F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) > 「遊」vol.34
「遊」vol.34
08.12.16up
「でさ、兄さん。調査の資料はいつここに持ってくるの?」
アルが聞いてきた。
「ああ。昼にヤツが来るからその後だな。隣の部屋に置いときゃ気が付かないだろ。」
「まだ調査のこと話してないんだ。」
「んー。仕事のことだからな。」
二人ともだかだかと会計データを入力しながら話している。
仕訳したモノをただ入力するだけなら、たいして注意力もいらない。

「ところで新妻さんに質問です♪」
「いきなりなんだよ?」
新妻じゃねぇっての。
マウスをマイク代わりにするのはやめろ。
カーソルが踊ってるぞ。

「旦那様とどう呼び合ってるんですかぁ?」
楽しそうだな。アル。
「あ?別に。『ショチョウ』と『センセイ』だ。」
「えー?新婚さんなのに?」
いや、関係ないだろ。
オレ達ぁ別に新婚さんじゃないし。
「なんとなくな。
 …そういや名前で呼んだこと無いな。呼ばれたこともない。」
「それ、寂しくない?」
いや別に寂しかないけど。
…ヘンかな?

「…ベッドでもぉ?」
なんだそのニヤニヤしたツラはよ!
「おら!さっさと入力しろ!手が止まってるぞ!」
ああ。兄ちゃんお前の育て方間違えたよ。
入力に戻りながらもニヤけて
「兄さんから名前で呼んでみたら?きっと喜ぶよ♪」
余計なことを言う。
…そうかな?


昼になっていつものように男が弁当を持って来る。
それに合わせてアルが昼を喰いに出た。
男のマグを出して、とりあえずコーヒーでいいだろうとは思いつつ聞いてみることにした。
「なあ。…ロイ。」
ま、名前を呼んでみたかっただけなんだけどさ。
あれ?固まって目を見開いている。
「…ロイ?」
あ、金縛りが解けたようだ。
「…ああ。君が…ね…。名前で呼ぶのは初めてだったから。驚いた。」
「イヤ…だったか?」
「いや。嬉しいよ。」
にっこりと笑う。
「そか。コーヒーでいいか?」
ホッとして聞く。
「ああ。頼む。」
ふい、と男がオレから顔を背けて、弁当を開く手が震えているように見えたのは気のせいだろうか。

「で、今日も仕事遅いのか?」
食後にまたコーヒーを飲みながら男に聞いた。
「そうだな。センセイも遅いのか?」
あれ?名前で呼ばないんだ。
「んー。8時頃にはキリが良ければ帰れるかな。」
急ぎの仕事が入るとそう言うわけにも行かないけど。
「そうか。終わったらここに寄ってみるよ。」
「ん。解った。」


「もう一時になるぞ。そろそろ帰れよ。」
オレが言い出さない限りいつもこいつはここに居ようとする。
「君はつれないな。センセイ。」
「だぁあ!仕事しろっつってんの!
 トラブってんだろ?こんなとこで油売ってねぇで!」
男の腕を掴んで玄関に連れて行く。
「だからこそ少しでも君と居たいのに。」
情けない顔してもダメだ。
ホークアイさんに殺される。

「ロイ。今日なに食べたい?」
それでも抱き寄せられるまま軽いキスをして聞く。
大概甘いなー。オレも。
「センセイの食べたいものならなんでも。…セロリ以外なら。」
またキスを受ける。
「少しは希望を言えよ。
 …遅いならあんまり負担にならないようにナベブギョーにでもするか?
 野菜が摂れるし、躰にいいらしいから。」
東の国の料理で、油を使わずに野菜を沢山摂れると聞いた。
母さんに言わせれば用意も楽なんだそうだ。
どういうネーミングなのかは母さんにも解らないらしい。
「それは楽しみだ。なるべく早く帰れるようにするよ。」
「ん。でも手を抜かないようにな。」

最後にと、きつく抱きしめられて深いキスをされた。
まだ抱きしめられて髪を撫でられているときに勢い良くドアが開いてアルが入ってきた。
「あ、ごめんなさい。」
うわぁと慌てるオレを余所に男は余裕で
「いや、こちらこそすまないね。」
笑いながら言いやがった。
「もうお帰りですか?ボクも源泉の納付書を取りに行きたいんで、ご一緒させて下さい。」
アルも全く慌てていない。
なんで?
オレがおかしいの?
いや、お前等ちょっとおかしくねぇか?

