F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.26
「遊 脇道」Act.26
08.12.24up
翌日も長引くことは無かったが、男は熱を出した。
ソファでショウガ湯を飲み終わった男が
「冬休み中に慣れるかと思ったのにな。」
残念そうに言う。
「ああ。明日っからは熱出すわけにいかないから、仕事始まったら当分週末しか抱けないな。」

官公庁の仕事始めは1月4日、明日からだ。
オレの事務所は5日からだけどな。
「明日は…」
「『出さないかも知れない』はもう無し!」
全く、ちょっとは感じるようになったようだけど、こいつってどうしてそう抱いて欲しがるかなー。
…不安だからか?
確かに手っ取り早く安心する方法ではあるかもな。

「抱きしめて寝てやるからさ。
 それよりちゃんと薬飲んだか?」
「いや。まだだが?」
「じゃ、水と薬持ってきてやるから。
 …少し寝室にも置いておいたらどうだ?」
男が苦笑したので、なんだ?と聞く。

「飲んでいないなら飲めとは。
 君は量を減らせと言うのだろう?」
オレは男の頭を撫でて額にキスを落とした。
「急に減らすと逆に良くないらしいしな。
 定期的にきちんと飲めると解っている方が精神的にも安心できないか?
 不規則に飲むよりはずっといい気がするんだ。」
「そうかも知れんな。だがあちこちに薬を置くのはやめよう。
 なんだかまた多用してしまいそうだ。」
「ん。解った。ちょっと待ってろ。すぐ持ってくるから。」

今までは規定の2倍量を、回数も多く飲んでいたらしい。
相談の上、とりあえず当分は1.5倍の量を規定回数だけ飲むことに決めた。
それでダメならまた考えればいい。
焦ってはいけない。
互いにそれをよく確認しておいた。
まだ先が長いんだから焦ることはないんだ。

翌朝も職場で昼間に飲む分の薬を持たせることにした。
少しは楽しくと思って、昨日のうちに作った小さいポーチ(ヒヨコ柄の巾着型)に薬を入れ、弁当にくっつけてみた。
昼にどんな顔をするかが楽しみだ。
男が出掛けてからルジョンに連絡をした。


「よ。冬休みだってのに、たびたびごめんな。」
診察室の椅子に座って詫びる。
「いや。ほら。12月分の帳面。」
「ありがたい。じゃ、源泉徴収票が来たら連絡くれよ。」
「ああ。…で?」
相変わらず人のいい笑いを浮かべて聞いてくる。

「…うん。飲む量を少しずつ減らすことにはした。」
「精神的なことは?なにか聞いたのか?」
「いや…詳しくは聞いてない。先ずは量を規定量まで減らすことが大切だと思って…。」
「ま、焦ることはないさ。」

「ん。オレもそう思ってる。
 …ただ、自分には愛される資格がないって言うんだ。
 でもそれはオレに嫌われるのが怖いから話せないって。
 元々オレを失うってことに異常な恐怖感を持ってるんだけどな。」
今までの、オレが家にいないと思って取り乱した様子やオレを失うことへのあの異常に怖がる様子などを話した。
「んー?」
ちょっと考えているようだ。

「資格がないって、同性だからとかかなり年上だからとかじゃないよな?」
やっぱり普通はそう考えるよな?
「ああ。今更そんなことを気にするヤツじゃない。」
「そんな人が怖くて言えない…か。」
椅子の背に凭れて目を瞑っている。
こいつならナニか解るだろうか?

