F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) > 「遊」vol.22
「遊」vol.22
08.12.12up
男がベッドを離れる気配で目が覚めた。
「ん…。はよ。」
「おはよう。」
起きあがろうとするのをそっと止められた。
「そのまま横になっていたまえ。すぐに戻ってくる。」
「?」
とりあえず男の言う通りベッドに横たわっていた。

頭が少し痛む。
昨日泣きすぎたせいだろう。
躰のあちこちが強張っているし、節々も軋んでいた。
「掃除も終わってるし、いっか。」
今日は予定もない。
のんびり過ごせばいいや。

そんなことを思っていると男が戻ってきた。
「目を瞑って。」
言われるまま仰向けに目を瞑ると冷たいタオルを瞼に乗せられた。
「腫れている。しばらくそうしていたまえ。」
額にかかる髪をそっと退けるようにして、優しく梳いている。
「ん。サンキュ。…気持ちいい。」
オレ、ひっでぇ顔してんだろうな。
こいつに今更カッコつける必要もないから構わないけど。
それでもちょっと申し訳ない。
今朝くらいはもっと元気な顔を見せたかったな。

「センセイ。明日温泉に行かないか?」
「は!?」
いきなりなヤツ。
「近場だが評判のいい宿があってな。年越しにと取っておいたんだ。」
年越し温泉。
すごいジジむさいけど。
「いいな。それ。オレそんなの初めてだ。」

いつもは終わりきらない仕事に追われるか、母さんの正月の準備を手伝うかくらいで大晦日は終わる。
だいたい気が付いたら年を越してることが多いしな。
酷いときには事務所で入力しながら
「あ゛ー。兄さん明けましておめでとう。」
「あ゛ー。オメデト。」
とお互い目の下にクマを育成しながらアルと言い合う時すらあった。

そうだ。あんときゃ年末のクソ忙しい時に法人の調査が入ったんだ。
ったく、常識で考えろっての。
それに比べりゃ今年は大分余裕があるしな。
うん。楽しみだ。

もう暖まってしまったタオルを外す。
「もう一度冷やしてくるか?」
それを受け取って男が言う。
「いや。も、大丈夫。あんがとな。」
だいぶ目もすっきりした。
「さてと、今日はどうする?
 昨日掃除は済んでるし。
 つってもこの家綺麗だったからロクにやることなかったけどな。」
「そうだな。…今日から休みだし、一日君とベッドで抱き合って過ごそうか。」
「だぁぁあ!ふざけんな!時間がもったいねぇ!」

抱きついてきた男を押し除けた瞬間、オレは気付いてしまった。
その瞬間に瞬きでもしていたら気が付かなかった、ほんの一瞬。
男がホッとした表情を見せたこと。
それはきっと、オレがいつもと同じ反応をしたから。
男の言葉に怯えることも、これまで見せなかったような拒否反応を示すこともなかったから。
それはこいつの確認だったんだろう。
どこまでも気を使わせちまってるな。

「オレ、風呂に入ってくる。腹減ってたら先にメシ作るけど?」
「いや。ゆっくり入ってきたまえ。」
くったりとベッドに倒れ込んで男が言う。
そんなに心配だったのか。
なんかホントに申し訳ないな。
少しでも喜ぶこと、してやりたいな。

「…肉。」
「は?センセイ?」
「すね肉の煮込み、作るって言ったろ?買い物に行こうぜ。」
確か楽しみだと言っていた。
好物なんだろう。嬉しそうな男にオレもホッとする。
正月は読書三昧で過ごしたい。
ついでに今日のうちに保存食を用意しよう。
風呂場で躰の強張りをほぐしながら考えた。


世間様から見たら、親子…はこいつが童顔だから無理だとして、兄弟とかに見えないかなー。
買い物をしながらオレは考える。
オレの腰に手を廻して商品を選ぶ男と並んで。
いや、兄弟だってこんなにくっつきゃあしないよな。
オレとアルだってしないもんな。
や、いいんだけどな。
今更さ。

