F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.36
「遊 脇道」Act.36
08.12.26up
【最初に】
えと、申し訳ございません。
『遊』の最終話
『幻』
『惑』
をお読みでない方は、訳が解らないと思いますので、そちらを先にお読み下さい。





また2人で雪を見に来よう。
そう約束をしてブリッグズ山麓を後にした。
遊園地でも約束したように。

そんな風に約束を重ねて、それを果たしながら暮らしていきたい。
そんな小さな幸福を2人で抱えていけたらいい。
楽しそうに旅の思い出を語る男を見ながらオレはそう思っていた。


確定申告の後始末も終わり、通常の業務へ移った。
5月には大きな決算が数件控えているから、これからはその準備と4月のわずかな決算が主な仕事となる。
まあ一段落付いてのんびりした時期でもある。
相変わらず男は仕事が終わると事務所へ来て、そして2人で家まで帰る。
男は言葉通り、少しずつ薬を飲む回数を減らしているようだ。
このまま穏やかに支え合いながら日々を送っていくのだとオレは信じていた。


ある日、アルを通さず郵便で『遊』の最終巻が届けられた。
今回は製本されておらず、印刷された原稿がホチキスで留められていた。

そしてウィンリィからのメモ。
『これは、ロイさんとエドの為だけのバージョンです。
 一般の人に売るのとは最後の内容が違うの。
 これも製本に出したかったんだけど、おじさんとアルに原価が割に合わないから2冊だけ違うのを作るのはダメだって怒られちゃった。
 だからこんな形でごめんなさい。
 最後に
 ロイさん、エド。
 幸福になって下さい。
 …今度こそ。
   ウィンリィ』

そして、そのメモと最終巻を読んだ男は泣いた。
「彼女も…前の記憶を持っていたのだな。」
最初からじゃない。
それは初めてこいつと逢ったときの様子から解る。
途中で思い出したんだろう。
それがいつで、なんの切っ掛けかは解らないが。
それでも前の人生で自分の両親に手を掛けた、こいつに対するウィンリィの態度はずっと変わらなかった。

「いい…女だよな。」
憎らしくて生意気でおっとこ前な幼なじみに賞賛を贈る。
オレは男を抱きしめた。
「あいつは前の人生でもあんたを許してただろ?
 もう泣くな。
 今あいつにはちゃんと元気な両親がいるんだ。」
「ん…。」
それでも前の人生で犯した罪に囚われがちなこいつはいつまでも忘れることはないんだろう。

「オレがいるよ。
 ずっとそばにオレがいる。
 なにがあってもずっと一緒にいるから。
 愛してるよ。ロイ。」
呪文のように言葉を唱える。
何度も何度も。

これからも、壊れてしまった精神を抱えてこいつは生きる。
幾許かでもそれを支えていきたいと願う。
オレがこいつを支えて生きていければと。
「愛してるよ。ロイ。
 オレがずっと一緒にいるから。」
事切れるような眠りに男が落ちるまで、ずっとオレは同じ言葉を唱え続けた。
それでも胸には満ち足りた幸福感しかなく、それがじくじくとオレを苛んだ。


後日、ウィンリィが男を訪ねて家に来た。
「あんたはここにいないで。」
強い力がその瞳にあって、オレは素直にリビングを出た。

寝室で寝転がってウィンリィが帰るのをただ待っていると、やがて見送ったのだろう男がやってきた。
「全てを彼女に話したよ。
 …君の言う通り、私は赦されてここにいるのかも知れない。
 彼女は私に『幸せになって欲しい。』と言ってくれた。
 エドワード、ずっと一緒にいて…私を愛してくれるか?」
ナニを今更なこと言ってんだろう?
そんなにオレの今までの言葉はこいつに届いていなかったんだろうか。

「…んっとに頭悪いな。あんた。
 何度言ったら解るんだ?
 オレはあんたとずっと一緒にいるって。
 オレはあんたを愛してるんだよ。」

ウィンリィがこいつにナニを言ってくれたのかは解らない。
無理に聞こうとも思わない。
それでもオレは深くあいつに感謝したんだ。

そしてその数日後、またウィンリィが家に来た。
今度はオレの話を聞きたいと言って。
男はオレと同じように素直にリビングを後にした。
オレはあっちの世界での『あの人』のことも含めた何もかもをウィンリィに話した。
あいつに言えなかったことも全て。