「そんなもの、あとで私が届けるよ。
 毎月のかね?納特かね?何部欲しいのかな?」
「いえ、提出先が複数有るのでボクが行きます。」
「言ってくれれば用意をするが?」

源泉所得税は納める先がお客さんの所在地によって変わるんだけど、こちらが言わない限りセントラル税務署ではセントラル税務署宛の納付書しか貰えない。
申し出をすればどこのでも印字して貰えるが、印字がなくてどこにでも使える白紙のモノは貰えないんだ。
おかしな話だと前々から思っていた。
「なんで納付書に税務署番号や年度を印字するんだよ?それじゃムダになるだろ?」
男に疑問をぶつけてみた。

「予算の関係でね。毎年同じだけの用紙の仕入が必要だと言うことだ。
 土木関係の工事が年度末に多いのと同じだよ。」
「そこで使われんのは税金だろ?結局ムダになってんじゃねぇか。」
「慎ましい君に許せないのは分かるが、お役所とはそういうモノなのだよ。」
解らないでもない。
でもそれを納得しちゃいけないんだとオレは思う。
お客さん達が少ない儲けから納めた税金だ。
ムダに使われると腹が立つ。
ぽんぽんと頭を軽く叩かれる。
こいつに文句を言っても仕方がないのは解ってるから黙ったけど。
今度正式に税理士会から抗議してやる。


しばらくして税務署からアルが帰ってきたので車を借りて(つか、オレとアルの共有なんだけどな。)男の家から調査のための資料を持って来た。
全くこのクソ忙しい時期に。
いったいなんの調査なんだか。
段ボール3つを置いて溜め息をついたオレにアルが
「なーんか陰謀を感じるよねぇ。」
くっくっと喉の奥で笑っている。
オレは背筋に冷たいモノを感じた。

「なあ。アル、普通の調査かも知れないからさ。あんまり酷いこと考えるなよ?」
するとうって変わって無邪気な笑顔を向けられる。
「何をさ?ボクはなにも企んでなんかいないよ?」
その笑顔が却って怖いよ。
つか、『企む』って。
「いや、とにかく調査の様子を見ような。」
だって昔からお前ちょっと怖いトコあるじゃないか。
同じ兄弟だというのになんでこんなに性格が違うんだろう?
オレは明日の調査が普通のモノであるように、調査官のためにも祈った。


翌朝、アルと相談をして用意を終えたところに調査官が現れた。
通常通り調査官は二人だ。
一人は『アーチャー』という統括官でもう一人は連絡を寄越した『キンブリー』という調査官だ。
アーチャーというヤツはこないだ税務署でショチョウと話していたヤツだった。
法人課税部門かと思ってたら個人課税部門だったのか。
調査のことでもめていたな。

調査に慣れている調査官でも喜ばれないことはよく知っているので、結構構えてくる。
オレは親父と同様、始めに何気ない言葉を掛けるように心がけている。
今回も同様に自分から口を開いた。
「今日は晴れているのに冷えますね。これからもっと寒くなるんでしょうが。」
当たり障りの無い言葉だ。
(これは同時に自分のペースで調査を進めるという利点も伴う。)
しかし今回の調査官はそれで和む雰囲気は見せなかった。

「初めまして。エルリック先生。噂に違わぬ美貌ですな。」
アーチャーというヤツが口を開く。
あ?
なに言ってやがるんだ?
言葉を継げずにいると
「これでは男性でも惑わされることでしょうね。」
キンブリーと名乗ったヤツもニヤニヤと笑いながら言う。
ふーん。そういうことか。
少しこの調査の実態が解った気がした。

