F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) > 「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ)
08.12.17up
(旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
アルとこっちの世界に来て、3度目の冬が来た。

グレイシアさんはヒューズじゅ…じゃなかった。ヒューズさんでいいか。
彼と結婚をして、かわいい女の子が生まれた。
もちろん名前はエリシア。
思えばオレとアルはエリシアが生まれるのを二度体験した訳だ。
これにはオレもアルも笑った。
暗い世情の中での嬉しい出来事だった。


  **************************


オレ達が下宿をしていたヒューズ夫妻の家に住人が増えると聞いたのは、ある日のささやかな夕食の時だった。
(もう食糧事情も悪くなりかけていたが、グレイシアさんの努力とそれなりの力を持つようになったヒューズさんのおかげでオレ達は食べることには苦労しなかった。)

「オレの学生ん時からの友人だ。
 3月に編成された第1SS戦車師団に所属していたんだが、まあアーリア人の特徴を持っていなくてな。
 優秀なヤツだから冷遇されたって訳じゃないんだろうが。
 本人も色々考えたんだろう。
 今度オレと同じく警官になるということなんだ。」

話を聞くと、どうやら選民主義のドイツ労働者党員とは違うらしい。
元々身元のはっきりしない立場のオレ達は初め警戒していたが、大丈夫そうだと解った。

そしてその人が来たとき
一目見ただけで心臓を鷲掴みにされたような苦しさに襲われた。

「兄さん、あの人!」
「そら似だ!この世界ではよくあるって知ってるだろ?」
なるべく視線を合わせないままそっけなく挨拶をしてオレは自分の部屋に隠った。


  **************************


それからは当たり障りのない会話をなるべく少なく交わし、オレはできるだけその人との接触を避けていた。
黒髪に切れ長の黒い目、鼻筋の通った端正な顔。
白い肌。
オレに何度も愛していると囁いた声がオレを苛むから。

可能性はあると思っていた。
ヒューズさんの側にいれば尚更。
それでもここにいたのは、最初は自分のため。
アルにそっくりだったハイデリヒに寂しさを癒されたから。
アルが来てからは、少しでも見知った人達に囲まれることでいきなり違う世界に放り込まれたアルの不安を少しでも減らせたらと思ったから。

本当にそれだけか?
オレは本当は…。
そう思いかける自分を、オレは頭を振って何度も誤魔化していた。


  **************************


オレが避けているにもかかわらずその人、ロイ・マスタング(ご丁寧にファミリーネームまで同じだった。)はよく話しかけてきた。
その度にアルを引き込んで相手をさせていたが。
アルもオレの気持ちを解っていたから、その人が気分を害さないように気を遣って相手を引き受けてくれていた。

オレはその人を見ないように、声を聞かないようにしていたけれど、それでも意識が集中してしまうのを止められなかった。
何をしていても、その動向に意識が向いてしまう。
本を読んでいても背後でアルと話す男の様子をオレはすべて感じ取っていた。

今食事に向かって階段を下りている。
今ヒューズさんと笑いながら話している。
今…オレを見つめている。
「…なに?」
アルと座りながらオレの方を見ているその人に背を向けたまま聞く。
「え?なにが?兄さん。」
「…いや。なんでもねぇ。」
自分に話しかけられたことが解ったくせに、何も言わない。
そんな訳のわかんないトコまでそっくりだぜ。

うんざりしていた。
オレがいくら避けようとしても近づいてくるその人に。
近づきたくないのにそいつを意識してしまう自分に。


  **************************


風呂から上がって部屋に行こうとすると、階段の上にその人が立っていた。
脇をすり抜けて部屋に入ると一緒に入って来る。
「なんか用かよ?」
できるだけ会話が続かないように祈る。
「君は私が嫌いかね?」
その顔でその声で聞かれて…。
瞬間思考が止まってしまった。

「…んで?」
かろうじて絞り出した声は掠れていた。
「避けられているようだから。」
嫌いだと、もう話しかけるなと言っちまえ!
「そ…か?」
オレに近づくなと、顔も見たくないんだと。
「ああ。気のせいならいいのだが。」
どうして?
そう思うんだ?
ああ。違う!
気のせいでは無いと…嫌いなんだと言わなくちゃ。

「気のせい…ならどうだって言うんだ?」
その人はオレの好きなあいつの笑みを浮かべた。
嫌味じゃない、あいつがオレにしか向けなかった笑顔。
「ん?嬉しいと思うな。私は君を好ましいと思っているから。」
好ましい。
そんな言葉に鼓動が跳ねる。
…ダメだ!

