F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.34
「遊 脇道」Act.34
08.12.24up
朝起きると男はすっかりいつものように元気だった。
それはオレにも都合がいい。
一緒に事務所へと歩き、男を見送った。

「あれ?兄さん、今日大丈夫なの?
 ロイさんの具合は?」
すっかりオレが休むものと思っていたらしい。
「ああ。あいつは元気だ。
 でも悪いけどオレ午後は休ませて貰うな。
 あいつが来るまでに帰らなかったらお客さんに行ってると誤魔化しといてくれ。」
アルに告げてルジョンに電話をした。
今日は木曜日。休診日だ。
来ても構わないという言葉に甘えて、その日の午後訊ねることにした。


「信じられないだろうけど。」
前置きしてオレはオレ達の前の人生のことをルジョンに話した。
話し終えてもしばらくルジョンはナニも言わなかった。

「信じられねぇか?…そうだよな。」
オレの言葉に
「ああ。正直言ってエド、お前が言うんじゃなければ信じられなかったかも知れない。
 でも、お前はお前の持っている記憶とその人の記憶に相違がないと確認したんだよな?」
いかにも医者らしく確認してくる。

「ああ。昔の話をしたが、記憶は一致していた。」
「なら信じるしかないな。
 お前とその人は生まれ変わって、その記憶が有ると言うことだ。」
「ああ。そうらしい。」
またしばらく沈黙が落ちる。

「で?どうしたんだ?」
ルジョンが口を開いた。
「ああ。あいつが不安定なトコや取り乱したところをオレに見せなくなったんだ。
 …どうしたらいいかと思ってさ。」
「…いつからだ?見せなくなったとお前が思ったのは。」
あれ?
いつからだったろう?
しばらく考えてみた。

「オレ…が記憶を取り戻してからかな?」
そんな気がする。
「以前の…過去のその人はお前にとって保護者だったんだよな?」
聞いてくる言葉に
「ああ。そうだ。」
躊躇なく答える。
「では、記憶を取り戻すその前は?
 お前にとってその人は護ってくれる人だったか?
 護るべき人だったか?」

ショチョウは…
「オレは護りたいと…護るべき人間だと思ってた。」
ルジョンが頷く。
オレにもその意味が解った。
「人は相手に対する態度をそう簡単に変えられるものじゃない。
 そういうことじゃないか?」
『鋼の』オレに対して甘えるよりも庇護する側に無意識に廻ってしまう。
それで素直に不安定なところを見せられなくなってしまったのか。

「それに…。」
ルジョンが言葉を続ける。
「以前言われたんだろう?
 『嫌われるのが怖くて話せない事がある。』って。
 それは記憶のないお前になら話しても解らない事だったのかも知れない。
 でも以前のことを思い出したお前には解ってしまうから、余計に色々なことを隠してしまっている可能性もあるな。」
今のオレには解ってしまう?

「頭のいい人なんだろ?
 何事かを隠そうとしたらきっと何重にもフェイクを重ねて行きそうな気がするな。
 その人は。」
「あ?どういう意味だ?」
「一つのことを隠そうとするのなら、その上に更に幾重にも隠し事をしていくんだ。
 何か一つ隠し事を見付ければこっちが納得して更に掘り起こしていかないように。
 頭のいい人にはそういう行動が多く見受けられる。」
なるほど。あいつならやりかねない。
大佐がなにか隠そうとすれば、オレはそう簡単に真実になど辿り着けやしないだろう。
なんせ一筋縄ではいかないヤツだ。

「一度…逢って話を聞いてみちゃくんないか?」
オレはこいつの判断が聞きたかった。
「それはその人に聞いてみることだろう?
 オレは構わないよ。
 ただ、以前も言った通り、その人がオレを信用してくれなければオレはなにもできない。
 それでもいいならって条件付きだ。」
「ああ。それは解ってる。」
なんと言って男に切り出そう。

その後たわいない話をして、オレは事務所に戻ることにした。
「じゃあ、その人と相談して、日時が決まったら連絡してくれ。」
診療所の出口まで見送りに出てくれる。
「ああ。解った。」
「…その前でもいつでも、ナニか有ったらすぐ連絡しろよ?」
「ああ。…頼むな。」
「ん。じゃあ宜しく伝えてくれ。」
「ん。サンキュ。」


さて、どうするか。
もし男がオレにナニか知られたくないことが有って、それを奥底にしまって何重にもフェイク…嘘や隠し事を乗せているのなら、逆にルジョンのことを警戒するだけかも知れない。
暴かれるの厭さに。
そもそもなんと言って切り出せばいいのか。
過去の事を勝手に話したことも謝らなきゃな。

