F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.30
「遊 脇道」Act.30
08.12.24up
「でさ、兄さん。」
「んー?」
翌日、2人ともオフコンに向かいながらいつもの軽口を交わしていた。
「結局ロイさんの浮気はどうなったの?」
アル、お前以外とデバガメだな。
「ああ。オレも悪かったしな。
 不問ってことで。」
ちょっと誤魔化し入ってますね。はい。

「ふーん。ホントに?」
アル、お前鋭すぎ。
「ああ。オレも子供じゃないしな。
 ま、あいつも二度としないって言うし。
 今回は赦してやろうかなと思った訳だ。」
「ロイさんを酷く責めたりしなかった?」
クドい!
ってか鋭い!

「ああ、ちょっとは口論になったけどな。
 ま、オレも悪かったんだから仕方ないじゃん?」
「で、媚薬の効果はどうだった?」
どうしてそこに結びつけるかな?
「あ、あれは使ってないぜ?
 あんな怪しいモン、あいつに使えるかよ。」
ひー。これってなんだか拷問。

「どの位の時間で効果が出たの?」
だからどうして使ったって前提で話を進めるかな?
「使ってねぇって!」
「やっぱり乱れた?すごく感じてた?」
「使ってねぇって言ってるだろ!?」
「ロイさんがアレはどこで買ったのかって聞いてきたよ。
 一つ欲しいってさ。」
はいいいいい!?
「な訳ないだろ!?あいつは憶えてないって言って…!」
はっ!
嵌められた…。

オレはキーボードに突っ伏した。
ぴーーーー、と電子音が響く。
「兄さんって、単純だよね。」
お前が溜め息を付くなーーーー!!!

「黙ってろよ?絶対だぞ?」
オレはしつこく薬の効果を知りたがるアルに念を押す。
「あいつもそうだが、特にウィンリィやシェスカ、ああ、母さんにもな。」
「解ってるよ。ボクが使うとしたら他の女性にだしね。」
アル、お前はなんの安心も兄ちゃんにくれてねぇぞ?

「で?どうだった?」
「ああ。効果はあったよ。すげえ感じてた。」
「どの位の時間で?」
「別に観察したい訳じゃなかったけど、結局触りもしないで放っといて10…15分ってとこかな。」
「放置プレイか。兄さん結構鬼畜だね。」
「事情が事情だったから怒ってたんだよ!」
ああ。最早苦しい言い訳?

「薬が抜けるまではどの位かかった?」
抜けるまで?
「え?どうだろ?
 薬が効けばいいんじゃないのか?」
何が知りたいんだ?

「あのさー。泊まりでなら時間はどうでもいいけど、休憩で家に帰すんだったらどの位で覚めるのか解ってないとマズいでしょ?」
アル、鬼畜はお前の方じゃないのか?
いや、違うか。そういう気遣いも大事かもな。
…媚薬を使う時点で気遣いもナニもないとも思うが。

「あー。結構覚めるまで時間掛かったかも知んねぇ。
 随分時間が経ったのにまだ切れてないって思ったからな。」
「大体何時間か解る?」
「んー。ちゃんと計って無かったからなー。」
「2時間では?」
「あ、それは無理。そんな早くなかった。」
「そうか。じゃ、普通の休憩じゃ使えないわけだ。」
結論が出たのか?
オレはお前の行動が心配だよ?

そんなことを話しているとサイレンが響いてきた。
「? 火事か?」
オレが思ったときにはアルが既にネットで場所を特定していた。
「兄さん、税務署の近くが火事だって。」
「近くって、どの位だ?」
「んー。1ブロック離れてるかな。
 税務署はコンクリだし延焼はないだろうけど。」

火事…。
あいつは焔が苦手だ。
もしかしたら今頃取り乱しているかも知れない。
オレ以外の前であんなに不安定になったら仕事上でもマズいだろう。
「アル。火事とケンカはセントラルの華だ。
 悪いけど、見に行ってもいいか?
 オレ、生粋のセントラルっ子だからさ。」
「はいはい。ロイさんが心配なんでしょ?
 いい年した大人が近所の火事でどうなるとも思わないけどね。
 いってらっしゃい。」
アルの許しを得て、オレは税務署の方へ駆け出した。

