no.41 ドライブ

Bread for today, bullet for tomorrow (今日の糧、明日への備え)


ドライアップ寸前。
華氏だろうが摂氏だろうが、見た瞬間後悔する外気温。
喉の渇きが身体全体を、だるくさせている。


リョウが、ルート66を西に行く道を選ぼうなどと言わなければ
今、俺たちは荒野の一本道のど真ん中で立ち往生などしていなかった筈だ。


人を殺しに行くのに、

俺 た ち が 死 ん で ど う す る ?

 
突然、酔狂なことを言い出すと思いきや、
運転席でぷかり、煙草を燻らせ、この事態に動じる気配も無い。



「This situation...It is compleately YOUR FAULT, Ryo….
 or Did I forget asking you to full gasoline at gas-station
 when you start driving?  SUCKS!!」
(この状況…ぜったい、おまえのせい、だよな。リョウ・・・。
 それとも、俺はお前が運転を始めたときに、次の給油所で
 満タンにしてもらうように言うのを忘れたのか?くそっ!)


「yeah...Maybe YOU FORGOT about it. but I feel sorry for it.
 so, How do we get out on this lovely drive heading to hell?」 
(ああ、多分お前が忘れたんだろうよ。ま、悪いとは思ってるがな。
 で、どうやってこの楽しい地獄行きから逃れるんだ?)



さあな。
ここで乾き死にしたとして、誰かに迷惑がかかるってもんでもない。
依頼してきた人間が、願ったことが叶わずに口惜しがる程度か。


ヒッチハイクをするも、こんな道を通るのは外国からの観光客か、
旅を楽しむ時間のある余裕があるヤツらばかりで
誰もが迷惑やカージャックを恐れ、
停止するどころか逆に加速して過ぎ行く。



「おまえ、どうしてこの道選んだんだよ!」

 
「あー?ま、たまには良いだろ、
 いつもハイウェイ移動じゃつまんねーし」
 

空路を選ぶには物騒なものをトランクに積み、
金はあっても、使うことが出来ぬ状況ではただの紙切れ同然。
燃やしたところで食い物も石油も出てきやしない。 

 
残り一本のペットボトルに入った水が俺を誘い、悩ましく揺らめく。
 
 
場所を確認すれば、次のドライブインまで30マイル。
約50qなど、歩く気には到底なれない。
マラソンランナーじゃないっつの、俺は!
 

見渡せど、ただの道と乾いた砂の大地が広がる平野、冴え渡る青空。
まあ、ロクな死に方をしないとお互いに言い合ってきた。
お天道さんの下で死ねれば、まだマシか。


諦めて、運転席に腰をドカリと落とす。
目を閉じ、風のわななきに耳を済ませながら、
そのまま天国でも地獄でも、次に目を開けたときは
違う場所であってほしいと願いながらしばし眠ることにした。
  
   

「おい、起きろ。お前の服、スーツ、脱げ!!」



うたた寝のつもりが、随分深く寝てしまったらしい。
喉から口にまとわりつくネバツキが、思考を停止させている。

 
・・・俺は、今、迫られているのか?
そんなこと、する気分じゃないんだけど、なぁ・・・。
リョウ、お前の気持ち、今は受け取れねえ、かも・・・。



「アホ!お前、なーに考えてる顔してんだよ、違うっつの!
 …ま、おまえがどうしてもっていうなら…なんてな、冗談だよ。
 俺に着替えさせろよ、このエンジン音、聞こえねぇのか?」



は?  

見回しても何も見えず、聞こえない。
こいつの動物のカンが何かをしたがっているらしい。
素直に従っておくか。
男二人、車の外に出て即座に服を剥ぎ取り、
トランクス一丁に成り下がり、
俺はトランクから予備で持ってきていたスーツを改めて着る。
 

 
「何考えてるかわからんが、おめーがスーツ着とけってんだよ。
 前から言ってるだろ、そのだらしねえ格好じゃなく、
 ジャケットくらい着ておけとな!!
 何で俺の服を・・・って!!水!!もったいねーことするな!!」



髪の毛に水を降り掛け、櫛でオールバックにしているリョウ。
俺の着ていた仕事用のダークスーツにネクタイをピシリと着け、
車に転がっていた”俺の”オーデコロンを身体に吹きかける。


 
「これで俺も、少しは
 ブルーカラーのジャップ・ビジネスマンに見えるか?」

   
「ハッ!どっちかっていうと、そのボディガードだな。
 ところで、水、どうするんだよ。
 俺らこれで確実にジ・エンドだぞ?」


「見てろよ、おまえに水じゃなく美味い酒をたらふく飲ませてやる」


「・・・じゃ、シャンパンシャワーといかせてくれ、
 女も隣に置けよ」


「そりゃ高望みってもんだ」


 
二車線しかない一本道の中央で、スーツの男が立ち尽くす。
その背を見れば、これから到着する獲物を絶対に逃さぬ気迫。
砂煙の先に、黒く照り光るボンネットが姿を現す。
視認したそれは、地を走る巨鯨、リンカーン・リムジンだった。
  

手を大きく振り、デカイ車を停止させる。 
運転席に近寄り、軽くノック。
制帽を着けたドライバーが怪訝な面持ち。


「What's happening to you, guys?」
(何が起こったんだい?)


