F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.1
「遊 脇道」Act.1
08.12.17up
【注意書きです】
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。

「遊」vol.9から続いております。
「遊」本編を最後までお読みでない方はそちらをご覧になることをお奨めします。
(こちらは「遊」を包括した入れ籠構造になっております。)
「遊」vol.1
「遊」vol.9
「遊」vol.10
また、
『遊』の最終話
『幻』
『惑』
をお読みでない方は、訳が解らないと思いますので、そちらを先にお読み下さい。
お手数をお掛け致しますがどうぞ宜しくお願い致します。

【言い訳です】
すみません。パラレルですので、原作以外受け付けないという方はお読みにならないで下さい。
アメストリスが舞台なのですが、こちらでは
エド=19歳 税理士 
    アルの分の負担がないので「豆」じゃないです。(身長170pです。)
アル=まだ税理士の登録はしていないけれど、科目合格者。
    エドと会計事務所を経営。
ロイ=エルリック事務所の管轄区域の税務署長
リザ=ロイの秘書官
となっております。



    「遊 脇道」act.1

男の家に帰ってきた。
オレはこの新刊を是非読みたい。
そう思っていたら男が言った。
「君の部屋の棚にその漫画本を置くといい。」
あ?ナニ言ってんだ?
「オレの部屋って?」
「君の部屋を用意してあるんだよ。昨日は案内出来なかったな。」
こっちだ。と男はオレを開けていなかった扉に案内する。
「オレ、悪いけど自分の集めてるマンガはひとまとめにしておきたいんだ。」
だから持って帰るって。
「だからここの棚に置くといい。」

男が開いた扉の先にはパソコンの乗った机と両方の壁にそびえた本棚。
その片方の本棚を見て、オレは絶望とはこう言うことを指すのかと実感する。
そこにあったのは、オレが今集めているマンガで。
この新刊はその続きで。
『先日初めて読んだのだが。』
あの言葉はオレんちからこのマンガが来てっていうことか。
ア〜ル〜〜!!!
オレのマンガコレクションをここに送ったのはお前だな!?

もう片方の本棚には今まで男に貰った専門書や解説本、それとオレの買ったそれらが収まっている。
オレにこれからここで暮らせと!?
これがオレんちから無くなったら、オレマジで困るぞ!?
調べ物の度に事務所かここんちに来なきゃならないってことだろ?
自分の周りは敵に囲まれている…。
そんなビジュアルが頭に浮かんだ。
四面楚〜歌〜♪(安達祐実ちゃんの「アライグ〜マ〜♪」のメロディで。)
だってオレの味方、どこにもいないじゃないか!
神様、どうしてこんなにオレを嫌うんですか?
オレがナニをしたって言うんですか!?

とにかく料理を作ってさっさと家に帰ろう。
既にカラッポかも知れないオレの部屋へ。
少なくともベッドは残されているはずだ。
この部屋にベッドはないから。
「メシ…作るぞ。」
あ、ちょっと涙がこぼれてしまった。

男が嬉々として手渡したエプロンをさらりと無視したのは言うまでもない。
キッチンに材料を並べて作り始めてすぐ、オレは自分の迂闊さを悟った。
この家、『包丁とまな板』がない!
そうだよなー。
引き出物で成り立ってんだもんなー。
包丁とまな板は引き出物にはしないよな。

「どうした?」
「うん。ぬかったよ。ここんち包丁とまな板がない。」
「そういえば見たことがないな。買ってくるか?」
「いや、キッチンセットはあるからピーラーとキッチンばさみはあるし。ペティナイフもある。
 なんとかなるだろう。」
母さんはどこでもオレ達が生きていかれるようにと、料理を含めた家事一般の他に道具がなくても工夫することを教えてくれた。
無人島にナイフ一つで一ヶ月は大変だったけど。
それに比べれば楽勝だ。