ただ、あんまお客さんに見られたくないなー。なんて。
つか、やっぱ離れろ。
世間体とか、まだ捨てたらイカンと思うモノは有る。
せめて手を繋ぐくらいにしてくれ。
それもかなりヤだけど。
そんなオレの葛藤をよそに、男は随分嬉しそうだ。
休みなのが嬉しいのか、オレと過ごせるのが嬉しいのか、明日の旅行が嬉しいのか。
どれだか知らないけど、それでも嬉しそうな顔を見るのはオレも嬉しいな。やっぱ。
そんなこと思ってたから、男の腕を外し損ねたってのは内緒だ。


「センセイ、帳面はもう締めたのか?」
家に帰って買った物を整理していたら男に聞かれた。
「あ?」
「年末で君は締めだろう?」
個人事業者のオレは1月から12月が課税期間だ。
当然オレも確定申告をする。
お客さんの後だけどな。
金にならねぇ仕事は後回しだ。
「あー。まだ締めてないや。」

オレは帳面を付けるのが苦手だ。
『ちゃんと付けなよね。兄さん。
 お客さんが帳面をくれないと文句をいうくせに。』
と、よくアルに叱られる。
「いつから付けていないのかね?」
「ん…と。11月くらい?」
聞いてどうする、と自分でも思うけど。

「ならばほら。」
男が寄越したのは領収書の束。
宛先は全部『エルリック事務所』だ。
「これ?」
受け取って男の顔を見る。
「使えるだろう?」
そりゃ使えるけどさ。
こいつのことだ。
税務署に突っ込まれるような危ない領収書は渡さないだろう。

「いいのかよ。税務署長がこんな節税対策の片棒担いで。」
エルリック事務所宛の領収書があればその分、経費が増えるけど。
「誰しもやっていることだろう。
 それに、君の仕事に使う物だけだよ。その領収書は。」
「?」
「君の部屋のパソコンや専門書の領収書だ。後は雑貨だな。
 電子機器に掛かる一括償却の時限後に購入したから、きちんと固定資産税台帳に載せたまえよ。」

パソコンの領収書を改めて見る。
「ぬあ?82万センズ?
 どんなオフコン買ったんだよ?」
いや、オフコンは100万単位だけど。
「パソコン一式だからな。
 レーザープリンタが意外に値が張った。
 君は試算表をB4で出す必要があるだろう?
 相続ではA3も使うだろうし。
 A3のレーザープリンタは高かったんだ。」

うん。
オレ達の仕事に使えるレーザープリンタは確かに高い。
一昔前なら100万センズを軽く超えた。
「ま。そうだよな。サンキュ。
 でもこれ、オレ払うよ。オレが使うんだから。」
「それはいい。私も使うから気にしないでくれたまえ。」
「そういう訳にいかないだろ?払うって。」
問答の結果押し切られてしまった。
後日こいつの預金口座に振り込んでおこう。

あ゛ー。帳面付けなきゃ。めんど。
「今日、本を読む前に帳面を終わらせたまえよ。」
「へぇへぇ。」
金にならない帳面は付けたくないけど、こればかりはしょうがない。
なんとかすっか。
「あ。出金伝票と振伝(振替伝票のこと)、事務所だ。」
「机の引き出しに入っている。」
「…そか。」
至れり尽くせりだな。
嬉しくないけど。

肉を煮込みながら、オレの部屋(と与えられた所)でイヤイヤ帳面を付ける。
お客さんからの収入金は別に付けてあるから写せばいい。
後は費用を日付残高に気を付けて出納帳入力していく。
預金…は面倒だから通帳から直接入力しよう。
(こういうときにプロ用会計ソフトは便利だ。ホントはちゃんと金銭出納帳を書かなきゃいけないんだけどな。)


「ぐぁー!タルい!」
「センセイ。コーヒーが入ったぞ。」
「あー。あんがと。」
「まだ掛かりそうか?」
「んにゃ。もう少し。鍋吹いてないか?」
「大丈夫だ。」

ガリガリと頑張って付け終わった。
後はこれを3月にでも申告書にまとめればOKだ。
「ふぃ〜。これで一年の仕事、終わりだな。」
ウソです。
ちょっとそんな気になっただけデス。death!
でもそのくらいの達成感はあるんだって!
いや、お客さんにはもっとマメに付けて欲しいけど!