「ああ。オレには想像が付かないんだけど、お前解るか?」
「オレはなるべく想像はしないことにしている。先入観を持つのが怖いからな。」
なるほど。
「そ…か。そう言うこともあるな。」
「いや。人それぞれだけどな。
 オレはあまり器用じゃないから、いろいろ先回りして考えてしまうと方向性を失うような気がするんだよ。
 だから相手の言葉を待つ。
 お前にもそうしろって訳じゃあないぞ?」
「ああ。」

「ましてオレはその人のコトを全く知らないからな。
 今オレが当てずっぽうにナニか言っても意味がないだろう?」
確かにその通りだ。
うん。さすがはプロだ。
皮膚科専門だけど。

「最近の皮膚科は神経科も兼ねるのか?」
これ以上聞いても仕方がないだろう。
オレは話題を変えた。
「ああ。どうも看板が目に入らないのか、不眠症だの神経症だのの患者が増えてるんだよ。
 なんでだろうなぁ?」
本当に思い当たらないらしい。

「お前の人当たりの良さと誠実さが原因だと思うけどな。
 薬を一ヶ月分出すってのも、患者同士の情報で広がってるだろうし。」
「あー。患者同士の情報網か。それはあるかもな。
 しかしオレの性格云々よりも専門の神経科医の方が信頼できるだろうに。」
自分が他人に与える安心感の大きさを知らないらしい。
そんなところもこいつらしいが。

「でもお前はただ薬を出すだけじゃないんだろ?
 自分を信頼してきた患者にはさ。」
「そりゃ、医者だからな。最近はカウンセリングの講座や研修にも出ているんだよ。
 そのうち看板の診療項目が増えるかもな。」
苦笑しながら言う。

そんな程度じゃなくもっと神経科医としての努力もしているに違いない。
そういうヤツだ。
その真摯な姿勢がやはり患者を呼ぶのだろう。
オレが患者でもこいつに診て貰いたいと思うな。

「皮膚科だけでも忙しいんだから、無理はしないようにな。」
そろそろ引き上げよう。
「ああ。お前もな。
 これから忙しい時期だろう?
 しばらくその人の精神のことには踏み込まないようにした方がいい。
 もっと落ち着いて、ずっと側で様子を見られるようになるまでは。」

そうか。
確定申告が終わる3月中旬までは、ロクに話しを出来ない日も出てくるしな。
「ああ。ありがとう。気が付かなかったよ。
 そうだな。4月か…6月になったらにする。」
そんな仕事の都合で精神のことは決められないんだろうけど。
あまり触れないようにはしよう。

「まあ。とにかく焦るな。お前がずっと側にいると解れば少しは安定するだろうから。」
「ああ。それは心掛けてるよ。
 今日はありがとな。」
「いや、なんの役にも立ってないさ。
 またなにか有ったらいつでも言えよ?」
「ああ。頼む。じゃ、またな。」
「源泉票が来たら事務所に連絡すればいいんだよな。」
「ん。」
「気を付けて帰れよ?」
「ああ。サンキュ。」

別れ際まで相手のことを気遣うこいつ。
きっとどの患者に対してもそうなんだろう。
うん。神経科の看板が立つ日も近そうだ。
どの診療内容に消費税がかかるのか、オレも調べておいた方がいいな。
そんなことを考えながら男の家へ帰った。


インターフォンが鳴り、オレは待たせないよう急いで玄関へ行った。
先日のデートで一緒に買ったダークブラウンのエプロンを付けて。(いや、服も着てるぞ?)
「おかえりぃ!」
がし!と抱きしめる。
「ああ、ただいま。やはりエプロン姿もいいな。」
このデザインを選んだのは男だ。
シンプルなダークグレー(こっちが男の)とダークブラウンの色違いペアだ。
フリフリにされないで良かったよ。

「昼、ちゃんと薬飲んだか?」
反応はどうだったんだろう?
「ああ。飲んだよ。
 あの袋なんだがな?センセイの手作りの。」
お、にこやかだ。
「うん?かわいかっただろ?」
ついでに弁当を入れる袋もランチョンマットもお揃いのヒヨコ柄にしてやった。

「ホークアイ君が欲しがってな。
 今度犬柄の布を持ってくるからセンセイに頼んでくれないかと言うんだ。」
へえ。ホークアイさんは犬が好きなんだ。
しかしこいつはヒヨコ柄を恥ずかしがるどころか、ホークアイさんに自慢したという訳か。

「ああ。あんなんカンタンに出来るからいつでもいいぜ?
 ランチョンマットと弁当袋でいいのか?」
「あと、今日の薬入れよりも二回り大きいポーチが欲しいそうだ。」
このくらい、と指で示している。
「ん。じゃ布を受け取ったらオレにくれよ。時間によるけど多分翌日には渡せるから。」
あー。ここんちにミシン買っといてよかった。

その日は抱いてくれ、いやダメだの攻防戦が繰り広げられ、オレは理性を保ち続けた。
危なかったよ。
ガンバった!
オレ!
だってホークアイさんが怖いモン!


