F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ)
09.1.7up
(駅前相談するセンセイ)
はーい♪
納税者の皆さん!
11月11日〜17日は『税を知る週間』でっす!
や、数年前から『税を理解する週間』とも呼ばれていますが。
なんてこたぁどうでもいい。
オレにとって重要なのは、これのせいで一日が潰されるということだ。

仕事があるっつぅのに、国に身分を保証されているオレとしては国税局(まあ、平たく言うと「国」だ。)の要請があればその場に行かなくてはならない。
それは確定申告の無料相談も同じなんだが、こんな『税を知る週間』の無料相談なんかは厭ならば本来は断れる。…はず。
無論、オレと少しでも一緒にいたいからという理由で男に要請されればオレに断る理由はない。
例えうちに帰ればずっと一緒にいられるとしても。
アルに、「はあ。またぁ?」と溜め息を付かれても。

先日のことだ。
「センセイ、今度の月曜日は以前から頼んでおいた『税を知る週間』の駅前無料相談の日だ。
 今回の内容は資産税だから、勉強しておきたまえよ?」
夕食の後でかる〜く言われた。
オレは相続税を履修していない。
てことは、自慢じゃないが資産税もよく解っていない。

男がオレの苦手なところを無くすために無料相談を入れているのは知っているが、こんな付け焼き刃でいいのか?
オレが数日で必死に学んでも、一般の納税者の人がじっくり調べても変わらないんじゃないか?

そう言うと
「センセイ?
 専門家が数日で広範囲に学ぶことと、素人が自分の事象を調べるのとは訳が違うのだよ?
 まして君は専門家としてこれからも仕事を続けるのだから。」
と至極真っ当なことを言われて、平日の仕事が終わった夜中、必死に勉強をした。

特に金曜日と土曜日は翌日に休みを入れたので、夜半までガリガリと専門書に書き込みをしながら理解しようと頑張った。
さすがにその間はオレに抱かれたがる男も遠慮をしたのか、ナニも言ってこなかった。
それを内心残念に思ったのは内緒だ。

で、結論。
『株式の譲渡は解らねぇ。』
…どんなに専門書を読んでも理解できねぇ。
処理が煩雑過ぎる。
土地と家屋の譲渡はなんとか覚えられたんだが。
男に聞けば教えて貰えるんだろうが、情けないことにどこが解らないのかも解らない状態で、聞くに聞けなかった。
つか、オレはあんま株をやりとりしてねぇから実感できねぇんだよ。

無料相談の前日、正直にその事を男に告げると、
「ああ、心配することはない。
 駅前で無料相談なぞしていたって駅に来る人はこれから出掛けるのだから、難しい税の相談などしてこないよ。
 単なる国税局側のパフォーマンスに過ぎないものだ。」
と軽く言われた。

そうかもな。
「以前からこの税金の相談をしたかったんですよ!」
なんてたまたま駅に来た人が言うとも思えない。
なぜそんなものに自分が巻き込まれるのかとも思ったが。
ま、そんならいいや。とこれまた軽い気持ちでその日を迎えた。

「駅には10時少し前にに来て貰えればいい。
 私は一度署に行ってから向かうから、センセイは時間を合わせて来てくれたまえ。」
男がなにやら大きめの荷物を持って出ていった。
今月は決算もないし、今日は無料相談に直行直帰とアルに連絡をしてあるからオレは時間より少し早めに会場の駅に向かった。


「すみません!
 オレ、どうも株の譲渡は苦手で!
 質問が来たら、ご指導下さい!」
税理士と税務職員の顔合わせの挨拶で、オレは開口一番、頭を深く下げて言った。
そんなことを言わなくても、と男が苦笑したのが見えたが、オレはプライドよりも実績を重視することをモットーにしている。
今日、相談にいらしたお客さんにいい加減な対応をする位なら、オレが頭を下げて正確な申告をして貰う方が大切だ。

他の先生方は若輩者のオレに
「株の相談が来たら、私がお答えしますから。」
とか
「そもそも、こんな駅前相談で難しい質問は来ませんよ。」
などと笑顔で言って下さった。

今日の税務相談に来ている税理士は3人。
(お二人の先生方は駅前無料相談を数回されているそうだ。オレは初めてだ。)
オレ以外はかなりのお歳の先生だった。
税務署からは、ショチョウと金髪の背の高い兄ちゃん。
以前、親父の調査に来た人だな。
名前はハボックさんと言った。
(彼が咥えタバコの『ジャン・ハボック少尉』だったと今のオレは解っているが、本人は知らないだろう。)