税務署に近づくにつれ、野次馬が多くなってきた。
税務署よりも事務所側の住宅が炎上している。
その焔は思ったより大きい。
男はどこにいるんだろう?
税務署にいて火事に気付いていなければいいが、こんな近くではそういう訳にもいかないだろう。
気付いていても、出てきていなければいい。

ああ、先に電話をすればよかった。
思わず前後も考えずに飛び出してきちまったな。
そんなことを考えていると見知った後ろ姿が見えた。

なんでここにいるんだ!?
あんたは焔が苦手なんだろう?
とにかくここから引き離さないと。
そう思って駆け寄っていった。

もう少しで後ろ姿に手が届くかと思われたとき、オレは突然眩暈と共に既視感に見舞われた。
それでも男を護りたくて視線をその背中に向ける。

その時吹いてきた風に男のコートが捲れあがった。
空に立ち昇る焔の前に男が立っている。
前方に伸ばされた手にはきっと錬成陣の描かれた白い手袋が。
そのブレた既視感がオレの口を開かせ、言葉を紡がせた。
「大佐!」

叫んだ呼びかけにぴくりと肩を揺らし、ゆっくりと男が振り向いた。
「今…私をなんと呼んだのだね?」
あ…?
『タイサ』?
『ショチョウ』じゃなくて?
でも…。こいつをオレは…。

応えないオレに
「鋼…の?」
探るような瞳で言葉が告げられた。
『鋼の』
それはオレの…。

「…大佐?」
男がオレを凝視している。
「鋼の。私の地位は?」
ロイ・マスタング。
地位は…。
「…アメストリス国軍…大佐。」
「二つ銘は?」
「…焔…の錬金術師」
「思い…出したのか?」
思い出す?
ナニを?
でもこの記憶は…?

いや、今はそれどころじゃない。
「っ!大佐!それよりこの焔は!?テロか!?」
だとすれば大佐が指揮を執っているのだろう。
「なあ!オレに手伝えることはなんだ!?
 指示をよこせ!」
「落ち着け。鋼の。
 今のアメストリスにテロなど日常にはない。
 これはただの火事だ。」
火事?
ああ。そうなのか。
そういや、中尉が見あたらない。
咥えタバコのハボック少尉も。

「しかしこんなことで思い出してくれるのなら、さっさとその辺に放火でもすればよかったな。」
うむ、とアゴに手を当てて物騒なことを呟く。
「いや。あんた、それ犯罪だから。」
オレの突っ込みに
「君も私も最大の禁忌を犯した咎人だ。
 今更犯罪の一つや二つ何だというのだね?
 まあいい。行こう。」
オレの手を取り歩き出す。

いや、今更犯罪のって。
オレは困るよ。
資格剥奪になるってば。

「おい!ここ放っといていいのか?」
「火事は私の管轄ではない。消防署の仕事だ。
 大体ここにいて何が出来るというのだね?
 私も君も今は錬金術を使えない、ただの無力な民間人だ。」
どこに連れて行くつもりだ?
「いや、あんた公務員だから。」
「それを言うなら君も国家に身分を保障されている以上、半官半民だ。」
そうか。そうだな。

「くくっ!」
笑いが込み上げてきた。
「鋼の?」
「いや…あんたが軍人で、オレが国家錬金術師だった頃とよく似てるなって…。」
まだ喉からくっくっと笑いが洩れる。
「ああ。そうだな。」
確かに、と男も笑う。


連れてこられたのは税務署の署長室だった。
「ホークアイ君。
 これからエルリックセンセイと相談があるので席を外してくれないか?」
先に部屋に入ったショチョウの声が聞こえた。
オレも後から入っていく。
署長室に入るのは初めてだ。

「エルリック先生。こんにちは。」
ホークアイさんが笑顔で迎えてくれる。
「あ、こんにちは。失礼します。」
挨拶をしながらしみじみと納得した。
…怖いと思ったわけだよな。
中尉、怖かったモンな。
「ではお茶をお持ちします。」
「ああ。頼むよ。」