「We're really really appreciated to you.
 Actually, Our car get a serious problem...」
(本当に、本当に感謝します。実を言いますと、車に故障が・・・)

 
丁寧な口調とは裏腹に、
黒く遮られた後部座席に鋭く注がれるアイツの視線。
薄く口元に彩られる笑顔が”gettcha!”(やったぜ!)と
俺に伝えてくる。

  
後部座席のウィンドウが静々と降りる。

・・・やったぜ!リョウ!おまえ天才!!

涼やかな眼差しに赤い口紅の文字通りゴージャスな女が居た。
 

「見ていってらっしゃい。
 困っている方を助けないほど、私は冷酷じゃないわ」


ドライバーが渋々ながら車から降り、俺の元へとやってくる。
こいつもなかなかの色男。
さて、どうやってこちらを落とすかは俺の手腕と言うところか。



「ありがとうございます。こちらには仕事で来たのですが、
 せっかくだからと観光しようかと思って、つい気軽にルート66に
 入ってしまいました。私は冴羽リョウといいます。
 不都合でなければ、貴女のお名前を私の記憶に刻ませてください」


「ふふ、そのお名前から判断すると、日本から?
 私のことは、ただのladyとでも呼んで頂戴。
 これからどちらに行くご予定でしたの?」


「もちろん、天使の居る町、ロサンジェルスへ」

 
「そう・・・私の目的地もそこよ」


「差し出がましいかもしれませんが、もしもよろしければ  
 この御礼を、ロスのレストランでの
 お食事にさせていただけませんか?
 同行の彼に、
 アメリカを案内してもらったお礼も兼ねているのですが、
 美しい花がそこに同席していただくだけで、
 場も華やぐことだと思いまして。」


「素敵なお言葉ありがとう。
 で、その場所は既に決まっていらっしゃるの?」


リョウは、アメリカでは珍しい、
ミシュラン認定の三ツ星レストランの名前を口に出す。
淑女の美しく弧を描く眉が、微かに動く。


「・・・貴方は、もしかしたら、私のお付き合いに
 とても縁のある方かもしれませんわね・・・。
 それではご一緒させてくださいな」

 
アメリカにおいても、社交界が存在する。
その交流の場は、主にサロン個室を併設した
豪華なレストランであることが多い。
そこに喰らいついた女性の反応から、
リョウは見立てが間違っていなかった事を悟る。    
 
    
ドライバーは車の状態から、ただのガス欠を見抜き、
リムジンのトランクから予備のガソリンを俺らの車に補充した。
淑女に見えないよう、そいつに100ドル札を数枚握らせ
「何か飲み物も譲ってもらえないだろうか」と耳元で俺は囁く。
頬を染めて頷くドライバーに、脈ありと判断して。
 

ふふふ、水以外に食い物も、
オマケにワインの酒瓶まで寄越してきた。
飲酒運転は余計なトラブルの元。
到着まではありがたく封を保っておこう。
 
   
ひそやかに、エンジン音だけを残し、巨鯨は来たときと同じように
猛烈なスピードで目的地へと去って行った。
  

Good Job!と声をかければ、薄ら笑いが不気味に光る。
 

「ミック、依頼は今晩に終わるかもだぜ」


 

 
 


ショッピングセンターに立ち寄り、今晩の衣服を調達する。
郊外のモーテルに車を停め、今晩の仕事の段取りを打ち合わせ。


依頼人が殲滅を願った相手は、
四六時中、女を入れ替えては
馴染みのレストランで夕べを過ごすのが
日課となっていると言う。

 
最初は、そこを出てきたところを狙撃する予定だったが 
ladyのエスコートという
オイシイ役割をぶん取ったリョウの功績を称え
美味い食事をした後に、店内で逝っていただくことにする。

 
依頼人から渡された資料の中にある、
その場所の見取り図を開けば、どこの席を予約すれば
最も効果的な角度を狙えるかが一目瞭然。

 
偽名でのレストランの予約、花の手配、そして身支度。
狭苦しいバスルームで、半裸の俺たちが、髭を当て、
タキシードに着替える姿は、おおよそ生臭い目的には見えんな。 


今回はバックアップが俺。
狙撃した後の想定逃走ルートを二手に分け、
ladyを利用する手配を整える。


サイレンサーの調子を確認しながらリョウがつぶやく。
「あの女を抱けないのだけが、この計画の杜撰なところだな。え?」


はぁ?言ってろ。


リョウが手に入れたladyの連絡先、
彼女の指定する場所へ改めて二人で訪れる。
勿論、車はこれも偽名で借りた、運転手つきのリムジンで。

 
髪を高く結い上げ、うなじから背中を大きく露出させた
肢体を見事に演出するドレスを身に纏い、ladyは俺たちを睥睨した。 
美しく上がる口元が微笑を作り出し、
今宵の俺たちの装いも馬車も自らにふさわしいとサインを出す。