午後は鍋に野菜を足しながらすね肉を煮込んでいた。
リビングのソファに座って、お預けをくらっていた会計の本を読んで。
男はオレとお互いにもたれかかりながら本を読んでいたが、そのうち眠そうにしたので
「眠いんならベッド行けよ。」
と言ったら
「センセイと離れるのは嫌だ。」
とヌかしやがった。

「なら膝で寝ろよ。ほら。」
本を上げると半分うつ伏せになってオレの膝に頭を乗せ、両腕でオレの腹を抱え込んで眠りだした。
昨日あの後、眠れなかったんだろうな。
どんな思いで一夜をずっと過ごしていたんだろう。
申し訳なくて、しばらく男の頭を撫でていた。
…そのうち本に集中しちゃったけどな。

「あ、肉。」
鍋がそろそろ危なそうだ。
ソファを立とうとすると男の腕に力が入る。
「すぐ戻ってくるから。」
と言うと放すから、起きているのかと思うとどうも眠っているらしい。
寝たままで仕事が出来そうなヤツだ。
(実際は起きててもしてないようだが。)

アクを取ったり、玉ネギを切ったりしてたら少し時間が掛かってしまった。
ふと気配を感じて振り返ると、入り口に男が目を擦りながら立っていた。
「もうすぐ戻るから寝てろよ。」
言っても男はふらふらと近づいてくる。
「火ぃ使ってんだから危ないぞ。」
(こいつんちはIHクッキングヒーターだけど)鍋は煮立っているから危ない。

「ん…。」
あー。こいつ寝てるな。
椅子を引いて座らせると、黙ってオレの胴に抱きついて来た。
うーん、かわいい…かも。
しかし、こういうヤツだったか?
寝てると性格が変わるタイプっつうか、ホントはこういう甘えたさんなんだろうか?
目を覚ましたらからかって遊ぼう。
ちょっと報復が怖い気もするけど。
動けないので手に持った玉ネギを鍋に放り込む。

「ほら。立て。」
そのまま寝室に放り込んだが、男はすぐに戻って来た。
どこまでオレにくっ付いてれば気が済むんだ?
オレは諦めてダイニングテーブルに腰を落ち着けた。
すぐに鍋の様子を見られるように。
膝に、床に座り込んでオレの胴に抱きついて眠る男の頭を乗せたまま。
このマンション、ダイニングキッチンにも床暖房が入っててよかったよ。
心配だから毛布を肩から掛けておいたけど。

しばらくするとようやく男は目を覚ましたようだ。
「あ?起きたか?」
「ん…。」
オレは読んでいた本をダイニングテーブルに置いた。続きは後にしよう。
男はまだ完全には眠気が醒めていないのか、頭を振って伸びをしている。
唐突にオレの頭に黒のラブラドール・レトリバーが浮かんだ。
次の瞬間、いやいやあの犬はもっと飼い主に従順だ。と思い直したが。

「はよ。こんな体勢で眠れたのか?」
「ん。よく寝たよ。君の夢を見ていた。」
起き抜けから飛ばしやがるな。
「ほぉ。どんな夢だ?」
「君の金色の瞳が私を救い出す…少し違うな。どうだっただろう?」
んー。と床に座り込んだまま考え込む姿にまたかわいいな。とか思ってしまったオレの美意識って既に壊れているかも。もうダメかも。

「とにかく、君が夢にいてくれて幸せだったよ。」
「そうか。よかったな。」
少し紅くなってしまった顔を逸らして
「悪い。鍋見たいからどいてくれ。」
またオレの膝に凭れ掛かった男の頭を押し退けながら言う。
「ああ。良い香りだな。」

