分かる彼女を指名したことで、
 彼女は自分が何を望んでいるかをすぐに理解した。
 そして望むことをすべて終わらせ、
 包帯を巻き終わると嫣然と微笑む。


 小さな箱から白い薬をひとつ出し、
 ペロリと出した舌の上に乗せる。
 そのまま、男の口元に向かって舌先を差し出す。

 …もしも毒薬であれば、
 粘膜から吸収するのは女も同じ、ってか。
 鎮痛剤か、抗生物質か、睡眠薬か。
 どれでもいい。とりあえずは。

 喰らいつくように、女の舌ごと唇にかぶりつく。
 薬に絡んだ大量の唾液が薬の嚥下を簡単に誘う。
 女の口中へ瀑布が流れ込むように
 余すところ無く貪り喰らう。
 積極的にそれに応える女の身体が熱くなっている。


 それとも自分の身体の発熱か?


 華奢な指先が下半身に伸びる。
 ベルトのバックルをはずされ、ズボンが落ちる。
 ゆるりと角度を持った屹立が
 女の手のひらに包み込まれた瞬間
 強く硬く育ち上がる。


 女はそのまま足の間にしゃがみ込み、尻に手を添えたまま
 おもむろに顔を寄せる。
 鈴口に沿う舌がグリグリと突きたてられる。
 滑らかで暖かな感触が亀頭を覆い、
 唇で雁のくびれを強く吸い上げられる。
 裏筋に当てた親指が、ゆっくりと筒を上下に撫で上げ
 そのまま口の中に埋もれていく。


 リズミカルだが、やさしいその行為に苛立ちを感じる。
 女の頭を押さえ込み、深く強く突き上げる。
 舌が裏筋を必死に捕らえようとするが、
 その前に女の前歯が刺さる。
 噛み切られるまえに、口元を片手で固定する。
 嗚咽が漏れる。
 尻穴から背筋にかけて、
 こみ上げてくる波を止めることなく、
 女の喉の奥に向けて射精する。


 涙目で抗議のまなざしを向ける女の顔が疎ましく
 それを見ないようにしてベッドに転がす。
 足を大きく広げさせ、M字の形で固定する。
 ぴろりと開いた秘裂は蜜を湛え、
 濃い桃色の肉壁がうっすらと見えている。

 
 「濡れてる」

 「あんたに感じているわけじゃないよ」


 ”蘇”という珍味が日本の食べ物であるんだ、と
 供給のマズい硬いチーズを食べているときに育ての父が言った。
 ねっとりと甘く香ばしい、
 チーズと同じ材料で作った食べ物だと。
 目の前のものからは、女の匂い、チーズの匂い。
 蘇なるものはこれに似ているのだろうか、と思いながら
 秘裂に舌を伸ばす。
    
 
 冥府の門とやらがあるとしたら
 オレはこんな形の門が良い。

 
 形をなぞるようにして、
 触れるか触れないかの感触を楽しむ。
 女の腰が跳ね、鼻も口もすべてふさがれ、
 ねっとりと熱い蜜まみれになる。
 頭にきたので、腰を押さえつけ歯を立てながら襞を噛む。
 そのまま引っぱり伸ばして、
 女の顔が快楽よりも苦痛に歪むのを確認してから離す。

 
 門の上方には、ドアベルのような小さな珠。
 女を鳴かすために、親指でひねり潰す。
 絹糸を裂くような声が頭上で響いた瞬間、
 つぷり、と滲む蜜。


 両手の人差し指を合わせ、
 門にゆっくりと差し込む。ぐちゅり。
 そのまま左右に広げ、冥府を覗き込む。
 生臭い匂いを放ちながらなお、オレを惹きつけて止まぬ闇。


 それを見つめるにつれ再び堅く尖った槍を
 一気に叩き込む。
 絹糸が弾け、
 槍の太さ長さ大きさに悶え苦しむ
 絶叫と快楽の咆哮に変わる。
 目の前で揺れる乳房をわし掴み、
 尖って自己主張する小さな実を
 かじり取らんばかりに歯を当てる。


 冥府に辿り着けるか。


 亀頭に当たるすべらかな感触を
 もっともっと感じたいと思いながら
 奥へ奥へと腰を動かす。
 突き破るように打ち込むリズムとともに
 強烈な締め付けが脳天まで駆け上る。

 必死に抱きつき背中に爪を立てる女もろとも、
 堕ちそうな感覚で全てを吐き出し、
 激しい呼吸のまま床に伏す。


 「…ねえ?ハデスは冥府を司る男神だけど、
  そんなに悪いヤツじゃないのよ」


 「…分かっているさ。
  ペルセポネを愛するあまり、自分に引きつけようと
  罠を仕掛ける卑怯で孤独な男だけどな。」


 イーヴル・エブリンは娼婦だが、天使のごとく笑う。
 口に出していなかった考えを読まれたことに
 少し動揺を隠せない。
 なぜだかそこで眠ることに違和感を感じた。
 二・三刻を過ごすだけで宿を後にし、そのまま街を出た。

 
 留まってはならない。
 それ以上触れてはいけない。
 頭に鳴り響く警鐘しか信じることは無い。


 数日後、Evelynは
 黒髪のアジア人を追う者によって強姦され
 彼女自身が知らぬことを「黙秘」し続けたために殺された。


  
 








  
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060707

七夕に書いた、刹那の結合と永遠の別離
おーおーおおおぐろーりあー
いーらまちーおー…
いまらちお?どっちだっけ
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