「…は! そりゃオレに恋してるってことか?
 そんな意味じゃないよな?
 同性愛は御法度だろ?」
この年ヒトラーの政権が樹立され、ワイマール共和国は事実上消滅した。
ナチスドイツにおいては同性愛は赦されざる罪だ。
元SSで今も警察官のこの男が、そんな罪を犯すはずもない。

オレは内心ホッとした。
ほら。
この人はやっぱりあいつとは違うんだ。
別人だよ。

「それでも…君に愛情を抱いてしまったと言ったら?」

息が止まった。

心臓が耳に移動してきたみたいだ。鼓動が聴覚を蝕む。
「…冗談!オレはそんな趣味は持ち合わせてないぜ。」
ちゃんと言えただろうか?
自分の声すらよく聞こえなくて自信を持てない。
「そうかな…?」
かろうじて聞こえた声。
否定するな!
頼むから否定しないでくれ。

「ああ。オレは男だし女の方が好きだ。『健全』にな。」
男がオレに近づく。
その歩数に合わせてオレも下がるが、広くない部屋だ。
すぐに背中が壁に行き当たってしまう。
「ならばなぜ、君は常に私を意識している?」
「は…はあ!?なんだよそりゃ。」
気付かれていたのか。
「いつも私に意識を向けているだろう?
 私に背を向けているときも。
 もしかして同じ部屋にいないときですらそうなのではないか?」
そうだよ。
「…気のせいだろ?」

ああもう。部屋を出て行って欲しい。
ずっと離れているあの男と匂いすら同じで。
抱きしめたくて触れたくて…渇いているんだから。
「君は私が嫌いか?」
「…悪いけど。考えたこと…もない。」
ウソだ。
解ってしまってるだろう。
オレは自分でも解るほど動揺している。
オレの気持ちはこの人に知られてしまった。
ふ、と笑って
「そうか。このご時世だ。君に迷惑を掛けたいと思っているわけでは無いが、私は君に惹かれている。
 …それだけを伝えたかった。」
そう言い残して男は部屋を出て行った。

オレはその場に座り込んだ。

早く。早く旅に出ようとその時思った。
もうここを離れよう。
あの人から離れよう。と。


  **************************


ヒューズさんとグレイシアさんには、オレ達のことを話していた。
オレ達の居た世界のことを。
ヒューズさんはエッカルトのことも目の当たりにしているし、なによりその場にいたのだからすぐに信用してくれた。
オレ達にとってもヒューズ夫妻は信頼できる人達だった。

ウラニウム爆弾を探しに行くと告げた後、ヒューズさんは出来るだけの情報を集めてくれた。
アルと旅に出る。
それはオレ達にとってなじみの行動に戻ると言うことだった。
探すモノが『賢者の石』から『ウラニウム爆弾』に変わっただけで。


  **************************
 

それぞれの部屋に戻って旅の準備をしていた。
ふと廊下に気配を感じた。
「…どうぞ。」
その人は静かに入ってきた。
「旅に出るそうだね。」
オレのベッドに座って言う。

ヒューズさんからオレ達のことをこの人に話していいのかと訊ねられたが、特に口止めはしなかった。
この人なら大丈夫だろうと。(ヒューズさんもその辺は太鼓判を押すと言っていた。)
「ああ。やっかいなモンだから探して消滅させないとな。」
未だに顔を直視できず、背を向けて荷物を調えながら応える。
「そうか。では私は君が帰るのを待っていることにしよう。
 君が無事に帰るのを。」

オレの帰りをを待つ!?
「やめてくれ!」
オレは知らず叫んでいた。
「エドワード?」
オレを待つ男なんてまるであいつみたいでそこまでこの人があいつと同じになられたらオレは…。

「エドワード!」
耳を押さえて膝を付いたオレを後ろから男が抱きしめてくる。
ああこの腕だこの胸だこの体温だオレを愛してオレが好きででも愛してるって言えなくていつかずっと一緒にいられるようになったら愛してるって言おうと思っていたのになんでオレの名前を呼んでくれなかったのかなオレを愛してくれたのに愛してくれた男はあいつでこの人じゃなくてこの人じゃないんだから……。