翌日からはオレの仕事も始まり朝一緒に事務所まで歩き、昼メシを食いにまた事務所に男が来るという日々が続いた。
オレが残業になる日は事務所で男が時間を潰し、あまりに遅くなる日は3人分の夕食をオレの実家から持ってきてくれる。

薬を減らしたまま安定は続いているようで、特に取り乱す様子も見られなかった。
あれ以降、うなされることもほとんど無い。
このまま穏やかな日々が続くのかとオレは安心しかけていた。

「はい。では明後日お伺いします。」
オレはお客さんと電話で話していたので、男が昼メシに来たことに気付かなかった。
「ええ。お嬢さんはお元気ですか?
 …ああ。美人さんですからね。モテモテでご心配でしょう。
 …ははは。オレだって嫁さんに戴きたいですよ。
 …またご冗談を。お嬢さんを手放す気など無いでしょう?
 …え!?ホントですか?
 …じゃあオレ、結婚の申し込みに伺いますよ?
 …ええ。出来るだけ若い内がいいです。
 …本気です。ええ。ずっと戴きたいと思ってました。
 …ではそのお話しは明後日に。
 …はい。
 お逢いできるのを楽しみにしているとお伝え下さい。
 …はい。
 では失礼します。」

うわ。
アメリカンカールの超美猫がオレんちに!?
嬉しいなー。
男も喜ぶだろう。
動物は精神のケアにいいっていうしな。

しかしなんだかんだ言って絶対手放さないんだよな。
あのお客さんは。
ま、美人な猫の顔が見られるだけでも嬉しいからいいや。
ご機嫌で振り向いた先には男がいた。

「おお。来たか。メシにしようぜ。」
アルが側でなにか言いたげに立っている。
「なにしてんだよ?中入れってば。
 話したいこともあるし。」

玄関に突っ立ったまま男は入って来ようとしない。
「…今日私は女性と食事するから遅くなる!」
突然言い出した。
は?

「そうか。夕メシはいらないのか?」
「ご婦人とデートだと言っている!
 昼もここで食べない!」
「おお。頑張れよ?」
応援したんだが余計に顔を引きつらせて出て行ってしまった。
どうしたんだ?

「兄さんとこって、浮気公認なの?」
驚いたようにアルが言う。
「は?ナニが?」
「今、女性と食事って言ってたじゃない。」
あー。アレか。
「ホークアイさんと残業で出前ってことだろ?
 昼メシ食う時間も無いほど仕事が忙しいなんてこと、ショチョウになってもあるんだな。
 夜食を作っといてやるか。」
めずらしくやる気だなー、と感心した。

「兄さん。楽しいことになりそうだからボクは静観させて貰うけど、ホントにそう思ってるの?」
「は?他にナニがあるってんだ?」
「ロイさんが浮気するとか。」
「あいつが浮気なんかするわけねぇだろ?オレしか見てないぜ?」
オレは全く気にせず、メシを食い始めた。

「ところで新婚生活はどう?」
なんでみんな新婚っていうんだろう?
「あー。まあまあかな?」
「ウィンリィ達が、ロイさんが感じるようになってきたって狂喜してたよ。
 その後が知りたいってさ。」
「前よりはな。つらいだけってのはオレもイヤだから嬉しいけど、まだすげぇ感じるっていうんじゃ無いみたいだ。」
男同士って、どの位まで快感なモノかオレには解らない。