それからしばらく経った金曜の夜。
先日の旅行の写真が出来たので、それを肴に酒を飲んでいた。
ここんとこは薬を朝だけ服用するか全く飲まない日も増えてきて、夜は酒を飲むことが多くなってきている。
いい傾向だ。

しかし酒が入っても顔に全然でないヤツだと思っていたが、鎖骨や肩がうっすらと紅く染まることをオレは最近知った。
それはとても婀娜っぽい姿で、ついつい飲んだ日は激しく抱いてしまうことが多かった。

翌日、『遊』番外編の『幻』と『惑』の載ったウィンリィ達の本が、オレ宛と男宛の別便で届いた。
男は昨晩の疲れでまだぐっすりと眠っている。
寝顔にキスを落とし枕元にそれを一冊置くと、オレはリビングでコーヒーを飲みながらもう一冊に瞳を通すことにした。


オレはそれを読んで男の悪夢の意味を理解した。
指を噛むようになった理由も。
そして…男の最後のフェイクが隠していたことも。

隠されていた事実に打ち拉がれていると、ふいにドアが開いた。
「あ…。エドワード…読んだ…のか?」
蒼白な顔で男が言う。

「あ…ああ。これ、ウィンリィが送ってきた。」
「そう…か。」
男の肩が震えている。
それでもオレは怯えてしまって、こいつに触れることが出来なかった。
「おい。大丈夫か?」
近寄りながらもどうしても男に手を触れることが出来ない。

そんなオレの様子を見て男が呟く。
「もう…触れてはくれない…のか?
 …当然だな。」
ナニを言ってるんだ?
「読んだのなら…解るだろう?
 私は穢れているんだ。
 君以外の何人もの男に…犯された。」

あ?
そんなのこいつが悪いんじゃないだろ?
つか、オレはそんなん気にならない。
それでも言葉には出来なかった。
自分の犯した罪に囚われてしまっていて。

「私は君に触れて貰える資格がないんだ。
 こんな穢れた躰に…!」
「あ…何言ってんだよ?」
ようやく声が出せた。

「今のあんたじゃないだろ?
 前の大佐の時じゃないか。」
「でも!…私だ。」
「あんたが望んだんじゃないだろ?
 無理に抱かれたのはあんたが悪いんじゃない!」

男は崩れ落ちるように膝を落とし、自分の頭を抱え込んだ。
「君は…知らないから!
 あいつらは君のように愛そうと抱くんじゃない。
 ただ排泄のために、私を痛めつけるためだけに私を犯したんだ。
 暴力と共に無理矢理に躰を開かせて。
 それでも…それでも私は繰り返されることでそれに慣れて…感じていたんだ。
 殴られながら、蹴られながら、…血を流しながら。
 それでも快感に声すら…あげて…あいつらを受け容れてしまったんだ!
 …今でも嗤い声が聞こえる。
 どこまで痛めつけても善がる淫乱だ。
 そんな言葉を聞いても…ただ求めてしまった。
 犯されて踏みにじられて。
 でもそれすらも快感になって…私は…あいつらを求めてしまっていたんだ!」
「おい…。」

涙を流しながら止まらなくなってしまってるこいつの精神が心配だ。
止めないと。
こいつはもっと壊れてしまう。
「穢れているんだ!私は!
 幾度も数人の男に犯されて、それを躰が悦んでいた。
 2人の男に一度に挿れられたこともある。
 その時、痛みより快感が勝っていたんだ!」
「おい!」

「もう、エドワードに触れて貰うことは出来ない!
 こんなに私は醜く穢れてしまっている!」
「落ち着け!ロイ!」
腕を掴んだが、それを振り払われた。
「触らないでくれ!君まで穢れてしまう!」

どうしよう。
オレが言った。
もう薬に頼るなと。
でも今、オレはこいつを支えることが出来なくて。
せめて薬ででも落ち着いて欲しい。

「ロイ!落ち着け!
 な…。とりあえず薬を飲もう。な?」
「ああ、そうだ!
 酷く傷つけられてそれすら快感で『焔の』なら好きだろうと躰中にタバコの火を押しつけられたこともある!
 それでもそいつのモノを強請ったんだ。私は!
 もう…君に…。」
ああ、これは本当にマズい。
こいつは錯乱状態に陥っている。