オレは促されるまま、ソファに腰を降ろした。
「ここって…。」
「ああ。君がここに入るのは初めてだな。」
向かいのソファに座った男も部屋を見回す。
「ああ…。そっくりだ…。」
署長室は大佐の執務室にそっくりだった。
机や棚の配置も、広さも。
窓はちょっと位置と大きさが違うけど。

ホークアイさんが紅茶を持ってきてくれ、そのまま部屋を出て行った。
「ご相談の時間の分、残業してでも今日中に書類は仕上げて戴きますから。」
と釘を刺すのを忘れずに。

「中尉も変わらないな。」
2人になって、思わず感想を述べる。
「いや、以前は命を掛けて守ってくれたが、この時代ではそんな意義もない。
 上官いじめに明け暮れているよ。」
苦笑混じりに言うが、それでもずっと秘書官として側に置いているのはそれなりの理由があるのだろう。

「そういや、あんた。大丈夫だったのか?」
「ん?何がだね?」
紅茶を飲む男は安定しているようだ。
「焔、苦手って言ってたろ?
 あんたが取り乱してんじゃないかと思って。」

ああ、と気が付いたようだ。
「心配を掛けてすまなかったな。それで来てくれたのか。有り難う。
 そうだな。
 …なんだか吹っ切れたのかも知れない。」
「?」
「あれだけ大きな焔だ。
 私も自分がどうなるかとは思っていたのだが、却って自分が作りだしたものではないと実感できたよ。
 勿論思う通りに操ることもできなかったしな。
 今まで小さな焔しか見ていなかったから、その方が厭な想像力を掻き立てていたようだ。」
薬を飲んでいるせいもあるんだろうが、笑う男の顔は本当に穏やかだった。

「苦手なモンが一つ減ったか。
 よかったな。」
「ああ。ありがとう。
 ところで、君の方は全て思い出したかね?」
男が身を乗り出してくる。
「んー。どうなんだろう?
 オレは人体錬成の禁忌を犯して、アルの躰とオレの右手と左足を失った。
 取り戻すために賢者の石を求めて旅をしていた。」

「そうだ。…私とのことは?」
大佐とオレは…。
「こ…恋人同士…だった。」
そうだ。
やっぱりオレが探していたのはこいつだったんだ。

「…初めて口づけたのはどこだか覚えているかね?」
「えと、あんたんち。オレが夜に好きだって言いに行って。」
「初めて触れ合ったのは?」
「執務室…だよな。あのあと喰ったメシが美味かった。」
「私を抱いたのは?」
「それもあんたんち。あ、あの翌日、熱出してたのか?」
オレは翌朝すぐに旅に出てしまったから知らなかった。

オレの質問には曖昧に笑って応えず
「思い出してくれたようだな。
 …長かったよ。」
両手の指を組んで顎に当て、オレを見つめている。

「あー。10年かかっちまったな。ごめん。
 あんたはずっと前から覚えていたのか?」
「ああ。物心ついたときには既にな。」
「そりゃ…本当に待たせちまったな。」
「いや、いいんだ。思い出してくれれば。
 嬉しいよ。
 おかえり。鋼の。
 …エドワード。」

嬉しそうに笑ったかと思うと立ち上がり、テーブルを廻ってオレを抱きしめてくる。
ああ、こいつが『エドワード』と呼んでいたのは昔のオレだったのか。
いや…昔も『鋼の』としか呼ばなかったよな?

「初めて…名前で呼んだよな?」
オレの首筋に顔を埋めている男に聞く。
「ああ…。君が躰を取り戻して、側に引き留めても許されるようになったら呼ぼうと思っていた。」
やっと呼べたよ、と言う声は震えていた。
「あんた、泣いてる!?」
触れている肩も背中に廻された手も震えている。

「…ただいま。大佐。
 オレもずっと言いたかったことがあるんだ。」
「? なにを?」
顔を上げないまま聞いてくる。
オレもやっと言えるんだな。

「あのさ。ロイ。
 オレ、あんたを『愛してる』。」
ぴくり、と男の躰が揺れた。
「エドワード?」
顔を上げてオレを見る黒い瞳には涙が溜まっている。

「オレもさ。旅が終わって、ずっとあんたと一緒にいられるようになったら言おうと思ってた。
 オレはあんたを『愛してる』。
 …やっと言えたよ。」
「エドワード…。」
目蓋を伏せた拍子に涙が零れて頬に伝う。
それを唇で受け止めると小さく笑う。
それでも後から涙はどんどん溢れて。