「あんたピーラー使えよ。ジャガイモの皮むきを頼む。」
「…。」
男はジャガイモを握ったまま黙ってキッチンセットを見下ろしている。
「どした?」
「ピーラー…。」
「ああ。これだよ。ちゃんと芽を取ってな。」
「メ…?」
おいおいおい!どこのぼっちゃんだぁ!?
「あのさ!家庭科で習っただろ?
 ジャガイモの芽にはソラニンが含まれてるから取るんだって。
 調理実習だってあっただろ?」
「ソラニン?覚えていないな。
 調理実習ではたしか女生徒に『ナニもしなくていいから座ってて。』といわれたので、包丁に触ったことがない。
 いつも味見係だったな。」
それは男がモテたということなのか、男の調理が不安だったということなのか。
オレは後者だと思う。

「しかたがないな。覚えろよ?
 ジャガイモはまず水で洗ってドロを落とす。
 芽って言うのはこの引っ込んでる部分だ。
 それをこうやって取って、それから皮を剥くんだ。
 ピーラー使えば安全だろ?」
説明しながらやってみせる。
「ほら。」
剥きかけのジャガイモとピーラーを手渡す。
受け取った男は真剣な顔でジャガイモに取り組んでいる。

「ピーラーの動きと反対側に手を置け…。」
言いかけたのと男が指を切ったのは同時だった。
「うわ!大丈夫か?」
「ああ。大したことはない。」
ドロを落とさないと細菌が入るかも知れない。
オレは慌てて男の指を咥えた。
「は…っ!大丈夫だから。センセイ。」
舌先で傷の度合いを確認する。
うん。ピーラーだしな。傷は深くない。
ティッシュと消毒液はどこだろう。

男に聞こうと指を離した途端、男の顔が近づいてきた。
「サカるな!」
がしっと男の顔を鷲掴みにして離す。
「消毒液と絆創膏とティッシュはどこだ?」
「ティッシュはそこの棚に、消毒液は…リビングのスピーカーの右側の棚に救急箱がある。」
オレの手を通してくぐもった声が聞こえる。
「ん。シンクに指を出しとけよ。血が垂れるからな。」
言い捨てて取りに行く。
全く役に立たない男だ。
リザさん(心の中だけでもファーストネームで呼んでみた。)が『無能』呼ばわりする気持ちがよく解った。

それからはオレが一つ一つ説明しながら料理をするのを男が熱心に見ていた。
ベーコンを切るのはキッチンばさみで代用して、野菜は手に持ったまま、削るようにペティナイフで刻んだ。
今度まな板を使ったやり方も教えないとな。
セロリを刻んでいると、
「もうそのくらいでいいのではないか?」
と何度も聞いてきてうるさい。
いつもより多めに入れてやった。
今度場所にかまわずサカってきたら、これを口に突っ込んでやろう。
オレのニンニクと十字架はセロリというわけだ。

ミネストローネとサラダとパン、あとは肉をソテーしただけの簡単な夕食だけど、男は恥ずかしくなるほどの賞賛を贈ってくる。
いや、作ったモンを美味いって言われるとオレも嬉しいけどさ。
「明日の弁当。」とサンドイッチの具を用意するときは感激のあまりと抱きついて来やがったので、もちろん生のセロリを口に突っ込んで離れさせた。
作業が進まねぇんだよ。


風呂を入れ、後片付けを済ませて食後のコーヒーをリビングのソファで飲む。
「本当に美味しかったよ。ありがとう。センセイ。」
「や、もういいよ。充分礼は聞いた。」
「弁当か…。初めてだな。」
それは意外だ。
「あんたなら、学校とか職場とかで女から貰ったんじゃないの?」
「いや。好きな人が作ってくれるのは初めてなんだよ。」
んな恥ずかしいセリフをしみじみ言うなっ!
つか、貰ってんじゃねぇか!