「なんのことか解りかねますが、こちらが私の過去3年間の資料です。」
調査官の前に置かれた段ボール箱を指し示す。
それには手を触れず、アーチャー(もう呼び捨てでいいだろう。)が
「マスタング署長と懇意になさっているようですね。」
キンブリーに負けずニヤつきながら言う。
「さあ?無料相談などで何度かお逢いしましたが?」
こいつらが何を言いたいのか解るまではかわしておく必要がある。
「隠さなくてもいいでしょう。先生が署長といい仲なのは解っているんですよ。
 こんな風にね。」

キンブリーが胸ポケットから数枚の写真を出してオレの前に投げる。
ショッピングセンターのスーパーだろう。
オレの腰に腕を廻した男とオレの写真。
次のはオレを抱きかかえた男の写真。
それとこれはヤツの家の玄関だろう。
オレがドアから顔を出している写真。
ご丁寧に表札に『マスタング』と『エルリック』の名前が並んでるところまで撮ってやがる。
ああ。あのピンポンダッシュ失敗はこの為だったのか。
オレは溜め息をついた。

「その足を開く度にどれだけの調査をまぬがれているんですかね?先生。」
下卑た言葉が聞こえた。
オレは何も言わなかった。
ただこいつらの要求がなんなのか解るまでは下手なことは言えない。
黙って顔を見つめているとアーチャーが口を開いた。
「先生はご存じですかね。
 マスタング署長が今度国税庁に引き上げられることになったのですよ。
 しかし、こんなスキャンダルがあってはどうなのでしょうね。
 むしろ降格すら有り得るでしょう。」
オレは確認のために口を開いた。
「…スキャンダルとは?」
「税務署長が男の、それも税理士を愛人としていることですよ。
これは癒着と言われてもしかたがないでしょう?」
ふ、とオレは笑った。
それにこいつらは過剰に反応した。

オレはそれに気付いてもなんの気後れもしなかった。
そもそもこいつらは3つ間違いを犯した。
1つは『仕事の場』でオレにこんな話を持ちかけたことだ。
オレは確かに直情型だが、仕事となれば話は別だ。
冷静に対応する自信がある。
でなきゃ調査などこなすことはできない。

「それで?」
オレは足を組み、両肘をテーブルに突いて指を組んだ手を顎の高さまで上げる。
余裕と威圧感を与えるポーズだ。
この時、背筋は伸ばし、手を顔に付けないで少し前に離しておくのがポイントだ。
顎を引き気味にして口元を見えなくするのもいい。
「それが今回の調査内容ですか?
 先程から拝見していると、あなた方は私の帳面や元帳には興味がおありでは無いようだ。
 こちらは信用商売です。税務署長と癒着しているなどと言われては営業妨害に当たりますね。
 しかも私の個人的なことに触れるばかりか、男の愛人呼ばわりですか。」
ニヤリ、と笑ってやる。
さあ、お前等の要求を言えよ。

「いや…。先生はこのことが知れても困らないと?」
キンブリーが少し狼狽えたのが解った。
「このこととはなんなのでしょうね。
 キンブリーさん、でしたか。
 あなたは何を仰りたいのですか?」
ぐ、と怯んだキンブリーとは対照的に余裕の笑顔でアーチャーが言う。
「税理士と癒着していると知れたら署長はどうなりますかね。
 それに、今回の調査により先生の顧問先すべてに我々が調査を入れるとしたら、先生もお困りになるのではありませんか?」
オレのお客さん全員に調査を?