「エド!エドワード!落ち着くんだ!」
背後からの抱擁は強くて優しくて。
男の指がオレの涙を拭っていて、それでオレは自分が泣いていることに気付いて。
ああ。以前もこんなことが有ったなでもそれはこの人じゃなくてそうだまだオレがあいつを好きと自覚してなかったときのそれでもあいつに救われていて。

「放せ…。」
この人の存在はこの人の腕は暖かさはオレを苛んで狂わせる。
「大丈夫…だ…。離してくれ。」
震えるほど抱きたいんだよ。
あいつを。
それはあんたじゃなくて。
「放してくれ。」
伝わっているはずなのにオレを抱きしめる腕の力は変わらない。

「おい!」
「放したくない。エドワード。私は君を愛している。」
「…オレは…あんたを愛してない。」
「…それはウソだろう?」
「ウソ…じゃ…ない。オレが好きなのはあんたじゃない。」
ぱたぱたとオレの膝に涙が落ちる。

「私によく似た男だそうだな。」
ひくり、と躰が揺れる。
「誰に…聞いた?」
「やはりそうだったのか。」
その言葉で謀られていたことが解った。

「っ!」
振り払おうとした腕を掴まれてもっと強く抱きしめられた。
「それでもいいと言ったら?
 君が愛する男の代わりに、私が君を愛すると言ったら!?」
この人がオレを?
無くしてしまったあいつと同じ顔の男がオレを愛して?
アルが躰を取り戻して側にいて。
グレイシアさんもヒューズさんもエリシアも元気で側にいてくれて。
旅から戻ればこの人が『おかえり』と迎えてくれて。
きっとウィンリィさえ見つかるだろう。
ピナコばっちゃんとともに。
オレの望んだ世界。
なんて甘美な誘惑。

「ああ。それはオレの理想だな。」
男の肩に頭をもたれ掛ける。
涙が耳を伝って首筋に流れていく。
「そうだ。エドワード。私を受け容れてくれないか。」
この腕を受け容れたらどんなに幸せだろう。
この躰の熱さえ、快感とともに冷ましてもらえるだろう。
この男を受け容れればきっと幸せになれる。
オレの幸せはこの腕にある。

このままこの人を抱きしめて、愛されるままに愛し返して。
好きだと愛していると焦がれているんだとこの気持ちをそっくり伝えたい。
縋り付いて抱きしめてキスをしてその躰に触れて思うまま貪ってしまいたい。

しかしそれは赦されないことだ。
この人はあいつじゃない。
オレが置き去りにして独りにさせたあいつじゃないんだから。

オレだけが満たされる訳にはいかない。

「…ごめん。」
だから受け容れることは出来ない。
「エド…ワード…?」
「あいつさ…たった独りなんだよ。
 あの世界に…もうオレはいなくてさ…。」
嗚咽が込み上げてくる。
「オレだけ…幸せになるなんて…出来…ないだろ…?
 あい…つ…独り…な…に…。」
今どうしているんだろう?
オレの居ない世界で。
オレだけ幸せになる訳にいかない。

どんなにこの男に惹かれているとしても。

「ごめ…。オレ…あ…たに言え…な…。」
どうしても『好き』とは言えないんだよ。
それは赦されないことだから。

「解った。
 …すまなかった。」
後ろから抱きしめたまま髪を撫でられた。
『いつも』のように。
あいつのように。
「ごめん…。」
「いや。」
ふ、と笑いが耳に落ちる。
「そんな君だから…惹かれたのだろう。」
このまま堕としてしまいたいのだがね、という囁きにめまいがするほどの欲情が込み上げてオレは男から無理矢理離れた。

「も!もう…!二度と触れないでくれ。
 お願いだ。約束して欲しい。
 でなければオレは…もうここには戻らない。」
ミュンヘンは今最先端の文化都市だ。
人間が集まってくる分、情報も集まりやすい。
このままオレ達の拠点にする方が、探索に都合がいい。
旅の間にヒューズさんが情報を集めてくれると約束もしてくれている。