「はい。先生、どうぞ。」
オレ達税理士一人一人に飲み物と使い捨てカイロを渡してくれる。
他の先生に渡したのがミルク入りコーヒーで、オレには微糖ブラックを渡すあたり、男の指導がしっかり入っているようだ。

パイプ椅子に座っているとそっと男に呼ばれ
「ほら、センセイ。
 冷えるからこれを使いたまえ。」
ブランケットを手渡された。
これを自分用とオレの、二枚も持ってきたから荷物が大きかったのか。

そういえば他の先生方もそんなものを持ってきている。
さすが経験者は違うってとこか。
オレは暑がりだから実はカイロもブランケットも要らないんだけど、男の気持ちが嬉しいから脚に掛けておくことにした。


男や他の先生の言うとおり、午前中は誰も相談に来なかった。
そうだよなー。
広報で知らされているとしても、これから出掛ける人が駅に来たときに
「あ!そういえば税金について相談をしたかったんだわ!」
と思うことも少ないだろうし、ましてその為の書類を持ち歩いていることなんて無いだろう。

5人が長机二つをくっつけて一列に、手持ち無沙汰でぼーっと座っていた。
その様子に何事かと通行人が見ていくのは結構羞恥プレイだ。


「午後は13時から再開致しますので、時間までおやすみ下さい。」
そう告げたのはハボックさんだ。
散会しようとしていたオレの腕を男が掴んだ。
「センセイ、一緒に昼食を食べよう?」
疑問符を持たなくたってそういうつもりだったよ。

けど、ナニを食べよう?
と思っていると少尉、じゃなかったハボックさんが
「シン国の麺類はいかがですか?」
と聞いてきた。

オレは結構な麺食いだ。
(面食いでもあるけどな。)
一も二もなく賛成すると
「お前も来るのか?」
厭そうな顔で男がハボックさんに言う。

「そんなあからさまに邪魔扱いせんで下さいよ。」
飄々とした態度が相変わらず気持ちいいな。
「いいじゃないか。一緒に行けば。
 他の先生方も行っちまったし、ハボックさん独りじゃ寂しいだろ?」
宥めると
「折角センセイと二人きりで過ごせると思ったのに。」
拗ねたように言う。
人前で部下に言うコトじゃないだろ?
と思うがハボックさんも慣れているのか、軽く肩を竦めただけだった。

ハボックさんは駅前の麺屋さんに案内してくれた。
シン国の麺職人が生地を手で伸ばして、台に叩き付けているのが店の前からも中からもガラスを通して見ることが出来る。
そういえば昔からある有名店だが、来たのは初めてだった。
麺は美味いが、スープと具に工夫がないな。
何より、麺を打つ音がうるさい。
申し訳ないがオレの感想はそれだけだった。


食後、カフェに席を移してコーヒーを飲んでいると、興味津々と言った様子でハボックさんが質問してきた。
「先生は署長と一緒に住んでらっしゃるんスよね?」
どこまで話していいのかと男の顔を見ると平然としている。
全て知っていると言うことか。
なら、なんでまたオレに聞くんだ?

「はぁ。そうですけど。」
「いやぁ。署長が身を固めてくれて、オレ嬉しいっス!」
心底嬉しそうだ。
「どうしてですか?」
ずっと咥えていたタバコに火を付けようとはしないハボックさんに聞く。
男が焔を苦手だと知っているのだろうか。
もう平気なのに。

「聞いて下さいよ。先生。
 今まで何人のオンナノコを署長に取られたか。」
ああ、こいつモテるもんな。
生まれ変わっても状況が変わってないのか。少尉。
「なるほど。最近は大人しいんですか?
 あ、タバコ大丈夫ですよ。マッチ貰いましょうか?」

大人しいに決まっているが聞きたくなった。
「あ、いいっスか?
 ああ、ライター持ってます。
 そりゃあもう、すっかり女性に見向きもしなくなって、ホント有り難いっス。
 以前は先生のお話を耳にタコが出来るくらいオレ等聞かされてましたけど、それとこれとは違ってましたからね。」
ほう。
そんなにお盛んだったのか。