ほてほてと歩いていると男が見えた。
時計をみると丁度仕事が終わって事務所に行くところのようだ。
思ったよりルジョンのところで時間を食ってしまったな。

「おーい!」
声を掛けると驚いたように振り向き
「なんだ。出掛けていたのか?」
嬉しそうに笑う。
ああ。こうしていつもオレに逢う度に嬉しそうに笑ってくれるんだよな。
オレの存在はこいつにとってどれだけのものなんだろう。

「ああ。お客さんの帰りだ。丁度良かったな。」
「そうだな。やはり私たちはこうして巡り会う運命の相手なんだな。」
ナニを道で逢ったくらいで大げさな。
それでも否定はしたくない。
「ああ。何度生まれ変わっても愛し合う運命の恋人だ。」
ああ。歯が浮く。
でも心底嬉しそうに笑ってくれるんだからいいじゃないか。

「嬉しいよ。」
腕を絡めてくる。
うん。気持ちは嬉しいけど、ここは往来でな。
オレのお客さん達も多くてな。
振り解ける訳もない腕に手を添えるしかないんだが。

「あ!すみません!」
走ってきた少年が男の肩ぶつかった。
「あ、いや。大丈夫かな?」
男が少年に聞く。

顔を上げた少年は褐色の肌に赤い瞳。
ああ。イシュヴァール系だ。
イシュヴァールとの混血は綺麗だとの評価がもっぱらで、最近はイシュヴァール系のアーティストが人気のせいもあり、人工的に肌を焼いたりカラーコンタクトを入れるのが流行っているが、この子は生粋のようだ。
イシュヴァール特有の民族衣装を着ている。
ま、これも最近流行ってるけどな。

「大丈夫です。すみませんでした。」
ぺこりと頭を下げて少年がまた走っていく。
オレも歩き出そうとしたが、男はその場に立ち尽くしている。
「? どした?」
「…。」
返事が返ってこない。
顔を覗き込むと真っ青だ。
「おい!?どうした!?」
返事はなく、男の躰は震えていた。

イシュヴァールの民…過去にあの少年と何かあったのか。
オレはタクシーを拾って男を押し込んだ。
「おい!聞こえるか!?大丈夫か!?」
男は両耳を押さえて俯いている。
真っ青な顔をして震えたままで。

「おい!ロイ!」
ダメだ。
過去の残像に囚われている。
ちょっとタクシーの運ちゃんが気になったが、オレは男の頬に手を当てキスをした。
奥に縮こまった舌に自分のそれを絡ませて強引に口腔を弄る。
少し反応が返ってきた。
そのまま男が息苦しさに唇を離すまでオレは深くキスを続けた。

「は…エドワード?」
ようやくオレに視線を合わせた。
「大丈夫か?もうすぐ家に着く。」
「…。」
男を先に降ろし、またタクシーに乗り込むようにして料金を払う。

運ちゃんは心配そうな顔をして
「お大事に。」
と言ってくれた。
サングラスから覗くその瞳は赤くて、ああこの人もイシュヴァール系なのだとぼんやり思った。
…傷がないから気が付かなかった。
よかった。先に男を降ろしておいて。
走り去るスカーの運転するタクシーをオレは見送った。

「さ、家に入ろうな?」
マンションの前に立ち尽くす男に声を掛けて玄関の鍵を開ける。
男はナニも言わず、ただされるがままになっていた。
「ベッドに行くか?ソファで寝てるか?
 オレは晩メシの用意をするから。」
オレの言葉に応えずふらりと寝室に向かう。
時間外だが薬を飲むだろう。
オレは水と薬を持って男の後から寝室に向かった。

スーツを脱いでベッドに横たわりながら男はぽつりと言った。
「あの少年…。私がイシュヴァールで殺した…。
 死ぬ事への恐怖で私に銃を向けたあの少年を…。」
やっぱりそうか。
「そか…。
 でもな、あの少年は今元気に生きている。
 きっと今は幸福だ。」
こいつにはそんな言葉はムダと知っていながらも告げた。
「ああ…。」
それでもオレの気持ちにこいつは応えようとする。

「もう…。過ぎたことだ。気にするな。
 オレはメシ作ってるからしばらく寝てろ?」
「…ああ。」
今なら、少し受け容れられるかも知れない。
いや、今はマズいかも知れない。
そんな矛盾した思いを抱えながらオレは男に告げた。

「あのさ。オレの友達に医者がいるんだ。
 誠実ないいヤツで。
 少し、そいつに話をしてみないか?」
やや間を置いて
「君の親しい医者?」
と聞いてくる。
「ああ。本当は神経科の専門じゃないんだけどな。
 最近神経科の患者が多くて、本人もきちんと勉強や研修に励んで居るんだ。
 実は…今日もそいつに相談しに行ってたんだ。
 オレ達の過去のことも知っている。
 勝手に話してすまなかったけど。
 …そいつと話して見る気はないか?」
しばらく返事は返ってこなかった。