「…それはカイーヅ事件をもう一度おこすと言うことですか?」
カイーヅ事件とは、今や大手の会計システムを作ったカイーヅさんという税理士の顧問先全てに、税務署が嫌がらせで調査を入れた事件のことだ。
それにより、カイーヅ先生の顧問先はほとんど去っていった。
しかし全部の顧客の追徴税を合わせても2万センズにしかならず、時の大蔵大臣が謝罪のため辞任し、カイーズ先生は冤罪を晴らした。
オレ達はその会計システムを採用していなくてもカイーズ先生を尊敬している。

「先生の調査により、と申し上げているんですよ。」
アーチャーのイヤったらしい言い方に、オレはワザと怯んだ様子を見せてやる。
「どんな調査結果なら、そちらのお気に召すのですかね?」
じっと見つめ合う。
「…署長に国税庁への出世を諦めて戴けるよう、助力戴けますかな?」
「その代わりに貴方が国税庁へ行かれると?」
そんな簡単に行くモノなのかはオレには解らないが、こいつは根回しをしているのかも知れないな。と思った。
「それは先生のご心配の及ぶ範囲ではありません。」
「…そうですか。」

オレは俯いて肩を落としてみせる。
「オレが言って変わるモノかは解りませんが、とにかく国税庁への招聘を断らせればいいのですね?」
くっ、とキンブリーが笑ったのが解った。
「それで、私の顧客への調査はしないで戴けると?」
すがるように言ってみる。
エサに食い付いたように。
「ええ。先生がご協力戴けるのなら。」
嘲るようなアーチャーに、オレは念を押す。

「解りました。協力します。ですから、どうかよろしくお願いします。」
「それでは今日はこれで失礼しますよ。」
「お疲れ様でした。」
勝ち誇ったように言う二人にオレは深々と頭を下げる。
舌を出しながら。


調査官を送り出すと隣の部屋からアルが出てきた。
「なんだ。結局自分の出世の為だったんだ。」
つまらなそうだな。アル。
お前が望んでる事件ってどんなだ?
家政婦が暗躍するようなヤツか?

「まあ、ここんとこあいつが悩んでた理由は解ったよ。」
オレとオレのお客さん全員の調査を人質にされて動けなかったんだろう。
「兄さん、本当にロイさんに国税庁に行かないように説得する気?」
「…他になにが出来る?っていうかさ、あいつ元々国税庁なんか行く気ないぜ?」
そう。
あいつ等の間違いの二つめは男の『出世に対する考え方』だ。
オレは男が出世に興味が無いことなど解っている。
それを知らなかったことだな。

「なんで?ロイさんにとって出世でしょ?」
ああ、アル。お前でも解らないか?
「なあ。アル。国税庁とセントラル税務署、どっちがこの事務所に近いよ?」
少し思案顔になった後、ぷ、とアルが吹き出した。
「そおかぁ。ロイさん、国税庁なんか行く気ないよね?」
「だろ?オレの事務所から遠い職場なんてあいつが選ぶはずないんだよ。」
オレも笑って言う。

「でもさ、兄さんはあれでいいの?あいつらのいいなりになって。」
「あのな。アル。
 あいつらがカイーヅ事件の再現を狙うとしたらどうなる?」
「あの時はほとんどのお客さんが居なくなったって聞いてるけど。
 ボク達は信頼関係を築いてきたんだから、お客さんはいなくならないかも知れないよ?
 追徴税額だってそんなに出ないはずだし。」
「そうしたら、どうなる?
 事件の時、税務署、いや国税庁側はどうなった?」
「大蔵大臣が辞職した。…今回はロイさんが!?」
「ああ、そうだ。カイーヅ事件ほど公にならなくても税務署長は辞任せざるを得ないだろ?
 ついでにオレの事務所もつぶせてヤツらは一挙両得ってことだ。」

そうだ。
ヤツらが描いたシナリオはオレの事務所から顧客を去らせ潰させて、ついでに男を辞職に追い込むと言うところだろう。
あいつの為ならオレがここで我慢するなんてどうってことない。
「もしお客さん全員に調査が入ることになったら、アル、お前税理士の登録をして事務所を開け。
 もうお前は登録が出来るんだから。
 オレの事務所をやめるっていうお客さんを、お前の事務所で引き取ればいい。」
「兄さんはどうするのさ?」
「ん?お前の事務所をパートで手伝うかな。
 いいじゃないか。パート勤めの主夫ってのもさ。」
へら、と笑ってみせる。

「兄さん、今回はまだボクが被害に遭った訳じゃないから、兄さんが放っておけというならそうするよ。
 でもね。この間のロイさんの事故、運転手は金で動くチンピラだったそうだよ?」
ぴく、と眉が動いたのが解った。
「あ?アル?どういうことだ?」
「ロイさんを轢こうとしたヤツは、雇われていた可能性が高いってことだよ。
 ホークアイさんに言わせると、どうもそれはキンブリーが怪しいって。」
ほお。
オレからあいつを金で奪おうとしたヤツが?

