no.5 性(さが)(1/3)

PARFAIT battle



「絶対あそこがいい!!ママさん優しいし!」
「マスター最高だよね!あんなごっつい身体して・・・あはは!」
「見にいこ、見にいこ!あたし絶対スペシャルパフェにする!」



可愛い女の子たちのかしまし声は耳に良く響く。


あと3年後くらいには、
あの子達はみんな素敵なもっこりちゃんになるんだろうなぁ。
制服から伸びるおみ足、みなさん可愛らしいこと・・・。
お?おおっ?風よ我に味方せよ!地から衣を天に舞い上げさせたまえ!


街の異変を確認するとは名ばかりの、ナンパターゲットサーチ中。

女学生3人組の会話が少しばかり気になる。
オレの周囲でゴッツイ男でパフェを作るようなヤツ…。
…一人しか思い浮かばないぞ…?
気に食わねぇな。
あのタコ坊主が(たとえ狩り対象外年齢だとしても)
女の子ちゃんたちにモテるのは絶対許せねえ!


ムカつきながらも女の子ちゃんたちの後を静かにチェイスする。
オレの杞憂を無くすため、確認のためだ・・・って真ん中の子、
あの子は絶対上玉になるな・・・とりあえずチェック、と。



頭上に迫る危機の気配と翳る視界。
遼、覚悟っ!という声と共に
香殿の”エロ目はダメよ☆1818t”ハンマーが上半身をヒットした。



「あんたがねえ、何の意図も無くあの子たちの後を追っかけるなんて
 ありえないのよっ!犯罪者になるつもりかっ!ばかぁっ!」


「ま、待てよ・・・あの子たち、タコんとこ行くみたいだぜ・・・」


「あ、あら、そうなの?」


すぐ背後で響いた重低音に驚いた女の子たちが駆け寄る。


「うわー、痛そうですねー。だいじょうぶですかー?」


「だーいじょうぶ♪リョウちゃんこんなことではしにまっしぇーん」


即座にしゃきりと元に戻り、
アパートで見せるだらしなさの微塵も残さず
色男を演出する遼に香はがっくりと肩を落としてため息をつく。


「あ、じゃれてたんですね♪ごめんなさい邪魔しちゃって」


「え?!あ。ち、ち、ちがうのよ、えっと、これは・・・んー。
 って、あなたたち、喫茶店キャッツ・アイに向かってるの?
 聞こえてしまったんだけど」



香の良いところは、誰に対しても壁を持たないことだと遼は思う。
自分たちのような人間にも態度を隔てることなく、素直に己を届けてくる。



香の発した一言から、女学生たちはきゃあきゃあと香に
「最近、学校で噂の美味しいパフェ」情報を伝える。
確かにそれは、自分たちが常連と化している、あの店のメニューだった。




「あーーーっはっはっはっは!タコが生クリーム絞ってるぜ!!」
 
「うるせえ!遼、黙ってろ!」
 
「遼、営業妨害よ、やめなさいよ」

「香さん、あの二人がアレを始めたら、ほっておきましょう・・・」 





女学生たちと共に彼らが喫茶店に入れば、
既にオーダーが入っていたパフェを制作中のマスターと目が合う。
女の子たちは窓際の席に陣取り、
遼と香はいつもどおりのカウンターの席、並びあう。


喫茶の中でもデザートを充実させたいと
美樹が新メニューとして出した数種のパフェ。
焼き菓子やケーキの味を気に入ってくれた常連さんの希望で
裏メニューとして出していたものだったらしい。



「本当は私が盛り付けもすればいいのだけど、
 いつも私も店に居られるわけではないし、
 オーダーが入ったら、作れないとはいえないでしょう?
 だから一応、盛り付けレシピブックを作っておいたの。
 そうしたら、ファルコンのパフェの盛り付けがあんまりに綺麗で
 それからは彼にお願いしているのよ」



あんまりに綺麗、のところで、美樹はぽっと頬を染めた。



「うん・・・確かに海坊主さん、ラテックスグローブつけた状態で
 火薬の調合完璧だものね・・・そういう繊細な作業はすごく
 向いていると思う・・・」



香が言うのを聞いて、美樹は真顔に戻る。
彼女は逸脱した自分たちの行為を責めることは無い。
寧ろ、その業種で特化した能力を、
日常に活かすことを素直に受け入れ、しかも認めてくれる。


共に喫茶店を営んで思うことは、
ファルコンの潔癖と、物事への向き合い方の集中の素晴らしさ。
指先の器用さもあいまって、彼が扱う重火器のスケールの大きさや
身体の大きさからは考えられないほど、彼は几帳面。



「パフェはね、とりあえず遊び心を持とうよって思ったの。
 結局はアイスクリームやスポンジとか、フルーツを盛るものだから
 飾り付けとか、味に、私の大切な人たちをモチーフに選んだのよ」



香はそうなんだ?あれは誰のイメージなの?と言いながら、
ファルコンが作ったパフェを眺める。
遼は頬杖をつき、ぶっすりとした顔で、ただ香を見ていた。
他の客がオーダーしたそれの出来栄えを見て、女の子たちがざわめく。



「うわあ!綺麗!マスターさんがこれ作ったんですよねえ・・・
 すごーい・・・食べちゃうの、勿体無い・・・」  



ピキッと遼の額に怒りマーク。



「おう、海ちゃんよ」

「なんだ」

「おめえ、良くあんなもん作れるよなあ・・・クソ甘そうなやつをよ」

「ハン! 仕事なら何でもやる。どうせお前にはオレが作るようなものには
 逆立ちしても な ら な い だ ろ う が な!」

「な、なんだとぅ?」

「悔しかったら や っ て み ろ !」

「言ったな?タコよ、てめーよりオレのほうが100倍
 カワイコちゃんにイイって言ってもらえるもんができんだよ!
 普段やらんだけでな!」



 
  
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