 
言葉なぞ要らんな。

 
レストランは初見の客を、その装いで判断する。
入店した俺たちと彼女を、サーバーは合格としたのか、
恭しい態度で予約時の指定通りの席へと案内する。


料理をアラカルトでセレクト、ワインのお勧めを聞き注文、
嫌味なくらい見事にリョウは一人で全てをコントロールし、
和やかで意味の無い会話にladyと俺たちは花を咲かせ、舌鼓を打つ。

 
リョウの、ま後ろの座席には、ターゲットが着席し、
その身に纏う素晴らしく高価な服の内側で、
デレデレと女と醜態を晒していた。
  
 
あんたに何の見識も恨みもねえが、それが俺たちの仕事だ。
俺の目配せ一つで、リョウは目的を果たす時が来たことを察する。
 
 
「ちょっと失礼」


トイレに行く素振りでリョウが席を立つ。
それと同時に俺は、ladyの目線を遮る形に座る角度を変える。
彼女の傍に近寄り、ライバルが消えたそのチャンスを計って
口説きにかかるフリをする。


「lady…貴女の素晴らしさに僕は戸惑うばかりです…
 知り合って間もないのに、こんな事を言うのは軽薄と思われる?
 貴女をもっと、良く、知りた…」

 
背後で起こる悲鳴。 
ターゲットの眉間に小さな穴が開いたのを確認し、
俺は思い切り叫ぶ。


「大変だ!!何てことだ!!人が撃たれた!!!」


化粧室へ向かう柱の陰から、誰の視線も及ばない死角に身を潜ませ
的確に狙撃したリョウの手腕は、絶対に俺を裏切ることは無い。
ここからは俺の役割、安全に二人が逃げることが次の目標。


何があったんだ?とそ知らぬ顔をして戻ってくるリョウ。
同席の女性の金切り声の叫びは、何より周囲の動揺と恐怖を煽る。
起こりうることを想定していない高貴な空間は
殺人の舞台になった途端、
誰もが自分の身を護ることを優先する坩堝と化す。


その喧騒にまぎれるようにして
会計もそこそこにその場をすぐに飛び出す。
大切なladyを二人で護る、ボディーガードとして。
  
  
リムジンに乗り込み、ladyの逗留先に戻るように指示する。
厳かに、ゆっくりとレストランから遠ざかる俺たち。
車内に満ちる沈黙。車窓の外に流れるネオン。


後、数ブロックで彼女を降ろす場となる所で、ladyは口を開く。


「今日は、とても面白いものを見せて戴いたわ。
 Mr.saeba、そしてMr.Angel。
 きっと私たち、もう二度とお会いすることは、
 無いのでしょうね」

 
聡明なladyの美しい顔は、沈黙の契約が締結したことを表す。
俺たちは、言葉を出さない。

 
そして、リムジンは目的地へ到着する。 
彼女をドア先まで送り、階段を上る。
 
  
彼女が昇りきったその段上の一段下で、リョウは膝をかしづかせた。 

 
「よろしければ、今宵の、素晴らしい幕引きに、お手を」


その言葉に従い、俺もリョウと同様の体勢を取る。  
 

女王が手柄を立てた騎士に授けるは、その御手への接吻を許すこと。
俺たち二人は、今宵の仕事の成功を導いた女神に、
感謝のキスを捧げた。

   
 
振り返らずに、リムジンへ戻る。
レンタル地で車を乗り捨て、ドライバーに後は任せると
モーテルへの夜道を二人、歩く。

タキシードのタイを緩め、ジャケットを肩に担げば
乾燥した空気と夜空に満ちる健やかな風を肌に感じる。


「なあ、今日はladyに助けられたようなもんだなぁ、え?」

「さあな。分かってたのかもしれん。女は怖ぇえよ、本当に」


願いが完遂したことを、恐らく依頼人は明日の朝刊で知るだろう。
そして契約の後納分は、明日中には口座に振り込まれる。
俺たちと依頼人は、あのladyと同じく、二度と会うことは無い。


ソレでいい。
それが俺たちの稼業だ。
 
 

そういえばさぁ、俺、あのレストランで食って無いもんがある。
・・・何だよ?
Kマート、確か帰り道のダウンタウンにあったよな?開いてるかな。
・・・何、買うんだよ?


パンだよ!パン!俺やっぱ炭水化物くわねーと食事した気がしねえ!
あとさ、銃弾も、足しておかねーとな、
何時襲われるかわからんからな。


bread for today, bullet for tomorrow かね?
んじゃ、ま、行きますか。



 



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