手抜きして缶詰のデミグラスソースを入れて味を調えれば完成だ。
オレも結構本に夢中になっていたらしい。
もう夕飯に相応しい時間になっていた。
出来上がった煮込みを嬉しそうに食べる男を見て、オレも嬉しくなって明日の予定なんか話しながら過ごした。

その後は正月の保存食を仕込んでいたが、男は珍しいのか色々聞いてくるので一つ一つ説明しながら作っていたら結構時間が掛かってしまった。
いや、オレも楽しかったし、これで少しでも料理を覚えてくれればいいんだけどさ。

その夜は遅くまで色々な話をしていた。
男はオレのことをきり無く聞きたがった。
オレとアルの小さかったときのことや学生の時の話。
面白かった本や映画の話。
思いつく限りの話をして二人で笑いながら、そういえばこいつとこんなに沢山の話をしたのは初めてだと気が付いた。
そして優しいキスを何度も交わし、そっといたわるようにお互いに触れ合って眠った。
幸せなのか哀しいのか解らない夜だった。


翌日、一泊だからとたいした荷物もなく、車で宿に向かう。
煮込みは冬だから大丈夫だと思ったが、念のため冷蔵庫に入れてきた。
「宿って、どんなんだ?」
エアコンが効いて快適な車内でオレは聞いた。
「東の様式の宿らしいぞ。
 私も泊まったことはないのだが、評判が良かったのでな。」
「ふうん。」
東って、シン国より東のかな。
その国については一枚の布で服を作る、というくらいしかオレには知識がない。
車で走っていると、都税事務所が目に入った。
地方にしちゃ結構大きい建物だな。合同庁舎か?

車を宿に止めて、チェックインまで時間が余ったので散歩に出た。
近場とはいえ、セントラルからはかなり離れている。
いつもとは違う景色が新鮮だ。
あたりに漂う温泉の香りが情緒を醸してる。
湿ったような寒い空気だ。
もしかしたら雪でも降るかも知れない。
温泉に雪か。
いいな。

男と歩いていると、旅人らしい人に道を聞かれた。
オレ達だって旅行者だってのに。
「あの…歴史資料館に行きたいのですが、ご存じですか?」
「ああ。この道を真っ直ぐに行って税務署に行き当たったら…。」
男とオレは同時に答えていた。
その人は税務署を知らないらしく、しばらく黙っていた。

「えと、この道を真っ直ぐに行くと税務署が有りますから、そこで左に曲がって下さい。
 しばらく行くと『都税事務所』という看板の出ている建物が出てきますから、その角を右に曲がって下さい。
 えーと。後は解らなかったらその辺の人に聞いて下さいね。」
オレの説明で解ったんだか解らなかったんだか、その人が去った後に男が耐えきれないように笑い出した。
「センセイも同じなんだな。」
「あんたこそ。」

なんだかんだ言って、オレ達はどこに行っても『税務署』や『都税事務所』などの位置を無意識に把握してしまう。
「センセイは他に何を確認してしまうんだ?」
まだ笑いで肩を震わせている男が問う。
「んー。公証人役場と法務局かな。
 あ、あとハローワーク。意外と区役所は確認外なんだ。
 あんたは?」
「私か?私は税務署と都税事務所と区役所の他は裁判所だな。」
「ふうん。裁判所か。オレはそこには関心がないな。」
似ているようで非なるところが面白い。
オレ達は笑いながら宿に戻った。


「これが『タタミ』ってヤツか?」
オレは好奇心丸出しで聞く。
「そうらしいな。気に入ったかね?」
「ん。いい香りだ。」
『イグサ』というらしい『タタミ』の材料にオレは惹かれた。
こんな自然な香りは素敵だと思う。
以前『タケ』という素材にお客さんのところで触れたときもいいと思った。

しばらく畳でなごんでいると男が
「センセイ。温泉に入らないかね?」
と聞いてきた。
「んあ?入るよ。その為に来たんだし。」
軽く答えた。
温泉まで来て、風呂に入らないバカがいるか?
ここの風呂は広いのかなー。
楽しみだ。

