F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) > 「遊」vol.38 (これで完結です)
「遊」vol.38 (これで完結です)
08.12.17up
「ぁあああああ!!! 兄さん、大丈夫なの!?」
病院で治療を受けて男に送られてきたオレを見て、アルは逆上した。
「ああ。4針縫っただけだから大したことねぇよ。」
余裕で返したんたが。
「手に怪我をするなんて!
 もう!足だったら何本怪我しても仕事に差し支えないのに!」
おい。アル。
オレの足は2本しかねぇよ。
つか、お前の心配は仕事のことだけか?
まぁ、この時期だから仕方がないが、兄ちゃんちょっと寂しいよ。

「大丈夫だ。元々電卓は左手だし、字も左手で書ける。」
「兄さん!テンキーは右手で打つんだよ!」
そう。オレは両利きで左手でも字が書ける。(汚ねぇけどな。)
ま、右利きでも税理士は電卓を左手で打つ人が多い。
電卓の結果を(ペンに持ち替えずに)そのまま書けるからだ。
不思議なことに電卓を右手に持ち替えると数字の『4』と『6』を打ち間違えるのだが、PCのテンキーを右手で打っても打ち間違えることは無い。

…テンキーが打ち込めないのは確かに今時期は痛手だな。
いや、でも手首を固定すれば指は動くから大丈夫だろう。
「すまん。アル。でも入力はできると思う。…たぶん。」
オレの手を見て、アルが溜め息をつく。
「兄さん、いっそ右手、機械鎧にする?」
「アホウ。手術とリハビリの間に確定申告終わっちま…」
ばちん!
でかい音が聞こえた。
男がアルを叩いた音だった。

「なっ!?」
オレもアルも驚いて声にならない。
「バカなことを言うんじゃない!
 機械鎧がどれだけ躰の負担になるか、君たちはよく知っているだろう!?」
ナニを本気で怒ってるんだ?
「おい!アルだって冗談で言ってんだよ。解るだろ?」
頬を抑えたアルの肩に手を回して言う。

「それでも…君が兄の腕をなくそうなんて…。」
こいつのこの異常な恐怖心ってどっから来てんだ?
俯いてしまった男の方が傷ついて見える。
確かにオレ達はウィンリィやピナコばっちゃんの仕事を見てるから、他の人よりは機械鎧の大変さを知っている。
けど、ちょっとした冗談じゃないかよ。

「…ごめんなさい。」
ああ、ほら。アルまでマジになっちまった。
「いや。…私こそすまなかった。」
男が顔を上げた。
うわ。なんだよ!その酷い顔!
男はアルに手を伸ばそうとしてそれを躊躇って降ろす。

「おい。気にすんなよ。二人とも。」
オレは男がしたかったんだろう通りに、アルの頭をがしがしとかき回した。
「あー!兄さん!ナニすんのさ?
 折角セットしてあるのに!」
「なーにがセットだ!こんな短い髪なんざほっとけ!」
「あのねー。短い方が整えるの大変なの!
 兄さんみたいに伸ばしっぱなしの無精もんとは違うんだからね!」
ほら。オレ達は平気だから。
あんたも気分直せよ?
「私はそろそろ戻るよ。…アルフォンス君、すまなかったね。痛かっただろう?」
そっと男がアルの髪に触れて整える。
「いえ。ボクこそ本当にすみませんでした。」
「私が言えたことではないが、気にしないでくれたまえ。」
どこか痛むような顔で微笑んで男が去っていった。

「あんなに怒ったロイさん、初めて見たよ。
本当に兄さんのこと大切に想ってくれてるんだね。」
オレにも改めて謝ってからアルが言う。
そうか。
アルはいつもの穏やかなアイツしか見たことないんだ。
「ん…。あいつ、怒るとすげぇ怖いんだぜ。
 さっきキンブリーのこと、殺しちまうんじゃないかと思ったくらいだ。」

いや、実際キンブリーの命は近々無くなるかも知れない。
男が連絡していたのは例の闇金で、すぐにその筋の者と解る連中がヤツを連れ去った。
利息法なんか『へ』とも思わない連中だ。
きっと借りた金額の数百倍に借金は膨れ上がっているだろう。
1万センズ借りて、それが数週間後には100万センズになるのが闇金の世界だ。
そこに平気で人を送り込める精神がオレには恐ろしい。
オレに対するそれほどの執着心はどこから来るんだろう?


