F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.25
「遊 脇道」Act.25
08.12.23up
夕メシは華美ではないが洒落たレストランで摂ることにした。
テーブルには一つずつロウソクが灯っている。
そのせいか店内は少し薄暗い。
「これを消してもいいかね?」
ロウソクを見て男が言う。
「は?暗くならないか?」
初めて聞いたよ。
テーブルのロウソクを消すっていうのは。

「照明だけでも大丈夫だろう。
 …あまり…好きではないんだ。」
「そりゃ食えないことはないけど。
 嫌いってロウソクがか?」
匂いがダメとか?
「…焔が苦手なんだ。」
あー。だからこいつんちって、IHコンロなのか?

「イヤなら消そうぜ。オレは構わない。」
さっさと息を吹きかけて消した。
イヤな思いは少しでもさせたくない。
「…すまない。」
「別に全然構わねぇよ。
 あんたが好きなモンに囲まれてる方がオレも嬉しいしな。」
以前言われた言葉を返す。
昔火事にでも遭ったのかな。
火が苦手とか尖ったモノが苦手とか結構あるもんな。

「それよりなんにする?
 ちゃんと野菜も食えよ?」
笑いかけると安心したように男も微笑む。

そうか。これから気を付けなきゃな。
花火とかもダメなのかな。
それが薬を飲む原因なんだろうか。
無理矢理に聞き出すのはマズいだろう。
なるべくこいつから言い出すのを待ちたい。


「センセイの料理ほどではないが、仲々だったな。」
食後のコーヒーとデザートに手を付けながら言う。
「あ?プロと比べるなよ。
 こっちの方が美味かったろ?」

違う種類のデザートを取ったので、オレのを半分男の皿に乗せた。
「私にはセンセイの作ってくれる料理の方が美味いな。」
同様に自分のデザートを半分に切って、オレの皿に乗せながら笑う。
「そりゃ嬉しいけどな。
 あ、オレそんなにいらねぇよ。ほら。」
オレはそれほど甘いモノが好きな訳じゃない。
嫌いではないが。

大きすぎるケーキをフォークで切って返そうとすると口を開いてくる。
…レストランで『あーん♪』はさすがに恥ずかしい。
無言で皿に返すとつまらなそうな顔をされた。
「や、それはムリ。家でなら構わねぇけど。」
「家でだって私が寝込んでる時にしかしてくれないじゃないか。」
「あんた寝込んでばっかだろ?ここんとこ毎日してんじゃねぇかよ。」

最早ショウガ湯を飲ませるのは日課と化している。
熱を出させてんのはオレだけどさ。
「あれはとても嬉しい。寝込まなくなってもしてくれたまえ。」
それ以前に吐かなくなりゃ、ショウガ湯を飲ませる必要はないんだよ。


食事の後も色々な店のウィンドウを覗いたり、気になるモノがあれば店に入って買い物をしたりと、ゆっくり家までの道のりを楽しんだ。

家に帰り、言い張る男をかわしきれず一緒に風呂に入ってベッドに転がった。
男は上機嫌だ。
今日は一日、不安定にならなかったし。
レストランでも酒を飲まなかったから、きっと今は安定剤を飲んでいるんだろう。

オレは一つ大きく息をついた。
その様子に気付いたらしい。
「どうした?センセイ?」
「あの…さ。あんた今、落ち着いてるか?」
落ち着け。落ち着け。オレ!
焦らずきちんと話をしなくちゃ。

「? ああ。とても気分がいいが?
 この状態で落ち着いているかと言われると自信がないな。」
「?」
あれ?薬を飲んでないのか?
意味を取りかねたオレにくす、と笑って
「センセイと2人でベッドの上にいて、落ち着いていられる自信はないよ?」
腕を伸ばしてくる。
あ。失敗。
ソファで話すんだったかな?
しかしその発言、微妙にオヤジ入ってっぞ?