「そうか。では入ろう。」
服を脱ぎ始めた男に
「は?なんでここで脱いでんの?」
着替えるのかな?
「部屋に露天風呂が付いているんだ。」
「へえ。そうなんだ。」
それは豪華な。と思ってから気が付いた。
オレ、他人と一緒に風呂なんか入れないんじゃん。
こいつに付けられた痕のせいで。

「もしかして部屋付きの風呂があるからここにしたのか?」
「そうだが?言っただろう?
 君が他人と風呂に入るなんて許さないよ。
 誰にも見せたくない。」
当然のような顔をして、んなこと言うな。
「あんた入って来いよ。」
オレはタタミに倒れ込んだ。
「それではつまらない。ほら。一緒に入ろう。」
「ヤだ。」
旅行中くらいのんびりしたい。
男はしばらくグズグズ言っていたが放っておいた。

部屋が少し暑かったので窓を開けると、温泉独特の香りの混じった冷たい風が気持ちいい。
窓から見た露天風呂は、小さめだけど木に囲まれて感じがよかった。
「湯加減はどうだ?」
オレは窓枠に掛けた腕に顎を乗せて、風呂に浸かる男に話しかける。
「ああ。丁度良い。
 気持ちが良いぞ。センセイも来ないか?」
「風呂は一人で入りたい。」
立ちこめた湯気の向こうに見える顔はそれでも上機嫌だ。

綺麗な顔だと思った。
うん。ソフトフォーカスがかかってるからかな。
男の顔に綺麗もないよな。
でも端正な顔してるとは思う。
白い肌に切れ長の黒曜石の瞳、鼻筋が通ってて闇夜のような髪。
本当にオレの好みなんだよな。
…女だったらな。

風呂から上がった男が着たバスローブが民族衣装らしい。
「これが一枚の布になるキモノってヤツか?」
「いやこれはユカタという簡易な服らしいぞ。」
「ふうん。」
思ったよりかっこいい。
しかしボタンも無しにヒモ一本で留めるのには感心したけど、なんか心もとなさそうに見える。

「そのジャケットは?」
白地に藍色の模様がついたユカタの上に、ゆったりとした濃紺の上着を羽織っている。
それにもボタンはなく、左右に付いた短いヒモで結ぶようになっていた。
「ハオリという上着らしい。仲々快適だぞ。」
「結構かっこいいぜ。よく似合ってる。」
こいつは姿勢がいいから余計に映えるのかも知れないな。
「そうか?センセイも着てみたらどうだ。」
「んじゃオレも風呂入ってくるわ。」

流石に裸に師走の夕暮れは寒かった。
オレは走り込むように湯に入る。
「ふーっ。気持ちいー。」
露天風呂ってなんだかのんびりした気分になれるよな。
「あ!ショチョウ!」
部屋でいつのまに酒を飲んでいる男を呼ぶ。
「ん?どうした?」
窓から男がこちらを見た。

「雪!雪が降ってきた!」
「ほう。冷えると思ったら雪か。」
「んー。雪の露天風呂とは情緒有るよな。」
こんなにのんびりした年末なんて何年ぶりだろう。
多分子供のころ以来だ。
アルは今頃どうしてんのかな。
仕事に追われちゃあいないハズだけど。

「雪の積もった温泉は、何時間入っていてものぼせないと聞くが。
 センセイ、そろそろ食事だそうだ。適当に上がってきたまえ。」
食堂に食べに行くのかと思ったら、部屋に運ばれてくるらしい。
のんびり風呂に浸かりながら、食事が整うのをガラス越しに見ていた。
「食事の用意と後片付けをして貰えるのって、嬉しいモンだな。」
呟いてから自分で
「主婦くせぇ。」と思った。
オレって嫁で主婦かぁ。
や、も、いいけどさ。
なら旦那さんをもっと悦ばせたいな。と。
自嘲気味に考えながら風呂から上がった。
着てみたけど、やっぱりユカタって心許ないな。
ロングの巻きスカートみたいだ。