それからはなんとかオレも入力が出来て毎日仕事に追われた。
今日は確定申告の説明会だ。(一般の納税者ではなく、会計事務所に対して税務署が毎年行うものだ。)
「あー。タルい。手引きだけ貰って来ちゃダメか?」
2時間も3時間も会場に座ってるのがメンドい。
「ダメだよ。兄さんに逢えるのを楽しみにしてるんだから。」
去年年末調整の説明会をブッチしたら今度の無料相談増やされたんだよな。
「でもよぉ。もう一緒に暮らしてんだぜ?どうせ帰れば逢えるのに。」
「それでも兄さんと少しでも一緒にいたいと思うのがロイさんでしょ?」
そうなんだよな。

去年の確定申告の説明会んときは
「君の好きそうな席を取っておいたよ。」
と最後列の席が取ってあった。
『税務署長』の権限で。(んなもんアリか?)
確かに一番後ろの方が寝ててもバレなくていいけどさ。
と思って座ってたら、隣に座ってきやがってずっと手を握られてたんだ。
あんときゃあどうしてやろうかと思ったな。
まさか一年後に一緒に暮らしているとは思っても見なかったぜ。
…今年は手を握り返してやれるな。

そろそろ出ようかとコートを羽織ってマグを運んでたらつまづいた。
誰だよ!
こんなとこに元帳積んどいたの!
…オレか。
コーヒーをもろに被ってしまった。
「兄さん!大丈夫!?」
「ああ。冷めてっからな。しかしどうしよ?」
コートもスーツの上着もコーヒーで濡れてしまった。
「ま、会場は暑いから上着はいらねぇな。」
ベストとズボンで過ごすことにする。

「じゃあコートはボクのを着てってよ。」
アルがコートを渡す。
「あ!?この女物みたいなの?」
襟が丸くて大きくて、母さんのかと思ったくらいだ。
「兄さん似合うよ。」
オレにコートを着せてアルが言う。
似合うかなぁ。
「うん。今日の兄さんの焦げ茶のスーツによく映える。
 これおニューなんだ。よかったら貰ってよ。結婚祝いに。」
「これ貰っちゃったらお前どうすんだよ?」
つか『結婚祝い』って。

「ボクは車だから寒くないし。去年までのもまだ使えるから。」
「や。明日返す。クリーニング出せばいいんだから。」
「じゃあ、兄さんのコートがクリーニングから返ってくるまで使ってよ。
 あ、兄さん。ネクタイにもコーヒーのシミ出来てるよ。」
オレもアルも普段、お客さんに行かない限りノーネクタイだ。
今日は別にあいつに逢うからネクタイをしてきた訳じゃ…ない。
オレはネクタイも外して汚れた服の上に乗せた。
「ん。じゃコート、それまで借りとくわ。行ってくる。」

「行ってらっしゃい。今度こそ『冬季限定ブリッグズのかまくら』、忘れないで買ってきてね。」
こないだ怪我をして買ってこなかったことを根に持ってたのか。
そういえばあん時、
「ごめんなさい。兄さんが無事だったら他のことなんかどうでもいいんだけどさ。」
そう言いながらもオレの包帯を巻かれた右手を見たアルの舌打ちを忘れられない。
アル。お前もしかしてまだ怒ってる?


少し早めに会場に着いた。
受付で出席票と引き替えに確定申告の手引きと説明書を貰って周りを見回す。
少し離れたところで税務職員か税理士会の幹部だろう人達と話している男をすぐに見付けた。
端正な顔と真っ直ぐ伸ばされた姿勢はよく目立つ。
なんとなく会場に入る前に話を出来ればと、その場に立って男がオレに気付くのを待っていた。
焦らなくても最後列の席は取ってあるんだろうから。

ふと男がこっちを見てオレに気付いた。
オレは右手を挙げて笑いかける。
同じように笑い返してくるだろうと思った男の顔が引きつった。
あ?と思っている間にみるみる顔が青ざめて…。
その場で倒れていくのがスローモーションのようにゆっくりとオレの目に映った。

「…長!署長!」
男の周りにいた人達の声がしばらく経ってからオレの耳に届いた。
オレは男に向かって駆け出した。
「署長!大丈夫ですか?」
オレと同様駆けつけてきた人が言ってる。
ああ。ハボックと呼ばれていた兄ちゃんだ。
「ああ。先生。署長はどうしたんですか?」
状況を見ていなかったんだろう。
ハボックさんがオレに聞く。