「ロイさんにもっと感じて欲しい?」
「ああ。そりゃな。当たり前だろ?」
なにやらごそごそと鞄をあさっている。
「でさ、兄さん。そこでこれを試してはどうかと。」
アルがチューブを取り出す。
「あ!?ナニそれ?」
「イワユル媚薬ってヤツ?」
「なんでそんなモンお前が持ってんだよ?」
「試しにと買ってみたんだけど。
 どの位効くものか解らないし、ヘタにオンナノコに使って失敗したら犯罪でしょ?
 いや、例え合意の上でもさ。」
「アル…。」
使う段階で犯罪じゃないのか?
違うのか?
オレはそんなもん誰にも使ったことがないから解らない。

「それをヤツの躰で試せと?
 性別は関係ないのか?」
「粘膜から吸収するタイプだから、どっちにも使えるんじゃないの?」
「躰に悪そうだぞ?」
「いや、怪しい成分は入ってないよ。覚醒剤とかの類でもないし、違法な薬剤も入ってない。」
「ホントかぁ?」
アルが持っていると言うだけで全てが怪しく感じるのはオレだけじゃないハズだ。

「気が向いたらでいいからさ。使ってみてよ。
 あ、できるなら塗った後、どの位で効果が出るのか知りたいからあまり刺激せずに時間を計ってくれると嬉しいな。
 反応も後で報告してね。」
「お前…あいつを実験材料にさせるつもりか?
 兄ちゃんの恋人をなんだと思ってんだ!?」
「いや、ほら。円満な夫婦生活に貢献したいだけだよ?」
「誤魔化すな!オレはこんなもん、使わねぇよ!」
それでも強引にポケットに突っ込まれた。
こんなん使うかっつぅの。
オレが生身で感じさせてやるぜ!


5時半を過ぎた頃
「兄さん。定時も過ぎたことだしロイさんに応援コールをしてあげたら?」
何事か含んだような声でアルが言い出した。
「あ?仕事の邪魔になるだろ?」
折角やる気になってるのに。
めずらしいことだろう。
「ちょっとなら却ってヤル気が出るよ。声を聞くだけでも喜ぶんでしょ?」
んー。そうかな。そうかもな。
「じゃ、掛けるか。」
照れくさいので資料室で掛けた。

「はい。署長室です。」
ホークアイさんだ。
やっぱり付き合わされて残業してんだ。
なんか申し訳ないな。
「エルリックです。ショチョウをお願いします。」
「エルリック先生。先日は可愛いお弁当袋を有り難うございました。
 早速愛用させて戴いてるわ。
 あら?無能は定時にあがってこちらを疾うに出たけれど?」
まだそちらについてないのかと聞かれる。

「あー。買い物でもしてるのかも知れませんね。
 すみませんでした。失礼します。」
「いいえ。失礼致します。」
ツー、ツー、という音をぼんやり聞いていた。
「どうだった?」
オフコンの前に戻るとアルが聞く。
「いなかった。…定時に帰ったって。」
「やっぱりね。」
やっぱり?

「アル!?どういうことだ?」
「兄さん、ロイさんが来たときの電話、覚えてる?」
「あー。お客さんが例のアメリカンカールの美人猫、オレに譲ってもいいって言ってくれてさ〜♪
 いや、結局手放しゃしないんだろうけど、ちょっと嬉しいよな。
 一時の夢ってヤツ?」
思わず顔がにやけてしまった。

「そうそう、それ。誤解してるでしょ。きっと。」
「は?」
ナニを?
「お嬢さんは美人だ。ずっと嫁に貰いたいと本気で思ってた。結婚の申し込みに行きます。で、逢えるのを楽しみにしてると伝えてくれと。
 これしか聞いてないんだよね。ロイさん。」
「はあ!?だって猫だぞ!?」
「だからその部分は聞いてないっていうか、兄さん一言も言ってないでしょ?」
猫好きな人にとって猫はペットではなく、家族の場合が多い。
だからついそういう言い方にこっちもなってしまう。