泣きながら頭を抱え続ける男に叫んだ。
「動くな!いいな?何もするな。そのままでいろ!」
どこまでオレの言葉が持つかは解らないが、オレは男の机に走り安定剤を水と共に持って戻った。

「ロイ。オレだ。エドワードだ。解るだろ?」
そっと背中を撫でる。
「エドワード?」
焦点の合わない瞳がオレに向けられた。
「そうだ。オレだよ。
 大佐…。愛してるよ。
 オレだよ。エドワードだ。」
「エド…?エドワード!?」
「ん。大佐、オレだよ。」
縋り付いてくる男を抱きしめ、髪を撫でる。

「エドワード、…逢いたかった。ずっと逢いたかったんだ!」
「うん。待たせて悪かったな。
 オレだよ。エドワードだ。
 大…ロイ。これを飲むんだ。」
男の口に数錠の安定剤を含ませた。

「エドワード?これは?」
不思議そうな顔がこいつの混乱を現していて、オレは泣きそうになる。
「大丈夫だ。とりあえずそれを飲んで落ち着こう?
 な、ずっと一緒にいるから。」
「ん。これを飲めばいいのだな?」
状況が解らないままでも、オレの言葉を信じたようだ。
「そうだ。これを飲んで…。」
留めることが出来ずにオレの目から涙が溢れた。

こんなに壊れてしまって。
あんなに強かった人が。

こくり、と音を立てて薬を飲み下した男が
「エドワード…苦いよ?これ。」
自分の飲み下したモノも理解できないままに、小さく笑って言う。
さっきまでの混乱を忘れているのか。
その方がいいと思ったけれど、こいつの深層心理が忘れてくれる訳じゃない。
また繰り返されるだろう会話を思って、オレは零れる涙を止めることが出来ないでいた。


「エドワード。…とても長い間、私は厭な夢を見ていたような気がするんだ。」
ベッドに横たわった男が、躰から力を抜いて言う。
オレは泣くのを堪えられられなかったけれど、それでもこいつを安心させたかった。
男から見えない角度に顔を向けて
「ふぅん。どんな夢だ?」
出来る限りの軽い声で応える。

「んー?
 君が私を置いて遠くへ行ってしまって。
 君以外の人間に無理矢理抱かれた。
 そんなハズもないのにな?」
くすくすと笑う男が本当に哀しくて。

「バカな夢、見てんじゃねぇよ?
 オレはずっとあんたと一緒にいるし。
 大体オレがオレ以外のヤツにあんたを抱かせるハズないだろ?」
「はは。そうだな。
 これはどういう心理なのだろう?」
壊れていてもいい。
このまま自分を誤魔化してくれないだろうか?
オレの願いは間違っているのか?

「あんた、浮気願望があるんじゃないか?
 オレに満足してないとか?」
そんなオレの言葉に楽しそうに男は応えた。
「エドワード以外に私を満足させてくれるものなどないよ。
 …君が私を捨ててしまうのではないかとどこかで思っているのかも知れない。
 私の悪夢はそのせいではないかな?
 君が私を捨てたら、後はこんな人生しか私には残されていないと…」
薬が効いてきたんだろう。
男は眠りに落ちていった。

その穏やかな寝顔がオレを苛んで涙を止められなかった。
オレはずっとベッドの脇に座って寝顔を見つめていた。
ただ…何も出来ず泣きながら。


もう夕暮れの頃、男が目を覚ました。
「気分はどうだ?」
表情は落ち着いているようだ。
「夢は…見なかったな。」
それはこいつにとって代え難い幸福な状況を指すのだろう。

「落ち着いているな?」
「…ああ。」
今ならオレの言うことがこいつの精神に届くだろうか。
「少し…オレの話を聞いてくれるか?」
なるべく感情を表さないように男の瞳を見つめて言う。