「いや。オレにも解らない。いきなり倒れたんだ。」
周りの声に気が付いた男が目を開ける。
「おい!大丈夫か?」
話しかけたオレを見た男が、震える手で左目を押さえた。
「は…センセイ?」
「ああ。オレだ。どうした?気分でも悪いのか?」
もう外聞なんかどうでもいい。
オレは男を抱きしめた。
「…大丈夫…だ。」
顔色が悪い。
貧血だろうか。
オレは男のネクタイを弛め、ワイシャツのボタンを外した。

「とりあえず病院に運んだ方がいいっすかね。」
ハボックさんが言う。
「大丈夫だ。うちに…帰る。ハボック、後を頼む。」
頼むもナニも、本来税務署長なんかこの場に必要ない。
「ハボックさん。オレも一緒に帰りますから。」
オレのことをきっとこの人は解っているんだろう。
「解りました。車を回してきます。」
と言って走って行った。
オレは携帯でアルに状況を連絡して、また菓子を買って帰れないことを詫びた。
すぐに車が用意されオレ達は帰宅する。
その間もずっと男は左目を押さえていた。


家について男を寝室で寝かせる。
ここまではハボックさんが男を運んでくれた。
ベッドに横たわって左目を押さえたまま男が言う。
「センセイ。…服を…脱いでくれないか?」
「あ?具合の悪いときに何考えてんだよ!?大人しく寝ろよ!」
「違う…。その服が厭なんだ。」
「は?服?」
いや、確かにちょっと女物っぽいけど、イヤって…。

「コートを脱げばいいのか?」
コートを脱いでベッドサイドに置かれた椅子の背に掛ける。
仕方がない。具合の悪い人間の言うことは聞いてやらないとな。
いや、いつもこいつの言うことは聞いてやってるような気がするが、まあいい。
「ベストも…。」
「はいはい。まさかパンツまで脱げとは言わないよな?」
気に入っている襟付きのベストも脱いで、同じように椅子に引っかける。
「ん…。それはいい。」

相変わらず左目を押さえたままだ。
「眼、どうした?痛めたのか?」
「いや…。違う。でも痛いんだ。」
「痛むんならやっぱどうかしたんじゃないか?見せてみろよ。」
普段我慢強いこいつがどこか「痛い」なんて言うのを初めて聞いた。
「どうもしてない。大丈夫だ。原因は分かってる。
 …君の服がいけない。」
「は?オレの服が気に入らなくて眼が痛むのか?
 そんなに酷い格好だったか?」
もしかして、全部こいつの冗談か?
あり得る。←信用無し

なんだ…と肩の力が抜けたオレにいきなり男が縋ってくる。
「違う!あんな服だった。
 君が去っていった時に着ていたのは。
 …君は私を置いて…行ってしまった。」
「え…?」
なにを言ってるんだ?
酔ってるのか?
「また…また君が私を置いてどこかへ行ってしまうようで…。
 私は…。もう耐えられない。耐えられないんだ!
 …眼が痛い…!」
「どうしたんだよ。オレ、どこにも行かないよ。
 税理士は地域でしか働けないの、知ってるだろ?
 顧客を置いてどこへ行けるんだよ?
 あんたどうしたんだ?」

こんなに取り乱した男を見るのは初めてだ。
いったいどうしたんだ?
誰かと間違えているのか?

ふと突然、以前なんの気無しに男の脇腹に触ったときのことを思い出した。
オレに背を向けてベッドに座っていた男の脇腹に急に触れたくなって(驚くかなともどこかで思っていたんだが)、つっと左手の指を滑らせた。
途端に「ぅあっ!」
と大仰に反応した男が振り向き様
「だからそこは触るなと…!」
と叫んで『しまった!』とでも言いたげな顔をしたんだった。

『だから』なんて言われても、オレはやったこと無かったから
「へぇ。あんた誰にいつも言ってんだよ?前の恋人か?」
ここぞとばかりからかってやろうと思って…。
そして言葉が続かなくなった。
あまりに哀しそうな、まるで泣き出しそうな顔をされたから。

でもそれはほんの一瞬で、すぐにいつものスカした顔で
「おや、妬いてくれるのかね?」
と切り替えされた。
そのままその会話はうやむやになったんだけど。
その時、オレはこいつに忘れられない人がいることを知ったんだ。
きっとその人はもういなくて。
でもこいつはまだその人を忘れてなくて。

そんなことを考えたのを思い出した。
そしていつかの違和感も。
幻になってこいつを哀しませた人がいたこと。
その人だ。
今こいつを取り乱させているのは。
こいつの中にいるのは誰だ?