「そう…した方が君が安心か?」
ああ、結局こいつはオレのコトしか考えてないのか。
「そう言う訳じゃ…いや、そうかもな。
 オレはあんたを支えたくて、出来ればプロの手を借りてでもあんたを安心させて幸福に出来ればいいと思ってる。
 …あんたは厭か?」
色々考えているんだろう。

ようやく返事が返ってきた。
「私は構わない。…君が望むなら。」
「…いつ頃がいい?」
男の気が変わらないうちに話を決めたい。
「別に…私は今すぐにでも構わない。
 その人の都合のいい時で。」
今すぐ?
いや、こいつがもっと自分を偽る前に済ませるのもいいかも知れない。
「じゃあ聞いてくるよ。
 本当に今すぐでも構わないんだな?」
「ああ…。君の好きなように。」

オレはルジョンに連絡をした。
快く来てくれると請け合ってくれた。
その前に食事をさせたい。
2時間後にと約束をして電話を切った。

そのままオレは寝室に戻らず夕メシを作っていた。
男の好きな肉を全面に出しておこう。
豚の厚切り肉を叩き伸ばして玉ネギとジャガイモと一緒にトマト煮にした。
今日は冷えるから牡蠣とシャンピニオンのチャウダーも作る。
付け合わせに温野菜のサラダを添える用意が出来てからオレは寝室に向かった。

オレが部屋を後にしてから飲んだだろう薬が効いているのか、ルジョンが来るから薬は飲まなかったのかそれは解らない。
相変わらず横向きで躰を丸めて男はベッドに横たわっていた。
ふと覗くとまだ顔色が悪く、右の人差し指を噛んでいる。
オレが抱いている時以外に指を噛むのはめずらしい。
それもかなり強く噛んでいる。
そっと外させようとしたが、強張ったように口から離さない。

頬に手を添え、やっと外させると寝言が漏れた。
「い…です…。もう…。」
いつもの寝言だ。
誰にナニを懇願しているのか。

想像できないでもなかったが、そんなハズもないと何処かで思うから理解できないんだ。
あれだけ強かった大佐が誰かに襲われるはずも拷問も…。
どっかでひっ捕まって拷問でも受けた?
それは有り得るかも知れないな。
何しろあの頃こいつはテロの標的だった。
オレが居ない間にどんなことをされたのか。
それが心配だった。

「おい…。メシの時間だぞ?」
そっと驚かさないように髪を撫でながら起こす。
額に頬にキスを落とすとようやく男が瞳を覚ました。
「…エドワード?」
まだ覚醒しきらない瞳は焦点を結んでいない。
「ああ。オレだ。メシが出来たぞ?」
「あ…ああ。今日はなにかな?」
楽しそうな表情で言う。
そんなに無理をするな。
まだ顔色が悪いのに、オレの前でさえ平静を装うのが哀しい。

「ああ。肉のトマト煮と牡蠣のチャウダーだ。
 あんた好きだろ?」
「それは嬉しいな。
 君の作る料理はなんでも美味いがね。」
起きあがって服を着る男にガウンを掛けながら
「ルジョン…オレの友達の医者が後で来てくれるそうだ。」
何気なさを装って言う。
「…そうか。」

急ぎ過ぎかも知れない。
けれど、こいつに今以上自分を偽らせる時間を持たせたくない。
「とりあえずメシを喰おう?牡蠣は温め直すと縮むからな。今が喰い時だ。」
明るく言うと男も楽しそうに笑ってくれる。
「ああ。早く食べよう。腹が減った。」

食事の間中、殊更明るく振る舞っていたのはワザとなんだろう。
オレもそれに合わせて2人で笑って過ごした。


やがて食事の片付けが終わる頃、ルジョンが来てくれた。
「しばらく他の部屋に居てくれるか?」
玄関に迎えに出たオレにルジョンが言う。
「ああ。解った。」
「あ、ちょっと待った。まだ居てくれ。」
? なんだ?

「いきなり二人きりになるより、最初はお前もいた方がいいだろう?」
あ、なるほど。
「解った。どこで話を聞く?」
「寝室がいいだろう。
 ゆったり横たわっていて貰う方がいい。」
「ん。じゃあオレはその間リビングで待ってるよ。」
「ああ。そうしてくれ。」

ルジョンがリビングに向かい男に挨拶をする。
「はじめまして。エドの幼なじみのルジョンと申します。
 エドからお話しは伺っています。」
そこで初めて男の顔を見たルジョンが声をあげた。
「マスタングさん!?」
男も驚いたようだ。
「ドクター!?」
あれ?
知り合い?