「…解った。もう君に触れない。
 だからここへ帰って来てくれたまえ。」
オレに伸ばしかけた手を下ろしてこの人が言う。
「ああ…。」
これが最後だ。
最後にこの顔を忘れないように見つめておこう。
オレは想いを隠さないままの瞳でこの人を見つめた。
「ああ。『ここ』に帰ってくるから。」
この人のところに。


  **************************
 

それからウラニウム爆弾を探す旅が始まった。
笑っちまうほどそれは以前の旅とよく似ていた。
探して、アテが外れて『ここ』へ戻って。
ヒューズさんとあの人が情報を集めておいてくれて、時には旅の愚痴をこぼして。

やがてオレは自分のことに集中しながらあの人に意識を向け続けることを体得した。
それはオレにとって自然なことになった。
決して触れない躰、絡まない視線。
それでも意識は寄り添っていた。
その事がオレに罪悪感を持たせ続けた。


  **************************


ナチスが台頭してくるとオレ達『アーリア人』とは遠い外観を持つ人間(特にオレとアルは戸籍すら存在していない。)には危険が迫ってきた。
ヒューズさんの口利きでオレとアル、そしてあの人は戦争中のどさくさに紛れてドイツの同盟国だった日本へと移った。
黒髪に黒い目の人間ばかりの国だ。
あの人は巧みに国の機関に入り込み、順調な出世をしオレ達を保護しながら情報を流してくれた。


  **************************
 

やがて戦後数年してオレ達はウラニウム爆弾の処理に成功した。
もう原子爆弾が投下されてこの世界でも開発されるのは目に見えていたけど。
それはオレ達のけじめだったから。
そしてオレ達は完全に向こうの世界と決別した。

アルはウィンリィによく似た女性と家庭を持ち、子供と孫に恵まれた。
それはオレにとっても大きな歓びだった。
時折オレの家にも遊びに来てくれるのが唯一の楽しみになっていた。

そしてあの人はずっとオレと暮らし、穏やかにこの世を去った。
オレは何回あの男を失うんだろうな。
でもあの人を残して先に逝く訳には行かなかったから。
もうあいつじゃなくても置き去りにするのは嫌だったから。
オレは静かにあの人の死を受け容れた。


  **************************


なあ。大佐?
あんたにそっくりだったあの人が年老いて
しわくちゃになって
ヨボヨボんなって
あんたと違う人なんだと実感できたら
「好きだ。」と
言おうかなんて思ったことがある。
でも、
あんたが年を取ったら
こうなるのかなんて
考えてたら
やっぱ
言えなかったよ。

そして
言えるはずもなかったと気付いたんだ。

そんなこと
赦されるわけないじゃないか。

あの人とオレに有ったのは
たった一度の
オレを惑わせた抱擁。

後は指先にすら触れることはなかった。

ただ
どこにいても
なにをしていても
あの人に向けていたオレの意識。

それでも
それらは

オレの罪。

あんたには
残せなかったものだから

赦されない
オレの罪。

いくらあの人が違うと言ってくれても
オレが赦されることはない。
オレが
オレを
赦さない。



ああするしかなかったと解ってはいても
あんたを置いてきたこと
後悔しなかった日なんて
一度も無い。


あんなに愛してくれたのに
オレはなんにも残せなかった。

あんなに愛してくれたのに
とうとう
『愛してる。』って
言えなかった。


今あんたは
なにをしているんだろう。
どんな気持ちでいるんだろう。

いっそ憎んでくれないだろうか。
そしてオレを忘れて
幸せに…。

…イヤだ!

忘れないで。

オレを
嫌いになって
憎んで
怨んで

それでも
それでも
覚えていて

殺意を持つほどにオレに精神を注いで
その精神に切り傷のように
オレを刻んで

オレを忘れないで。

オレを赦さないで。



こんな日は
腕よりも脚よりも
精神が痛む。


大佐。

…ロイ



逢いたいよ。



        fine


060918  


完結編に書き損ねたのですが、「遊」本編 vol.6の

「…だ……てはくれないのかい…?」
「…たら…してくれるのかな?」
「…寂しいよ…。」

「まだ…還ってきてはくれないのかい…?」
「いつになったら思い出してくれるのかな?」
「…寂しいよ…。」

でした。
自分で書いて忘れてました。
うわ。解いてない伏線あったらどうしましょう。



「遊 脇道」Act.1

clear



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