左目を押さえたまま、もう片方の手でオレに縋り付いている男を見下ろした。
不思議と気持ちは妙に落ち着いていて。
男のうなじに手を回すと、力を入れて引き上げて。
オレはこいつにキスした。
深く深く。
全部奪ってやりたくなったから。
全部忘れさせてやりたかったから。
オレのことだけ考えさせたかったから。

「は…センセイ?」
少し潤んだ瞳で男が言う。
「忘れちまえよ。
 あんた、オレが好きなんだろ?
 オレのことだけ考えろよ!
 オレが全部忘れさせてやる!!」
男に乗り上げて服を脱がす。

戸惑う男にムリヤリのようにオレを抱かせる。
オレだけを感じさせたくて。
「あんたはオレだけ見ていればいいんだ。
 オレ以外の人間なんて考えるな!」
「どうしてそんなことを?
 私が愛しているのは君だけなのに。」

オレを攻めているはずなのに、まるでオレに責められているような男の顔に余計煽られる。
苦痛なんてどうでもいい。
今こいつを感じているのはオレだ。
この男はオレのモンだ。
誰にも渡さない。
今まで感じたことのない独占欲ときっと間違ってない征服欲。
そして…初めての快感。

「っ!」
「つらいのか?センセイ、やめるか?」
男の動きが止まる。
「ちが…。」
男の首に手を回し、顔を近づける。
「やめんな。…もっと。」
深くキスをしながらオレは誘うように腰を揺らす。
「ん…。」
舌を絡めたまま男がまた動き出す。

そうか。
男同士の快感ってこういうのなんだ。
段々感じ始めた嬉しさと興奮でもっと激しく舌を絡めて、飲みきれなかった唾液が首筋に垂れて行く感覚にまた煽られる。
「は…!ぁ…んっ…ぁ!」
意識が翳んでいく。


その朝方見たのは酷い悪夢だった。
「でも…。お母さんはちゃんと作ってくれなかったのね。」
人間ではない造形と血の海。
もぎ取られたように痛む足。
軋む右腕。
なんなんだ!?これは?

「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
目を覚まし、隣に眠る男を抱きしめた。
暖かな体温に心が落ち着いてきて。
そしていつも知っているはずなのに、もっと懐かしいこの男の匂い。
オレの頭の中には今まで疑問にも思わなかった事柄が渦巻いて、それでもぴったりと一つの答えに全てが還っていた。
この夢はかつてのオレの記憶。
いつも隣にいたのは鎧姿の愛しい弟。
そして欠けていたオレの右手と左足。

「どうした?嫌な夢でも見たか?」
オレの仕種に眼を覚ましてオレを抱きしめ、髪を撫でる男に疑問が浮かんだ。
こいつはそもそも始めから知っていたのではないか?
それは最早確信に近かった。
「今、何年だ?」
オレは男に聞く。
「なにを寝ぼけて…。大陸歴2253年だが?」
「くっ!くく…っ!そうか…。もうそんなに経ったんだ。
 機械も発達するよな。それに伴って錬金術は廃れた…か。」
がば!と男が身を起こした。
「思い出したのか!?」
あぁ、やっぱり。
この男は全て知っていたんだ。
覚えていたんだ。

「ああ。思い出したよ。大佐。」
『大佐』
それはオレがかつてこの男に呼びかけた言葉。
「そうか。…大丈夫か?」
なにを心配しているんだ?
「ん…。なにがダイジョウブなのか、わからねぇけどな。」
「つらいとか、痛いとかどこか異常はないか?
 右腕は…左足は痛まないか!?」
相変わらず心配性だな。

そうだ。『相変わらず』だ。
『あの頃』もオレの心配ばかりして。
道理で黒髪で黒い目の人にばかり惹かれていたハズだ。
恋人の面影を追っていたんだもんな。
「オレ、あんたが好きだったんだな。
 オレが…あんたの恋人だったんだな。」
「全部…全部思い出したのかね?
 私と君の…全てを…?」
「いや、すまないけど全部かどうかはわからねぇ。
 でも思い出したよ。あんたの恋人がオレだったって言うこと。
 オレが本当にあんたを好きだったっていうこと。」