ちらりと男を見ると少し狼狽しているようだ。
「ハボック…」
「そんなに女性関係がハデだったと?」
言いかけた男を制するように言う。
「そうなんスよ。
 先生が綺麗だの、正義感が強くて優しいだのと言う割に来るモノ拒まずでほぼ毎日デートでしたからね。
 オレの好きだった娘も何人署長に取られたか。」
よほど悔しかったのだろう。
それには同情するが、ほぼ毎日か。そうか。

「もういいだろう。ハボック。今は…」
「そりゃ、躰にも負担だったでしょうね。
 仕事はちゃんとしてたんですか?」
話に入れてやんない。
「仕事をサボらない署長なんて、署長じゃないっスよ。
 ホークアイ秘書官が額に青筋を浮かべない日がないってのは、セントラル税務署では有名な話です。」
「ははは。ホークアイさん、怖いですからねぇ。」
最後まで男をワザと会話に入れないまま、オレとハボックさんは話し続けた。


「…センセイ?」
駅に帰る道すがら、ハボックさんに聞こえないよう少し離れて男が話しかけてくる。
オレが怒っていると思っているんだろう。
「ん?どした?」
知りながらも問い返す。

「…怒って…いるか?」
思った通りの問いに
「怒ってなんかいねぇよ。
 今はオレだけだろ?」
笑って返した。
「ああ。」
「ならいいよ。気にすんな。」
ぽん、と頭を叩くと男が安心したように少し笑った。

オレだって今まで付き合ったオンナノコはいるんだし。
それに男がほぼ毎日付き合ったのは、いつも違う女性とだったんだろう。
ただ一人の人ではなく、毎日違う人。
それは誰も愛していないということ。
だからオレは別に腹が立たない。
むしろそれまでの男の寂しさの方が哀しい。
あ、ハボックさん達部下と利用された女性に同情はするな。
オレ以外にはホントに酷いことを平気で出来るヤツだってオレは知ってるから。


午後になり、ぼーっとまた全員が座っていると、隣に座った御高齢の先生が酷く咳き込み始めた。
「どうなさいました?大丈夫ですか?」
と聞くと
「ああ、先生、すみませんね。
 昨日からどうも風邪をひいたようで。」
儚い笑顔で応えてくる。
こんなヒマなら帰ってもいいんじゃないかと思ったが、聞くとこの駅前無料相談が割と好きなんだそうだ。
変わった人だ。

「オレ、寒くないからこれを使って下さい。」
男が渡してくれたブランケットを先生の肩に掛けた。
「カイロも要らないんで、どうぞ。」
鞄に入れたままだったカイロの封を開けた。
「すみません。」
恐縮する先生に構わず、その腰にカイロを貼り付けていると男が寄ってきた。

「センセイ?」
ブランケットを手放したオレが気になったようだ。
「センセイ、私は構いませんからこれを使って下さい。」
とオレに自分用のブランケットを持ってくる。

だからさ。
オレは寒くないし、昨日散々貪っちまったからあんたが腰、痛いんだろ?
(やっと昨日は調べ終わったので久々に抱いた。から…つい…な。)
「いや!ショチョウ!
 オレ、若いんで全然寒くないんですよ!
 これはショチョウが使って下さい!」

白々しいかとも思ったんだけどブランケットを男の腰に廻して耳元に囁く。
「オレは寒くないんだよ。
 それよりあんた、腰冷やすと良くねぇぞ。
 今日もあんたが欲しいから、これを大人しく巻いてろ?」
人前だというのに囁かれた言葉に男が頬でも染めてくれるかと思ったが、昼間は駄目なようだ。
「では今夜に備えて。」
余裕の顔で笑われて少し残念だったが、それでも素直にブランケットは受け取ってくれた。
まあ、周りに人もいるしな。
仕方がない。


「あの…。」
オレの隣の先生に相談が入った。
続いて反対側の先生にも。
こんなコトはめずらしい。
ぼんやりそんなことを思っていると老夫婦がオレの前に座った。
「こんにちは。どんなご相談でしょうか?」
にっこり笑ったオレに
「株を今年から始めたのですが…。」
はいぃぃぃぃいいい!!!???
どうしてこういうタイミングでオレの知らない世界が押し寄せてくるかなぁぁあああ!?