「…それは本当か?」
「うん。それとね。興信所の調査によるとキンブリーは随分金に困っているようだから、その金はアーチャーから出ていそうだよ。
 キンブリーのマチ金の借入明細、見る?」
いつの間に、という疑問はこの際おいておこう。
オレがこの手のことでアルに敵うわけがないんだから。
「アル、あの二人、お前の好きなように叩きのめしていいぞ。
 オレが許す。」
「うん。どこまでやってもいいよね♪
 社会的生命を絶ちきるまでやっても♪」
どうしてそんなに嬉しそうなんだろう。
オレはちょっと、ちょっとだけあいつらに同情した。

「とりあえず、今回の調査内容で税理士会から抗議をしようぜ。
 税務署全体でなく、あの二人に。」
もうオレ達は攻撃モードだった。
「そうだね。兄さん。キンブリーは女のセンでもかなり叩けばホコリが出そうだしね。
 アーチャーは出世街道を来たけど、ちょっと人に言えない趣味があるから、そこで叩こうか?」
「…。」
いや、オレも勿論攻撃モードだけど。
でも…。
アル、お前オレと一緒に育ってきたよな。
どうしてそんなに怖いんだ?
お前の前世はなんなんだ?
つくづくこいつは敵に回したくないと思った。


昼時にいつものように男が来た。
「あんたが最近悩んでたのって、アーチャーとキンブリーってヤツのこと?」
食べながら聞くと男は驚いた。
「なぜセンセイがそれを?」
オレは写真を取り出し
「センセイ!これは!?」
驚く男に笑って見せた。
「ん?今日そいつらがオレの調査に来てさ。
 記念に貰った。
 仲々映りがいいよな。これ、写真立てに入れて飾っておこうぜ。」
中の一枚、男がオレの腰に手を廻して買い物をしている写真をひらひら振った。

「しかしこのままでは…」
「いいじゃん。
 オレのお客さんは、調査を入れ続けられてもそうそうやめたりしないと思う。
 もしお客さんが誰もいなくなってオレの事務所がつぶれたら、専業主夫してやるよ。
 あんた公務員だから生活は保障されるしな。
 ショチョウがクビになったら、その時は訴訟でもなんでも起こしてやろうぜ。
 オレは勝つ自信がある。
 …オレ以上にアルがあいつらに落とし前を付けてくれるだろうし。」
へへっと笑ってやる。
なんてこたぁないんだよ。
オレ達が二人でいるんならな。
「は…。センセイには敵わない。」
男が苦笑する。
うん。
きっとこいつよりオレの方が強い。
こいつの弱点はオレだけど、オレの弱点はこいつじゃないから。

そしてあいつらの最後の間違い。
それはオレ達が用心深いと知らなかったことだ。
オレは男にMDとDVDを渡す。
アルがDVDハンディカムとMDレコーダーを仕掛けて、隣の部屋で操作していた。
「これにあいつらが事務所に来てからの映像と音声が入ってる。
 どんな調査内容だったか、証明できるぜ。
 まぁ、これじゃ裁判の証拠書類には該当しないけどな。
 あいつらを追い込むことはできるんじゃないの?
 これのマスターはアルが持ってる。」
男は絶句している。

考えて見りゃ、男が仕事なんかで落ち込むはずはなかったんだよな。
こいつがあんなに沈んでたら、それはオレ絡みの他はなかったんだ。
もう少し早く気付いてやればよかった。

「もうあんたにハンディはないぜ?
 さあ。反撃ののろしをあげろよ。」
オレは男に笑って見せた。




Vol.35

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