うわ。
初めて見た。
この男が泣くトコなんて。
いや…。初めてじゃない。
こいつは結構泣き虫だったじゃないか。
…あの頃も。

「おかえり。『鋼の』。」
震える声で男が言う。
『鋼の』
そうだ。その銘でオレはこいつに呼ばれていたんだ。
なんて懐かしくて哀しい言葉。
「ただいま。なあ、おい。」
男に告げよう。
随分遅くなってしまったけど、今こそ。
「大佐。オレ、あんたを『愛してる』。
 今までも、これからも。
 なぁ、これからずっと一緒にいような。」
「ん…ん。はが…『エドワード』。
 私も君を愛している。昔も…今も…。
 君が帰るのを待ちわびていたよ…。本当に…。」

この男の今までの強気な姿勢が酷く脆いバランスで成り立っていたことを痛切に思い知らされる。
「ごめんな。待たせて。
 これからオレはずっとあんたと一緒にいる。
 昔守れなかった約束の通り。だから泣くなよ。
 オレ、あんたを愛してるからさ。」
「エド…エドワード!」
強く強く抱きしめられる。
限りなく愛しい男に。
あぁ。幸せだ。
随分待たせてしまったけれど、やっとこの腕のなかに還って来られたのだから。




           fine





あー。
やっと終わったぁ。
ああ。まだ『RPG エドロイ』バージョンがありますが。


パラレルのハズでしたが、私の書いておりますエドロイSS本編にリンクです。
いや、もう皆様には途中でお解りでしたでしょうが、ここにひっぱりたかったんです。
しかし『遊』は旧アニメ&映画シャンバラが前提でして、本編のヘタレ大佐受けエドロイSSは原作を元にしておりますのでやはりパラレルと言うことで。


ショチョウが『エドワード』と呼ばないことと、センセイが『愛してる』と言わない理由はエドロイSS本編の
『フソク』
『摂取 Turn R』
『摂取 Turn E』
に書いてございます。
(実は途中からはこれが書きたかっただけなんです。)

ちなみに『遊』話中でショチョウがよく言っていた
「は…」は
『鋼の』と言いそうになって言い直しているつもりでした。

センセイの服は、シャンバラのアレです。



【おまけ】

「オレの記憶がないのをいいことに、ナニ突っ込んでんだよ!?あんた!」
「何を言う!君が厭がったのではないか。」
「…そだっけ?」
「『抱く気はない。』と即答されたり、『ムリ』と言われたり。傷ついたんだぞ!?私は。」
「あー。わりぃわりぃ。そういやそだったな。
 …なぁ、寂しかった?」
「もちろんだ。寂しくて耐え難かったよ。」
「ごめんな。仲々思い出せなくて。あんた、色々努力してくれてたんだよな。
 時計、よく見つかったな。あれオレんだよな?」
「ああ。あれは偶然骨董品屋で見付けたんだ。君に逢う前にね。
 その時きっと君にも逢えると確信したよ。」
「そうだったんだ。…なぁ。」
「ん?」
「久々にあんたを抱きたい。」
「ああ。ただしこの躰では初めてだからな。手加減してくれよ?」
「また熱出すのか?」
「…知っていたのか。」
「ん。…やっぱやめようか。思い出しちまった。初めてんときのあんた。」
「いや、大丈夫だろう。あの時とは状況も違うしな。」
「まぁオレもあんたの感じるところ解るし。じゃ、優しくするからさ。」
「ああ。……待った!」
「あ?」
「やっぱりやめよう!」
「どしたの?」
「あの時とは君のサイズも違うんだ!」
「あ!? オレのアレ?」
「そうだ。最初驚いた。」
「はあ!? あんた自分の挿れといてナニヌカしてんの!?」
「このまま君が抱かれていいじゃないか。なぁ奥様。」
「ふざけんな!」
「ちょ、やめてくれ!頼む!…ぁっ!」
「ここ弱いんだよな。ほら、力抜けよ。手加減してやるから。」
「ぅ…。」
「ほら。愛してるよ。ロイ。」
「…ん…っ!」
「…あんた相変わらずかわいいな。」


どっちに転んでもらぶらぶ〜♪


そして最後に

こんな予想外に長くなってしまった駄文を最後までお読み戴き、本当にありがとうございました。
これからお付き合いのほど、どうぞ宜しくお願い致します。

     たまごっつ拝


060915



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