無下に引きはがして動揺されても困る。
オレは軽いキスを落とすと
「悪い。話があるんだ。聞いてくれないかな?」
男の躰をそっと離した。

途端に不安そうな顔になる。
あー。その恐怖感を早く取り除いてやらないと。
「あのさ!最初に言っとくけどオレはあんたが好きで絶対手放すつもりはない!
 そういう話じゃないんだ。不安になるな!」
早口で告げて顔を両手で包み込む。
「解ったか?だからそんな顔をするな。」
額にキスすると少し安心したようだ。
「では…どんな?」
うん。今、一番大事なことはイキオイで言えたから、オレも少し落ち着いた。

オレは躰を起こすと男の躰も引き上げ、ベッドの上に向かい合わせで座った。
「うん。話の前にもう一度言っとく。
 オレはナニがあってもあんたから離れない。
 これだけは覚えていてくれよ?」
理解できてはいない顔で、それでも小さく微笑んで男が頷く。

オレはまた一つ大きく息をした。
「オレはあんたを手放さない。
 たとえあんたの過去にナニがあったとしても。
 あんたがどんな精神の傷を抱えていたとしても、だ。」
「? センセイ?」
また不安そうな顔になる。
安心させたくて両手を握ったが、それを見下ろしたまま、まだ不安そうだ。
オレは膝立ちになり、男の頭を抱きしめた。
男が落ち着いたと思えるまで、ずっと胸に抱いて髪を撫でていた。

「あんた、精神安定剤を飲んでるだろ?」
抱きしめたまま聞くとぴくり、と躰が反応した。
「別に何か責めたいわけでも、何かを聞き出したい訳でもないんだ。
 ただ…あまり多く飲み過ぎているようだから、躰が心配なんだ。」

今どんな表情をしてるんだろう。
少し腕の力を緩めるが、男はオレの胸に強く額を押しつけて見せてくれない。
仕方がない。
またゆっくりと頭を撫でながら言葉を続ける。
「なあ。安定剤を飲み過ぎると内臓に負担をかけることがあるんだそうだ。
 オレはそれが心配なだけだ。
 …決められた用量まで減らすのは難しいか?
 時間を掛けてでいいから少しずつ減らせないか?」
どうして飲んでるかなんてことは、こいつが言い出すまで待てばいい。

「どうして…それを…?」
幽かな声が聞こえた。
「ん?ゴミを捨ててたらやたらと薬のパッケージが有ったんで、なんか持病でもあるのかと心配になって薬の種類を調べたんだ。
 悪かったな。勝手なコトをして。」
小さく頭を振ってくる。
怒ってはいないようだ。

「なあ。オレは今、あんたの精神について何も言うつもりはない。
 ただ、量については今話しておきたい。
 躰に係わることだからな。
 あんたはどう思う?
 用量を減らすのは無理そうか?」
そんなことを聞いたって、本人にも解らないかも知れないな。
「様子を見ながらでいいし、少しずつでいいから減らしていかないか?」

しばらくの沈黙の後で
「ん。気を付けてみる。」
小さく頷きながら応えてくる。
「ん。急に減らすのはかえって良くないそうだから、様子を見て少しずつな?」
また小さく頷く。
これで当面の問題は一つ片付いたか?

「さっきも言った通り、オレは今ムリに話を聞き出すつもりはない。
 ただ、あんたの過去に何があってもどんな傷を精神に持っていても、あんたから離れない。
 それだけは覚えていてくれよ。」
それは本心からだったんだが、男の躰が震えた。

「…ないから。」
「は?ごめん、聞こえなかった。なんだ?」
「センセイは知らないから…。知らないから言えるんだ。そんなこと。」
小さいがはっきりした声で言う。
顔を胸から離して見ると、瞳に涙を浮かべている。

オレは無責任なことを言ってしまったんだろうか?
しかしこいつを見放すつもりはない。
「オレはあんたとずっと一緒にいるよ?
 あんたを守って行きたいよ?」

男はオレの両腕を掴み、縋るように顔を見上げてくる。
「もし私が人殺しであっても?
 もし私が君のご両親を殺しても?
 もし…私には君に愛される資格が…本当はないとしても…!?」
涙を零れさせながら小さく叫んだ。
なにを…言っているんだろう?
その位突拍子が無くても見捨てないかどうかってことか?
少し興奮してしまった男の頭をまた胸に抱きしめた。

オレはいい加減な返事をしないように、男の言葉をよく考えてみる。
「もしあんたが人殺しになったとして、いや、現在既に殺したという前提か?」
現在のアメストリスで人を殺したら、税務署長なんてやってられない。
例え話なんだろう。