「…。」
少し何かを考えていたようだったが
「ああ。」
男が頷く。

一つ、息をついてからオレは口を開いた。
「さっきのこと、覚えているか?」
「? すまないが…。」
覚えていないのか、本当はそうではないのか。…オレには解らない。
「オレ以外のヤツらに抱かれたと、あんたは随分精神が混乱していた。」
「っ!?」
焦って起き上がろうとする男をそっとまた横たわらせた。

「先ずは聞いてくれないか?
 オレが思っていることを。」
出来るだけ静かな声で告げる。
それでも有無を言わせないように。
「…解った…。」
男の声は掠れていた。

「あのな。」
オレの言葉を聞き逃すまいと言うようにオレを凝視している。
これなら精神まで言葉が届くかも知れない。
「オレは、例えば女性がレイプされても、その人が穢れたなんて思わない。
 それは襲った奴が悪いだけで、被害者の女性は穢れてなんていない。
 強いて言えば怪我をした、くらいにしか思わない。」

男が息を詰めている様子が見て取れる。
オレは男の上半身を少しおこさせ、背中に枕を2つ入れた。
髪を撫でて
「ほら。深呼吸を3つしろ。ゆっくりな。」
自分も大きく深呼吸をしてみせる。
それに合わせた男が落ち着くのを待った。

「まあ、その人は精神に傷を負うだろうとは思うけどな。
 それはオレには解らないから。
 ただ、その女性自身に傷が付くとも、もちろん穢れるとも思わないんだ。
 それが男だったら尚更だ。
 殴られたとかその程度のコトでしかないと思う。」
「でも!」

言い募ろうとする男の口に人差し指をあてる。
「いいから。最後まで聞け。
 オレは本当にそう思うんだよ。
 そうだな。殴られるだけじゃ無くて、例えばナイフで腹でも刺されたとして。
 あんたはそれで自分が穢れたと思うか?」
「…。」
どう答えていいのか思考がまとまらないんだろう。

「オレは自分がそうなったら、きっと腹は立てるよ。
 イテェだろうしな。
 一方的にされることで悔しいだろうし、精神が傷つくだろうけど。
 でもな、穢れたとかは感じない。
 オレが悪いんじゃないし、オレの価値はそんなことで下がりも傷つきもしない。
 オレにとって、男が犯されるのもナイフで刺されるのも大して変わりがないんだ。
 まあ、実際そうなった訳じゃないから、オレの考えは甘いんだろうけどな。」

じっとオレを見つめる瞳にうっすらと涙が浮かんでいるのが見えた。
「なあ。ロイ。オレにとってはその程度のことなんだよ。
 あんたが他のヤツに抱かれたってことはさ。
 まして『今』のあんたじゃないんだし。
 …解ってくれるか?」

しばらく2人とも黙っていた。
「…んとうに…?」
掠れた小さな声が聞こえた。
「本当だよ。オレは全然気にならないんだ。」
「本当に?エドワード。」
「ああ。本当だ。
 実は、申し訳ないくらいそんなのはどうでもいいと思っちまってんだ。
 あんたが苦しんだのにな。
 ごめんな。
 …だから自分をもう責めるのはやめてくれないか?」

「赦して…くれるのか?」
「だからさ、赦すも何も気にならないんだって。
 第一今のあんたはオレにしか抱かれてないし?」
「そう…だが…。」
「オレって、あんたの『初めて』を2回も貰っちゃったな。
 へへっ。」
くしゃくしゃと男の髪をかき混ぜる。
「…。」
蒼白だった顔に紅みが差した。
よかった。落ち着いて聞いてくれたようだ。

「つかさぁ。どっちかってぇと好きでもないオンナ抱いてたコトの方が、穢れてると思うけどな?
 それはどうなんだよ?」
汚い大人はイヤだねー、と笑ってみせると
「それは…。」
瞳が戸惑って泳ぐ。
「でももう、オレだけだろ?」
顔を寄せて低く囁く。
「ああ。」
今度は視線を合わせて男が頷く。

「ならさ。
 すぐに忘れろとは言わない。
 そう簡単に忘れられることでもないだろうから。
 でも、思い出してももう自分を責めるな。
 …そう出来るか?
 オレに約束できるか?」
「でも…私が赦せない。」
「自分をか?」
「ああ。」
つらそうに瞳を逸らす。