「泣くなよ。ほら。」
言うオレもいつの間にか泣いていた。
なんだか本当に久しぶりに大佐に逢えてホッとしたんだ。
「エド…エドワード…逢いたかった。
 ずっと…待ち侘びていたよ。」
逃がさないとでもいうように、オレの頭を胸に抱いて腰に手を廻し強く抱きしめてくる。

ここのところ、男を抱きしめることはあってもこんな風に抱きしめられることはなかった。
それが大佐らしくて懐かしい。
ああ、そうだ。
これがいつもオレを見守って導いてくれた大佐だった。
偉そうで嫌味で余裕綽々で、強くて優しい人だった。

そのまま2人で居続けることもできず、オレはしばらくして事務所へ帰った。
家に帰ったらお祝いをしようと笑う男にキスをして。

「おかえり。火事はどうだった?」
「…美人な猫は保護者だった。」
「は?」
「あ、いや。なんでもない。」
そういえば火事はどうなったんだろう。
まあ、消防車が出ていたから大丈夫だろう。


オフコンにだかだかと入力しながら男のことを考えていた。
大佐とショチョウは同じ人間だけれど違う。
大佐は強い人だった。
心に闇を、傷を抱えてはいたけれど、それを内抱したまま地にしっかりと立って焔のように苛烈な瞳で前を、上を目指していた。
オレは大佐を護りたいと思っていたけど、結局護られてたのはオレの方だった。

ショチョウは儚い。
壊れた精神を抱えて表面を必死に取り繕っている。
精神安定剤で平静を保つなんて、大佐には考えられなかった。
大佐の元々持っていた心の闇はああいうもので、それが表面化してしまっているんだろうか。
オレに縋っていつも不安そうな影を抱える瞳は大佐にはないものだった。

時代のせいもあるのかも知れない。
この平穏で平和ボケした現在では、あの頃のようないつ殺されるか解らない不安はない。
国を、国民を平和で幸福にするために戦う必要もない。
強い野望を持たない状況がショチョウの、元々大佐の持っていた闇を表に引き出してしまったのだろうか。


昼になり、男が弁当を持って事務所に来た。
食事をしていると
「あ、そうだ。ウィンリィ達がこれを渡してって。」
アルが冊子を一冊ずつオレ達に渡した。
同じもののようだ。
「あ?なんだ?これ。」
「ウィンリィ達が描いてる同人誌。モデル料と相殺で代金はいらないってさ。」
誰が払うか!

タイトルは『遊 vol.1』とある。
遊びで作ってるからかな。
つか、vol.1って、これ続くのか?

「これがオレが『受け』の話か。」
「母さんはこのシチュエーション結構気に入ってるみたいだけどね。」
ぱらぱらと捲るとどうやら前後にマンガが入り、真ん中は小説のようだ。

「誰がなにを担当しているのかね?」
男は楽しそうに読んでいる。
読みたいか?こんなん。
自分たちの捏造ホモ話だぞ?

「原案とマンガはウィンリィ、小説の文章はウィンリィの原案をもとにシェスカが書いてるんですよ。」
「なかなかよくできているな。」
男が感心するほどのものなんだろうか。
オレもつられて少し読んでみた。

いきなり確定申告の無料相談の話から入っている。
これはアルからの情報だな。
って、待て!
税務署長と税理士って、まんまじゃねぇか!
ホークアイさん達だって設定は捻ってるぞ?

「おい!これマズいだろ!?オレ達って解っちまうじゃないか!」
絵だってプロ並みとはもちろん言えないが、しっかり特徴を捉えている。
「いいじゃないか。別に解ったところで困ることもない。」
男は鷹揚に構えている。
…そういうものか?
少なくともオレはお客さんにバレたらヤだぞ?
まあ、お客さんがこんなモンを読むとは思えないが。

「あれ?登場人物の名前、ホークアイさん達のと同じじゃないか。
 これっていいのか?」
主人公達の名前が『ヒデオ・マスダ』と『エトヴァルト・オカダ』になっている。
「ああ、それはちゃんと許可を貰ってるよ。」
「許可って…ホークアイさん達にか?」
どうやって?
ウィンリィ達はホークアイさんと繋がりはないだろう?