「…。」
男はナニも応えない。
「じゃあ、既に人を殺したということでオレは考える。
 …否定がなければ肯定と取るぞ。いいな?
 そんでもってオレの親を殺したらってのは、今あいつら生きてるからこれからそうしたらってことだよな?」
「…。」

「じゃ、そう言う前提で考える。
 …そうだな。あんたが人を殺していたり、これからオレの親を殺すとしたら。
 まあ、後者は必死で止めるさ。
 あんなんでもオレの親だからな。あんたに罪を犯して欲しくないし。
 でもな。
 …それでもあんたがそうしたときはナニか理由が有るんだろう。
 どうしてもそうしなきゃならない理由が有ったんだろう。
 オレはそう思うよ。
 …だからあんたを手放すことはない。
 ま、しばらくは親を殺されたらぎくしゃくするだろうけどな?
 それでもオレはあんたから離れないよ?
 オレの考えは甘いのかも知れないけどな。」

どうも、平和ボケした時代に生きているせいか考えが甘いよな。オレ。
親が死ぬとか、きっとちゃんと捉えられていない。
「ごめんな。オレ、現実味が無さ過ぎて、あんたの言葉をきちんと受け止められていないかも知れない。
 でも、オレは本当にそう思うんだよ。
 そんなことじゃあんたを手放すことはない。」

「…私がウィンリィ嬢のご両親を殺したとしても?」
顔を埋めたまま聞いてきた。
ウィンリィの親を?
今ウィンリィの親は健在だから、これもこれから殺したらってことだよな?

「それは…止めるよ。オレ。
 …あいつの泣き顔は見たくねぇからな。」
「止められなかったら?
 それでも理由があると思って赦してしまうのか!?」

うーん。意外と自分の親よりも現実味が有るモンだな。
親を殺されたらってことをちゃんと考えられていない証拠か。
それをこいつは言いたいのかな。
…こいつがウィンリィの親を殺したら。
オレはこいつから離れるか?

「うーん。ちょっと待ってくれ。今考える。」
まず怒るよな。オレ。
どうしてそんなことをしたのかきっと問い詰める。
でも、こいつが理由もなく殺すはずがない。
…でも赦すかって言われるとどうだろう?

オレを殺すかウィンリィの親を殺すかと言われたら、きっとこいつはウィンリィの親を殺すだろう。
そうしたら…ダメだ。
そうなったらオレが自分を赦せねぇな。
あ、でもこいつのことは赦せるよな?
しかしそうなったらオレだけこいつの側で幸福になる訳に行かない。

うーん。
…難しいな。
例えが非現実すぎるんだよな。

…もし逆らえない理由でどうしてもウィンリィの親を殺さざるを得なかったら?
そうしたら苦しむのはこいつだろう。
それなら赦せそうな気がする。

前提によって答えは変わるけど。
「あのさ…。もしどうしても殺さなくちゃいけない状況で、それはあんたが望まないことだったんなら、やっぱりオレはあんたの側にいるよ。
 …だってあんたは自分を責めすぎて…死んでしまいそうだから。」

泣いているんだろう。
震える躰をまた抱きしめて、髪を撫で続けていた。


「私は…君に愛される資格がない…。
 もし…そうだとしても?」
愛される資格…。
って、ナニ?
オレは同性と言うだけでも結構資格がないような気がするが、それを軽く飛び越えたこいつが言う資格ってなんなの?

「ごめん…。その資格ってのが理解できない。…想像もついてない。」
正直に返す。
だってウソや誤魔化しは言いたくねぇもん。

…こいつが実は妻帯者とか?
それは結構腹が立つかもな。
しかしそれはねぇよなあ?
こいつならきっちり離婚をしてからオレに求愛しそうだ。
子供がいるとか?
それはオレ、全然構わないな。
一緒に遊びたい。
オレは子供が好きだ。
…資格ってなんだろ?