食事は「山海の御馳走」らしい。
アメストリスには海がないから、魚は川魚くらいしか普段見かけない。
貝は初めて見た。
酒は東の国のものだ。
少し甘みがあって、香りが強い。
ワインともウィスキーともまったく違う味わいだった。

「魚はやっぱ冷凍でくるのかな?」
「まあそうだろうな。
 別に島国から持ってこなくても、シン国の海から持ってくればいいのだし。」
昨今は冷凍技術も輸送システムも発達したから、世界中のモノが流通している。
コストと生活習慣の違いから、アメストリスにはあまり東方の食物が入ってきていないだけだ。

「あまり使われない輸送ルートって、やっぱコスト高いよな。
 生ものを運ぶにはスピードも必要だし。」
「センセイ。原価を計算しなくていいから食べたまえよ。」
なにかを目にすると、ついそれにかかったコストを考えてしまうのは職業病なんだろうな。

「ん。美味いよ。このアサリ?のサカムシ?すごく美味い。」
「うん。魚も美味しいぞ。ほら。」
フォークを使うオレとは違って、男は器用に『chopsticks=ハシ』で魚の肉をつまんでオレに差し出す。
「ん。美味い。」

どちらかというと前菜ばかりが並んでいるような食事だったが、それでも全部食べると結構な量だった。
「はー。腹いっぱい。ゴチソウサマ。」
「しかしさっぱりしたものばかりだったな。
 私にはセンセイの作ってくれる食事の方が美味しいよ。」
「はは。あんたの好きな肉は無かったしな。
 オレもあんたがいつかメシ作ってくれんの、楽しみにしてる。」
こいつもそろそろ年だし、こういう脂の少ない食事も考えなきゃなと実は思っていた。
正月に母さんと相談してみよう。

食事を片付けた女性(ナカイさんと言うそうだ。ヘンな名前。)が
「隣の部屋にお床が用意してございますから。」
と言って去っていった。
『オトコが用意』?
疑問符を浮かべていたんだろうオレに
「寝る用意が出来ていると言うことだよ。」
と男が言う。

フスマを開けて覗くと、タタミの上にベッドマットの柔らかいようなモノがベッドなしに直接敷かれ、その上に掛け布団が掛かっていた。
「???」
「東の国の寝具のようだな。」
「床に直接寝るのか!?」

新鮮だがちょっと心配だ。
オレはベッドが変わるだけでも眠れなくなる。
慣れた自分のベッドでも眠り難いくらいだ。
こいつんちのベッドに移ったときも、なんだか強引に寝かせられている内に慣れたから眠れただけで。
…まあ眠れなくてもいいか。
明日予定があるわけでもなし。

「眠れないようならもっと酒を頼もうか?」
心配そうに聞いてくる。
「んにゃ。オレはもういいよ。」
あれからこいつは必要以上にはオレに触れようとしない。
オレが眠れるようにオレを最低限の接触でイかせるだけだ。
意気地のない自分の躰がイヤで
「も、オレ寝る。」
さっさとフトンに潜り込む。
ふかふかなのに、タタミの堅さを直接感じてヘンな感覚だ。
慣れればこういう方が躰にいいと聞いた気もするけど。

「センセイ。」
オレのフトンに入ってきた男がオレの耳元で囁く。
「ん…?」
その声に躰が震えたのが解ってしまったか?
「触れても…いいか?」
いちいち聞くな!
本当はそう言いたい。
でもそれを言わせないのはオレの躰だ。
申し訳ないと思う。

「ん…。」
せめてオレから腕を伸ばして男を抱きしめる。
ホッと緊張を解いて抱き返す男が哀しい。
「センセイ。愛している。」
そう囁いてからオレの躰に指と舌が匍わされる。
本当にオレが怯えないように、オレを感じさせるようにそっと少なく。
ゆるやかに時間を掛けて感じさせられて登り詰めて。
それでもイく瞬間も、オレばかり感じることが寂しかった。




Vol.23

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