「センセイ。この等価交換はどうしようか?」
楽しそうに男が身を乗り出して来る。
「なんの?」
しまった。セロリがない!
「この夕食と弁当のお礼だよ。なにか欲しいものはないのかい?」
「んー?いつもあんたには解説本とか専門書とか貰ってるからな。これはそのお礼でいいよ。
 それより、これから少しは自分で作れよ。わかんなかったらやり方は教えてやるからさ。」
「また君が教えてくれるのか?」
「あんた本を読んでわかるっていうレベルじゃないからな。」
「それは嬉しいな。…センセイ?」
「ん?」
「欲のない君と違って私は欲深いんだ。」
あ、嫌な予感。

「昼間の等価交換を果たしてもらえるかな?」
忘れたふりをしたらどうなるんだろう。
おそらくもっと怖いことになるだろうけど。
オレ、セロリをこれから常備することにしよう。
「オレちょっとキッチンに…。」
立ち上がり掛けた腕を掴まれて引き寄せられた。
「君からの口づけが欲しいんだ。」
耳元で囁かれる。
どうして男の囁き声はオレから力を抜き去ってしまうんだろう。
横抱きに膝の上に乗せられ、じっと瞳を覗き込まれる。

「…。」
しなくて済むものならしないで済ませたい。
しかし済まされる訳もないのは明白で。
ええい!しかたがない!
この紅く染まった顔を見られる方が恥ずかしい。
「ちゅ。」
男の唇にキスを落とす。
これだけでもオレの心臓はバクバクだ。
「したぞ!」

男に自分からキスか。
オレの人生、どこまでノーマルな日常からかけ離れれば気が済むんだろう。
もういい加減、気を済ませて欲しい。
しかし男は不満げな顔だ。
「駐車場であんな媚態を見せる君から離れること。
 シーツを一人で買うこと。
 食料品を運ぶこと。
 その等価交換がこれかね?」

『ビタイ』てナンだ!?
『ヒタイ』の方言か!?
「えと、ダメデスカ?」
「ダメだね。」
「ドウスレバイイデショウカ。」
いや、答はいらねぇ。いらねぇよ!
「さあ、君からの口づけを。」
しかたがない。
オレからくっつけりゃいいんだよな。
今までだって何度もされてるんだし。

「わかった。…目をつぶれよ!」
男が黙って目を閉じる。
覚悟を決めてオレから唇を合わせる。
「…。」
「…。」
あれ?唇を合わせているだけで、男の舌が入ってこない。
どうしたんだ?これでいいのか?
「…。」
「センセイ?」
男から口を離す。
「ん?」
「君からと言っているのだが?」
「だからオレから合わせに行ったじゃないか。」
「いや、合わせるだけじゃなくて君から…。」
いいながら男の手がオレの頬に当てられ、親指がオレの唇に入り込んで舌に触れる。
「え!?舌もオレから出すの!?」
「そういうものだろう?」
ソウイウモノデスカ。ソウデスカ。
…イヤデス。
「…。」
ヤダデス!
「どうしてもできない?」
それは…いやだ。
オレ、本当にノーマルなんだよ。ノンケなんだよ。
男の口にオレから舌を入れるなんてイヤだ。
受け容れるのだってイヤなんだ。
いや、気持ちいいと思うのは事実だけど。

男のため息が聞こえた。
「センセイ。舌を出して?」
「え?」
「舌を、ほら出して。」
言われたとおりオレはあっかんべーをするように舌を出す。
「そのまま出しておくんだ。」
言うなりオレの舌に同じように出した男の舌が触れてきた。
「っ!」
思わず舌を引っ込めてしまう。
「こら。そのままと言っただろう?さぁ出して。」

なに?なんだ今の感覚。
すんげえ…気持ち良かった…。
舌って神経が多いのかな。
おずおずと出したオレの舌に、また男が舌を摺り合わせて来る。

お互いに舌を差し出した触れ合い。
それは知らず背中が反るほどの快感で。
今まで男の舌を受け容れていたのとは全く違う、直接神経を刺激するような快感。
「は…!ぅ…ん…っ」
息が乱れて声が漏れてしまう。
吸われることのない唾液が二人の間に幾筋も落ちていく。
それが腿に落ちる感覚すらオレを乱して。