「あんたって独身、子供無しだよな?」
とりあえず考えられる前提から考えていこう。
「ああ。」
はい。一つ消えた。

「うーん。悪いけど、資格ってのが解んないや。
 だから応えようがない。
 でもな、オレはあんたがオレを殺してもきっとあんたを赦すぜ?
 オレの考えが甘いことは解ってる。
 でもそう思うんだよ。
 …それじゃダメか?」
「違う!私が君に相応しくないんだ!」
頭を振って絞り出すような声で言う。

「相応しい…。男だからか?年上だから?」
今更そんなこと、気にするタマか?
あ、やっぱり違うみたいだ。
また頭を横に振ってる。
そうだよな。
しかしそれを超えた資格のなさ…。
ダメだ。全然解らねぇ。

「どんな意味でか、言えるか?
 …無理にじゃなくていいぞ?」
ヒントも無しじゃ話しにならねぇ。
こいつの頭が良過ぎるからかな。
オレの想像がついていかねぇよ。

さっきよりも強く頭を振っている。
「言えない!センセイに嫌われる…!」
オレが嫌うようなこと…。
…ナニがある?

あー、新会社法を提案した奴は今心底殺してやりてぇと思ってる。
今殺しても新会社法は消えねぇから、過去に遡ってな。
ターミネーターとタイムマシンの開発が今のオレの第一課題だ。
しかし、こいつが新会社法を考えた訳じゃないよな?
あと、オレが嫌うようなこと…。

人を殺す以上にオレが嫌うようなことってなんだ?
…人の尊厳を奪うこと?
例えば女性をレイプしたら。
それは怒るな。オレ。
弱者を力で押さえつけることは赦せない。

「レイプ…とか?」
しかしそんなこと、こいつがする訳ねぇよな。
ほっといたって向こうから寄ってくるだろう。
笑おうとしたら男の躰が強張ってることに気付いた。
「…女性を無理矢理襲ったら、オレは怒るよ。」
この反応って、まさか?
あ、でもオレって逆レイプ状態だったな。
ははは。

「襲ったら?」
男が聞いてくる。
「ああ。女性を無理矢理襲ったら。
 そんなの赦せないだろ?
 女性の気持ちを考えると。」
少し考えているようだ。
「襲われたら?その女性のことは?」
「あ?被害者じゃん。別になんとも。気の毒だとは思うけどな。」

「…君の考えは本当に甘いんだな。」
軽蔑というよりも少し腹を立てているようだ。
あ、オレが気にしてることを。
「うん。そうなんだろうな。
 想像力が足りないのかも知れない。
 否定はしねぇよ。」

「全然安心できない。」
オレに抱きしめられたまま男が言う。
「うん。そうだろうな。
 オレ、あんたの言うことが現実味なくてちゃんと考えられていないんだよ。
 それは解る。
 たださ、これから少しずつ2人で考えて行かれないかな?
 とりあえずは薬を規定量まで減らすことを考えられれば今日はいいよ。」

「全然安心できない。」
男は繰り返す。
「ごめんな。安心させてやれなくて。
 でもオレはあんたから離れる気はない。
 あんたを手放す気は全くない。
 それだけは信じてくれないか?」
「…。」
ダメか。やっぱり。

「なあ。これからあんたがオレに少しでもあんたの精神のコトを話せるように、オレもあんたを安心させられるよう、頑張るからさ。
 それじゃダメかな?」
くしゃくしゃと髪を混ぜると小さく頭を横に振って
「駄目じゃない。
 でも、怖くてセンセイに話せないことがある。
 それでも…側にいて貰ってもいいか?」
躊躇った声が自信なさ気で。

「オレはあんたの側にいたいよ。
 怖いと思うんならあんたが話したくなるまで言わなくていい。
 オレはずっとあんたと一緒にいるよ。」
膝を落として男と向かい合う。
「忘れないでくれ。オレがあんたを好きだってこと。
 オレはあんたとずっと一緒にいたいって思ってること。」
頬に掌をあてて言うとようやく少し嬉しそうに笑う。
ああ、よかった。
この笑顔が見られて。

「ああ。私もセンセイを愛している。
 …臆病になるほどに。」
くあ!
なんつー殺し文句だ。
こんな時なのにオレは高揚しちゃったぞ?

「じゃあさ。精神を確認したところで躰でも愛を確かめ合おうか?」
あ、ちょっとオヤジくさかったかな?
でもオレの言葉に男は楽しそうに笑って
「ああ。そうすることにしよう。
 愛してくれるかね?センセイ?」
オレのうなじに手を廻してキスしてくる。

男が精神にナニを抱えているのか、それはこれからゆっくりと時間を掛けて話し合っていこう。
オレはきっとそうやっていけるとこの時は信じていた。




Act.26

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