「誤解…してんのか?」
「だろうね。女性とデートって、本当だと思うよ。」
「あいつが…浮気?」
「しようとしてるだろうね。
 ロイさんが兄さんしか見て無くても女性にモテるのは事実だし。相手には困らないでしょ?」

あ、面白くない。
すごく。
「…腹立ってきた。」
「いや、誤解させた兄さんにも責任はあると思うけど?」
「だからって確かめもせず、いきなり浮気するか?
 オレをそんなに信じてないのか?」
「ボクに言われても困るけど。
 普段から負い目を感じてるだろうしね。同性だし、ずっと年上だし。
 いきなり直情的な行動に走るのにはボクも驚いたけど。」
「…あいつは結構嫉妬深いんだよ。つか、すごく嫉妬深い。
 すぐ拗ねるし。」
「へえ。そうなんだ。さすがツンデレ。」
アル、お前ホントに楽しんでるだろ?

「あー。ダメだ。ムカツク。
 今日はこれでキリがいいから帰る。
 …明日も休むかも知んねぇ。
 資料がそろってるところは終わってるからいいよな?」
知らず声が低くなってるな。オレ。
「ひ〜。兄さん鬼畜入ってるよ?
 ロイさんを壊さないようにね。」
壊しゃしねぇよ。
大切な男だ。
「ああ。多分な。」
それでも腹が立つことには変わりがない。
なんでオレを信じないんだ?


メシを作る気にも食う気にもならず、オレは暗いリビングのソファにずっと座っていた。
女性に嫉妬している訳じゃない。
オレになんの確認もせず、信用しなかった男に腹を立てているんだ。
オレがどれだけ好きだと、ずっと一緒にいたいと伝えても信じてなかったってことだろ?
それが一番悔しくて腹が立つ。

何時間経ったんだろう
玄関を開ける音がした。
さすがにインターフォンを鳴らす気にはならなかったようだ。
オレはそのままリビングに座っていた。
オレの部屋、書庫、寝室、キッチンと覗いているらしい。
最後にリビングに来た。
灯りを付けて初めてオレに気付いたようだ。

「よお。楽しんできたか?」
自分でも思っていないほど低い声だった。
「ここにいたのか。」
男の声も不機嫌で低い。
「で、楽しかったのかよ?」
もう一度聞く。
ちら、とオレを見て面倒くさそうにコートを脱いだ。
コート掛けに掛けろっていつも言ってんのに。

オレはソファから立ち上がって男のスーツの襟を掴んだ。
「なんとか言えよ!」
「言いたいことがあるのは君だろう!?」
オレを睨んかだと思うとすぐその瞳を逸らす。
「私が何をしようと、もう君には関係ないだろう?
 若いお嬢さんと結婚するくせに!」
やっぱりそう思ってたのか。
オレを全く信用せずに。

「ああ。生後3ヶ月のアメリカンカールのお嬢さんとな!
 結局飼い主は手放さないだろうから、顔を見に行って終わるだろうけど!
 それでもいいんだよ!
 オレには甘えたで美人な最上級の黒猫がいるからな!」
驚いた顔でオレを見る。
「え…?猫?」
「そうだよ!猫だ。オレは猫が好きで、ずっと飼いたいと言ってたんだよ。
 今日譲ろうかと初めて言って貰ったんだ。
 で、あんたは誰とナニをしてきたって?」

戸惑った表情を浮かべて黙っている。
「ほら。言ってみろよ!
 オレがずっとあんたを好きだって、一緒にいたいって言ってたのを信じもしないで!
 誰とどこでナニしてきたのかオレに言えよ!!」
襟を引き寄せた拍子に石けんの匂いがした。
それを嗅いだ途端、オレはキレた。

「いや、躰に聞くから言わなくていい。」
オレはこれ以上ないほど低い声で告げ、そのまま男をソファに押し倒した。





税務署の仕事納めは12月28日だったことが先日判明。(作内では29日と言ってしまってます。)
しかし直そうとすると、『遊』からおかしくなるので放置プレイさせて戴きます。
申し訳ございません。


Act.27

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