「ぁ…。」
躰の奥から熱が込み上げてくる。
もっと欲しい。
ナニが欲しいのは分からない。
だけどもっと欲しくなる。
そんな熱を産む、オレの知らなかったキス。
いつの間に縋るようにオレの両手は男の首に回っていた。
躰を擦りつけるように自分から寄せている。

そのことに気付いたとき、オレは躰を離して舌を引いた。
「もう…終わり?」
男も息を乱している。
その瞳には明らかに欲情が宿っていて。
オレはここで引かなければもう逃げられなくなると知った。

「あの…さ。風呂、入って来いよ。」
その間に逃げよう。
それしかもうオレが日常に帰る手はない。
「ん。そうだな。一緒に入るか?」
「や、遠慮しとく。」
上機嫌で風呂に向かった男を確認してオレは荷物を調える。
男に貰った新会社法の本2冊も忘れずに持つ。
もうここへは来たくない。
オレの荷物は平日にでも引っ越し屋に頼もう。
鍵は持っているんだから。
逃げるように男の家を後にした。

事務所に行こう。
まだ電車はあるが、ここで家に帰ってアルになにか聞かれるのもイヤだ。
今夜は事務所に泊まろう。
仕事が忙しくなると帰るのが面倒でオレはよく事務所に泊まる。
アルはマメに帰っているが。


事務所に着いて自分の席に座り込む。
思わず大きなため息が漏れる。
どうして。どうして。こんな。
躰が震えていることに気付いた。
いつからだろう。
きっと男の欲情に濡れた瞳を見た時から。
いや、舌を摺り合わせた時から?
わからない。
どうしてあの男がこんなに怖いのかも。
頭を両手で抱え込んだまま、オレは混乱した頭を整理しようと試みていた。
どこかでムダだと解っていながらも。


どの位時間が経ったのか解らなかった。
突然事務所のインターフォンが鳴った。
こんな時間だ。
あの男に違いない。

居留守を使おう。
そう思ってからそれがムダなことに気付いた。
部屋の電気はドアの横の窓から漏れている。
ここにいることは解ってしまっているだろう。
それでも、ドアを開けるまい。
そう思った。
開けたらきっと、オレの日常は二度と戻ってこないから。
オレは居留守を使い続けようと決めた。

「開けたまえ!いるのだろう!?センセイ!」
今度はガンガンとドアを叩かれる。
マンションの金属ドアだ。
すごい音がする。
うわ。今度は蹴り始めた。
ドアがぼこぼこになっちまうな。
耳を覆いたいほどのデカい音が響く。

これでは居留守を使い続ける訳には行かない。
このマンションのほとんどは人が住んでいるんだから。
迷惑をかけてしまう。
きっとソコまで計算してやがるんだろうな。
しかたがない。
日常が手の届かない所へ去るのを惜しみながら、大きく息を吐いてドアの鍵を開ける。

ドアノブを掴む前に勢いよくドアが開いた。
と同時に男が飛び込んできて、オレの腕を掴む。
「…っ!」
いきなり殴られるかと身構えたが、意外にも男は動かずオレを凝視している。
濡れたままの髪、かろうじてジーンズを履いてはいるが上半身はワイシャツにカーディガンを引っかけただけでボタンもとまっていない。
こんな乱れた格好の男は初めて見た。
そして風呂上がりなのに、こんなに息を乱すほど走ってきたんだろうに。
汗をかいているのに。
男の顔は真っ青だった。
それは安堵したような、でも泣きそうな歪んだ顔。