「オレが責めるなっていってるのに、あんたはオレの愛する人を責めるのか?
 そんなことはオレが赦さない。
 あんたはオレのモンだ。
 あんたを傷つける人間は、例えそれがあんたでもオレは赦さないぜ?」
「エド…。」
オレを見上げてくる瞳を睨みつけるように見つめる。

「オレが赦せって言っているんだ。
 オレの言うことが聞けないのか?
 なあ。言ってみろよ。
 あんたは誰のモンだ?」
こんな脅しではマズいだろうか、とも思うんだが。
「私は…エドワードのものだ。」
小さいがしっかりと応えてくる。

「ん。イイコだ。解ってるな?
 オレの言うことを聞けるな?
 オレが赦せって言うんだ。
 赦せるな?」
オレをじっと見つめた後で、ようやくちいさく頷く。
その拍子に涙が一つ頬に零れた。

この1回で本当に男が納得するとはオレも思っていない。
ただ、少しでも自分を責めることをやめてくれればいい。
何度でもオレはこいつに自分を赦せと言い続けよう。
…オレにその資格があるのなら。


  本当に赦されないのはオレの方なんだ。


優しく、しようと思った。
思っていたんだけど、激しく男を抱いてしまった。
もう制止の言葉も聞けなくて。
幾度も続けて抱いた。
久しぶりに男が気を失うまで。

再び深い眠りに落ちた男の寝顔を見つめながら、オレは自分の罪に怯えた。
「『あんたを傷つける人間は、例えそれがあんたでも赦さない』か…。
 よく言えたモンだよな。」

どうして過去の記憶を取り戻しながらも今までオレは気付かなかったんだ?
そうだ。
犯されたからじゃない。
こいつが壊れてしまったのは。
それは確かにこいつの傷だ。

だが同時に本当に壊れてしまった理由を隠すための最後のフェイクだったんだ。

隠されていた本当の傷、こいつが狂った原因はオレがこいつを置き去りにあちらの世界に行ってしまったことだ。
こいつはオレに優しい。優しすぎる。
オレを傷つけないために、責めないためにそれを隠し通そうとしていたんだ。

イシュヴァールの内乱で精神に闇を負っても、ヒューズ准将を失っても揺るぎなく立って前を見つめて戦い続けた男が、錬金術を使えなかったとはいえ犯されたくらいで精神を狂わせるはずがない。
犯されたことでオレへ贖罪の念に苛まれることはあっても、こいつがそんなことで壊れるなんてあり得ないのに。

「オレを責めろよ。自分を責めないでさ…。」
どこまで壊れてもオレだけを護ろうとするその優しさが哀しかった。
男はヒューズ准将も、大総統になるという野望も、それにより実現しようとした理想も……そしてオレをも失った。
部下は残っていても、それはあいつが守るべきモノでしかなく、縋るモノは何もなかったんだ。
求めるモノの全てを失って、取り戻すことの出来ない状況に男を追い込んでしまった。

こいつの精神を壊したのはオレだ。
オレを失わせ、来る日も来る日もその喪失感で苛み続け、男を壊し狂わせた。
…それに引き替え、オレにはアルがいた。
ヒューズさんもグレイシアさんもエリシアも。
なにより『あの人』が触れ合うことがなくてもずっとそばにいてくれた。
男には何も残されていなかったのに。
オレは男を頼るべき者も生きる目的もない状況に置き去りにしたクセに、自分は欲しかった人に囲まれて過ごしてしまったんだ。

ナニが『支えたい』だ。
ナニが『側にいるから幸福になろう』だ。
オレの方じゃないか。
赦されないのは。
オレの方じゃないか。
贖罪の為の生を与えられたのは。

もう、こいつの側にはいられない。
そんなこと赦されない。
こいつを壊したのはオレなんだから。
「…オレ、あんたの側にいる資格がないよ。」

枕元に最後のメモを置いた。
『オレは存在している。
 でももう一緒にはいられない。
 オレがオレを赦せない。
 すまない。
    エドワード』

オレは走った。
どこへ行けばいいのか解らないまま。
ただ走り続けた。
どうしていいのかも解らないままに。





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