「そう。ねえ。ロイさん。」
「ああ。是非この2人を広めてくれと二つ返事だったよ。」
「あんたがホークアイさんに聞いたんかい!?」
「ああ。アルフォンス君を通して頼まれたのでな。」
どうなのよ?それ。
自分のホモ話が広まって嬉しいか?

「なかなか良く調べてあるな。これはアルフォンス君からの情報か?」
男が熱心に読んでアルに聞いている。
「あ?なにが?」
くすくすと笑いながら本の一箇所を男が指差す。
「私が生のセロリを食べさせられているぞ。
 ここに昼を食べにも来ているしな。
 ああ、跪いて君に愛の告白をしている。
 これがシェスカ嬢の『跪きを入れる。』と言うことだったのか。」
「あんたオレにそんなこと…こないだウィンリィに謝ってたヤツか。」
「細やかに真実を織り込むのがミソだって熱弁してたからねぇ。
 『跪き』はかなり腐女子のツボにハマったらしいよ。」

オレも読んでみたけど、ナンだこりゃ?
「途中からまったく真実と違うじゃねぇかよ。
 オレはこんな情けなくねぇぞ?」
「それは兄さんが『攻め』と知らずに書き始めちゃったからね。仕方ないでしょ?」
「納得いかねぇ。ウィンリィは今家にいんのか?」
「ああ。今日は機械鎧の納品が終わったから、続きを描きに来るって言ってたよ?」

オレは電話を掛けた。
母さんがウィンリィに取り次いでくれる。
「エド?どうだったぁ?」
「どうじゃねぇよ。おま、もう少し設定捻れよ。
 これじゃオレ達バレバレじゃねぇか。
 それとな、ショチョウはこんな無理矢理にヤるような男じゃない。
 もっとオレのこと考えてくれんだよ!
 だいたいなんだ?この弱っちぃオレ様は!
 こんな女々しくねぇぞ?」
「うるさいわね。あんたが『攻め』ってわかんなかったんだからしょうがないでしょ?
 『受け』はかわいっぽく描く方が受けるのよ!
 大体ナニ?あんた文句が言いたいの?それともノロケたい訳?」

「お前にノロケたって仕方ねぇよ!
 ただな、こいつはこんな無理矢理なことしねぇっつってんの!
 いつもオレのことしか考えてないんだよ!
 それに美人に描けっつったろ?」
「それがノロケだって言ってんのよ!
 忙しいんだから切るわよ!」
「忙しいって、素人のホモ話描きじゃねぇか!
 とにかくショチョウはもっと美人に描け…」
ひょい、といきなり受話器を取られた。

「ああ。ウィンリィ嬢?
 作品を拝見したよ。
 なかなかよくできているね。」
「…。」
「ああ。そうだな。構わないよ。ところで、センセイのこの3ページ目の絵なんだが、もう少しセンセイは綺麗だ。」
「…。」
「そう。躰ももっと綺麗だよ。」
「…。」
「いや、それはできないな。センセイは私のものだ。お断りするよ。」
「…。」
「ああ、そこのところのセリフなんだが、センセイはこういう状況ではもう少し強がるんだ。」
「…。」
「そうそう。そこはもっと優しいし、可愛いね。
 それから…。」
事細かに注文を付けてやがる。
これにはオレもアルも呆れてしまった。

「兄さんたちって…似たもの夫婦だよね…。」
アル、まとめるな。
まとめないでくれ!






強引に『遊』本編にリンーク♪
無理が出てきそうです。

とりあえずウィンリィたちの冊子『遊 vol.1』にはこちらの『遊 vol.1〜vol.13』くらいまでの内容が入っているということでお願い致します。


「遊」vol.38にも書いたのですが、ショチョウが『エドワード』と呼ばないことと、センセイが『愛してる』と言わない理由はエドロイSS本編の
『フソク』
『摂取 Turn R』
『摂取 Turn E』
に書いてございます。
未読の方はそちらもお読み戴ければと存じます。


Act.31

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