男が強くオレを抱きしめた。
あ!?
震えてる?
オレを抱きしめる腕も耳元に掛かる息も震えている。
なんで?
そんなに怒ってんのか?
…これはかなりマズいかも。

「…黙って…」
「はイ!?」
ビビって声がひっくり返ってしまった。
ここは一つ穏便に収めて戴きたい。
「黙っていなくなるなんて…。」
「あ…あの、悪かったよ。言ったら帰して…」
「許さない!」
最後まで言わせてもくれない。つかオレの言葉なんか聞いちゃいねぇな。
「どこにも君がいないなんて!」

震えるほどの怒りに囚われている男に抱きしめられて、おそらく逃げられないこの状況。
冷静に分析してみても状況は変わらないんだろうが…。
ヤヴァイ!
ヤヴァ過ぎる!
「ごめん!オレが悪…」
「どれだけ私が見守ろうと…我慢して…。」
「だからオレが…」
「なのに黙って逃げるなんて…。」
「話を聞いてクダサ…」
「もう離さない。」
「だから悪かっ…」
「君を抱くぞ!」
それだけはカンベンして下さい!
その時オレの躰は固まり、恐怖のあまり声も出せなかった。

引きずられるように男の家へ連れ戻される。
逃げなくちゃと思考が空回りしていた。
躰が言うことを聞かなかった。
オレの人生最大の危機。
精神の弱さが躰に出ている模様です。
掴まれた腕が痛い。
おそらくアザになるだろう。
そんな埒もないことしか考えられなかった。

男は寝室に入ると無言のままオレの服を剥ぎ取る。
その顔は一切の表情が無くて、それが更にオレの恐怖心を煽り、抵抗を無くさせる。
逃げなくちゃ。逃げなくちゃ。
それは分かっているんだけど。
それにしても、ただ家に帰るだけのことでこんなに怒るなんて。
それが不思議だった。
その疑問がもしかしたらオレから抵抗を奪っていたのかも知れない。

「選ばせてやろう。」
男の声で我に返る。
気が付くとベッドに押し倒されていた。
どうも現実逃避をしていたらしい。
「…なに…を?」
掠れた声だ。オレの声か?
「私に抱かれるか、私を抱くかだ。」
スミマセン。
選択肢が足りません。
などとは言えるハズもなく。
「ど…どっちもイヤなんですが…?」
それでも正直に答える。

「選びたまえ。」
絶対零度の声ってこういうのを指すんだろうな。
凍り付いてるモン。オレ。
オレの思考はとうに止まっていて、えっと選べってどれも嫌な場合はどうすればいいんだ?
「あの…さ?」
「決めたのかね?」
「いや…なんでこんなに怒ってるんだ?」
急に男の顔が歪む。
まるでどこかが痛むみたいに。
「君が黙っていなくなるからだ。」
「そんなことで!?」
オレは最大の危機に陥るのか!?
「そんなこと…?」
あ、剣呑な顔付きに…。
オレ、更に危機を呼んだ!?

「部屋に戻ったら君がいなかった。家のどこにもだ!
 いるはずの人間がどこにもいなくて!
 探してもいなくて。
 君が本当に存在しているのか…不安になって…。」
声が段々弱くなる。
「あのさ…いなきゃ、家に逃げ帰ったんだろうくらい考えないか?」
「考えなかった…。怖かった…。」
怖い!?
この男が!?
オレがいないくらいで?
どうしちゃったんだ?

「君の存在をもっと感じたい。」
あの…それはもっと違う方法でもよろしいのでは…?
「まっ…!」
「聞くのは最後だ。どちらを選ぶ?」
「ちょ!ちょい待ち!今考えるから!」
どちらかというなら答は一つだ。
オレはカマなんぞ掘られたくない。
つか、絶対痛いって。
ならこいつを抱くか?
男を抱くって…。
話には聞いたこと有るけどやっぱ挿れるんだよな。
オレ、勃つかなー。
でも絶対ヤられんのだけはイヤだ。
「わ…解った!オレがあんたを抱く!」

オレ、人生でこれほどトホホな宣言なんざしたことないぜ。



Act.2

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