引きつった笑いを浮かべていると受付をしていた男が来てくれた。
「どうしました?センセイ?」
「あ…こちら、株のご相談だそうです…。」
ああ、縋り付くような視線になってしまったことは認めるよ。
しょうがないよ。オレ。
ダメだけどな。オレ。

「ああ、特定口座はお持ちですか?」
お客さんに話しかけながらも、手はオレに必要なパンフレットを持ってくるように指示してくれる。
オレはそれに従って席を男に譲り、言われたパンフレットを持ってきた。
「はい、そうですね。
では、あとこちらのセンセイのお持ちになったパンフレットをご覧戴いて、解らないことがありましたら、また確定申告時期にいらして戴けますか?」
相変わらずにっこりと笑う笑顔が胡散臭くとも美しい。
見とれている場合じゃないけどな。

「ごめ…。助かったよ。」
老夫婦が去った後、席を移動しながら言う。
「めずらしい事象に当たったな。運があるのだかないのだか。」
楽しそうに返された。

相談を終えた両側の先生方から
「すみませんね。お助けすることが出来なくて。」
と謝られたが、悪いのはオレだ。
「いえ、とんでもない。オレが未熟なんです。」
恐縮していると
「先生はお若いのに頑張っていらっしゃる。
 ホーエンハイム先生もご安泰ですなぁ。」
親父を知っているのか、にこにこと言われた。

「うちも息子がいるんですが、仲々合格しませんでね。
 本当に羨ましいですよ。」
反対側の先生にも言われる。
「や…。そんな。」
こういうとき、どうしていいのかどうも解らない。
一つ離れた席の男が笑っているのが目の端に映っていた。

そんな会話をしていると、お歳の女性がオレの前に座った。
立て続けにめずらしいな。
そう思いながら
「こんにちは。どういったご相談でしょう?」
にっこり笑いかけると
「相続の無料相談ですよね?」
と確認された。
あー。隣の席に移動して下さい。とは言えない。

「はい。なにかご心配でも?」
あくまで笑顔を崩さない。
複雑な相談だったらどうしよう?
やっぱ相続税を取っておくべきだったなと今更思っても後の祭りだ。

「いやぁ、私の土地と家を嫁が狙ってましてね…。」
蕩々と話し始めた内容は、要するに嫁さんに対する愚痴だった。
ああ、よかった。
お年寄りの話に付き合うのは得意だ。
ばあちゃんが何度も繰り返す昔話に相づちを打つのが好きだったから。

そういえば、前の人生ではばあちゃんはいなかったな。
だからオレはばあちゃんが大好きだったのか。
どうも以前は肉親の情に薄かったからな。
オレの肉親は母さんが死んだ後、アルしかいなかったから。
(あ、親父もいたか。忘れてたよ。)

適当に相づちを打っていると、おばあさんも鬱憤が晴れてきたようだ。
「でね。先生。一番の相続対策ってなんですかねぇ。」
ため息と共に言われた言葉に
「そりゃ、死なないことですよ。」
思わず軽口を叩いてしまった。

すると楽しそうに笑って
「先生は面白い人ですねぇ。
 いい男だし。孫の婿に来て貰いたいもんですわ。」
ばしばしと肩を叩かれた。
「ははは。あなたに似たお孫さんならきっと美人さんなんでしょうが、申し訳ございません。
 金髪のお孫さんですよね。
 オレは黒髪黒目の人が好きなんですよ。」
おばあさんは見事な金髪だったから言ってみた。

「そりゃあ残念だわ。
 ええ。孫は綺麗な金髪なんです。
 先生と孫の子供ならさぞかし金髪の美しいひ孫が出来ると思ったのに。」
それでも楽しそうに話すおばあさんはなんだかんだ言って幸せそうだ。

しばらく後に、よっこらしょと立ち上がって
「どうも有り難うございました。
 こんな年寄りの与太話に丁寧にお付き合い戴いて。
 税理士の先生って、もっとお高くとまってるもんだと思ってましたよ。」
深々と頭を下げられた。
「いいえ。お役に立てなくて申し訳ありません。」
オレも席を立って頭を下げながら、隣の先生の無料相談が好きだと言った理由が解った気がした。
普段こうやって顧問先以外の人達とゆっくり話す機会は仲々無いから。

おばあさんを見送った後、ふと背後に立っていた男が去る気配に気付いた。
難しい質問が来たら代わりに答えようと控えていてくれたんだろう。
そういえば確定申告の無料相談でも、オレが間違った指導をしないようにいつも背後に立っていてくれた。
どこまでも甘やかされてるな。オレ。
そんなことを今更ながら実感する。
オレが間違わないように。
オレのキャリアが傷つかないように、と。


その後はまた閑古鳥が鳴き続けていた。
来るときは一気に来る。
けど、来ないときは来ない。
そんなもののようだ。

「やれやれ。ある程度質問に答えた実績がないと困るのだがな。」
ため息をついて男が言う。
ま、オレ達には『無料相談』とは言え、日当が国税局から払われる。
それでなんの質問にも答えないんじゃマズいんだろうな。

「あのー。」
「「「はい!?なんでしょう?」」」
別に国税局はどうでもいいが、話しかけてきた女性にヒマを持て余していたオレと先生方が声を張り上げる。
「あ…すみません。セントラルシティ銀行はどちらでしょうか?」
あー。銀行ね。銀行。
「はい。あちらの出口を出られて真っ直ぐの広い通りにぶつかった右角にあります。」
代表してオレが応える。
「有り難うございます。」
笑って去っていった女性を見送った。

「署長、今のご相談は日誌になんて書きましょう。」
ハボックさんが聞く。
なんでもいいから、実績が欲しいようだ。
「そうだな。『金融関係の相談』とでも書いておきたまえ。」
至極真面目な顔をして応えている。
そんなんでいいのか!?

「あー。ショチョウ?
 先程から一番多いのが、電車の乗り換え口の質問なんですが、それはなんと記載するんですか?」
ヒマなので聞いてみる。
「んー。旅客情報の提示とでも書いておけばいいか。」
それのどこが『税金の無料相談』なんだよ!?
「エルリック先生、既にソレは記入済みですよ?」
楽しそうにハボックさんが言う。
そうか。無料相談って駅前じゃこんなものなのか。
結局その後道案内以外は来る人も無いまま、駅前無料相談は終わりになった。

「先生、うちの孫は黒髪黒目なんですが、どうですかね?」
散会の挨拶の後、左隣にいた先生に聞かれた。
「あー。申し訳ありません。
 オレ、もう一生を決めた人がいるんですよ。」
差し出された右手に握手をしながら応える。
「それは残念です。
 ホーエンハイム先生の息子さんが優秀だという話は税理士会でも有名ですからね。
 跡継ぎにと狙っていた先生方も多かったのですが。」
それでも微笑んで言われた言葉に恐縮した。
オレはそんなたいした人間じゃない。
「お孫さんにオレなんかじゃない、いいお婿さんがいらしてくれることを祈っております。
 今日はどうも有り難うございました。」
丁寧に挨拶を済ませた。

振り返ると机を抱えたハボックさんと、腕を組んで満足そうに笑っている男がいた。
「んだよ?」
照れくさくてぶっきらぼうに言うと
「いや。嬉しいよ。
 私を一生の伴侶に選んでくれて。」
ホントは恥ずかしがり屋のクセにオレとのことを公言することは憚らない男の言葉に、オレの方がめずらしく赤面してしまった。

「ハボックさん、なにか手伝うことはありませんか?」
照れかくしに言う。
「や、先生。署の車が控えてますから今日は大丈夫っス。
 ああ、お手数ですが手の掛かる署長を連れ帰って戴けますかね?」
にやりと笑って言われた。
「リョーカイッス!」
オレも元気に応える。

「私が手の掛かるとはなんだ?」
そんな文句を口にしていたが、オレもハボックさんも取り合わなかった。
「な、オレ疲れたよ。
 愛しい人と快楽を貪って眠りたいな。」
腰に手を廻して耳元に囁くと、昼間とは違って面白いように耳朶を紅く染めた男が
「そんな睦言で…
 誤魔化されてしまう私が楽しいか?」
紅いままの拗ねた顔と声で聞いてくる。

「んー。誤魔化してる訳じゃねぇよ?
 ホントのことだ。」
「…。」
黙って俯いてしまう様がほんっとかわいいよな。
オレはこの上なく上機嫌になる。
「じゃ、先生、失礼します。」
半ば呆れた声に
「はい。お疲れ様でした!」
オレは元気に応えて男の腰に手を廻したまま歩き出した。

やっぱりもちょっとしっかり勉強しなきゃな。
いい経験になったけど。
そんな反省を帰り道にしたが、家に帰ったらつい忘れて男を夢中で抱いちゃいました。
ダメだな。オレ。



       fine



もちろん全ての税理士がこんな付け焼き刃では無いと思うのですが、私は弁護士さんの無料相談に行っても、
「この人、ここ数日で必死に調べたのかな。」
と思っちゃいます。

N駅前のラーメン屋さん、ホント麺を打つ音がうるせえ!
落ち着いて食えねぇっつの!!




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