「…あなたでしたか。」
ルジョンの言葉に男は顔を逸らしている。
「ドクターがエドワードの幼なじみだったとは…。」
ナニか都合が悪かったんだろうか?
「…どうすれば…?」
オレは男に聞く。
この話はなかったことに!
って展開もアリか?

「いや…ドクター、お願いします。」
男が言う。
「ああ…。解りました。
 じゃあ、エド。
 オレは寝室でマスタングさんの話を聞くから。」
どういう事なんだろう?
皮膚科専門のルジョンのところに男が行ったとも思えなかったが。
始めに紅茶を大降りのポットで用意して寝室に置き、オレはリビングでずっと待っていた。

どの位時間が経ったんだろう。
やがてルジョンがリビングに来た。
「あいつは?」
聞くと
「疲れたから眠ると言っていらした。
 今は眠っているだろう。」
ルジョンが応える。
「で…?」
オレは色々と聞きたいことがあった。
とりあえず一番聞きたかったことを聞こう。

「あいつを…知っていたのか?」
オレの疑問にルジョンが応えてくれる。
「ああ。先日うちに来たんだ。
 まさかお前の言う人だとは思わなかったよ。」
「そん時…薬を出したか?」
「? ああ。出した。
 精神安定剤をな。」
「お前はどの調剤薬局を使ってる?」
新しい薬局の袋をオレは見た覚えがなかった。

「ん?オレんとこは自分の医院で出している。
 一ヶ月分の薬を薬局に依頼することは出来ないからな。」
「その…お前んところの薬の袋ってどんなだ?」
オレの言葉にルジョンが持ってきたカバンを開けた。
「今持ってるよ。薬が必要になるかと思ってな。
 先日一ヶ月分の薬を渡してあったからそのままここにある。」
ルジョンが見せてくれた袋に見覚えはなかった。

「あいつ…お前んとこの薬は他のところに保管してある。」
もしかしたらその他の薬局から貰った薬も。
オレに知られないようにまた多用し始めているのか?

「で…。あいつはなんだって?」
薬のことは後で本人に聞こう。
「まあ守秘義務があるからな。内容は話せない。
 …解るよな?」
ああ。解る。
オレにもルジョンにもあいつにも守秘義務は絶対の法だ。

「それでも…。」
なお言い募るオレに
「うん。やはりお前が言うとおり、頭のいい人だな。
 …聡明すぎてつらそうだ。」
ルジョンの感想は全て聞きたい。
オレは黙って先を促した。

「淀みなく言葉が口から流れ出ては来るんだが、それはどれも考え尽くされていて隙がない。
 あんな智略に富む人をオレは知らないよ。」
ルジョンだってなんだかんだ言って、頭のいい人間だ。
オレはこいつとあの男は同じくらい聡明な人間だと思っている。
「そうか…。」

「なあ。エド?」
ルジョンがオレを覗き込むように言う。
「ん?」
「気を付けてやれ。
 あの人は傷を隠すために違う傷でそれを覆ってしまうようなタイプに見える。」
「? どういう?」
「自分がお前に隠したい傷を、違う傷…例えばイシュヴァールの内乱のこととか。
 オレにとっては古い歴史の事だが、お前達にとっては身近なことなんだろう?
 そういう…内乱で受けた傷やヒューズさん…だったか、そういう違う傷で知られたく無い傷を覆ってしまっているような気がするんだ。」
オレが知っている事でオレに知られたく無い傷を隠している?

「まあ、まだ一度話を聞いただけだ。
 単なる印象なんだがな。
 …オレはそういう印象を受けた。」
「…そうか。」
「お前はあの人を強い人だと言ったな?
 オレにはそうは思えないよ。
 とても…脆い人としか思えない。
 …気を付けて側にいてあの人を見守ってやれ。
 それはお前にしか出来ないんだから。」
あれだけ自分を他人に偽ることに長けている人間をこれだけ理解するんだ。
やはりこいつは神経科の医者に向いているのかも知れない。

「ああ。…今日は有り難うな。
 気を付けて見てみるよ。」
「ああ。その方が良さそうだ。」
とにかく男の精神に気を付けろと、大切に愛してやれと言葉を残してルジョンが帰って行った。
それは言われるまでもなかったが、男が隠そうとしていることにオレは辿り着けるんだろうか?
それはオレの望むことだったが、そう出来るのかどうかには自信が持てなかった。

ルジョンが帰った後、寝室に向かった。
男はルジョンの言う通り眠っていた。
食事も済ませたし、このまま朝まで眠ってくれればいい。
オレも風呂に入って男の隣に横たわって眠った。


元々眠りの浅いオレは早朝だろう時間に目を覚ました。
あ?
何時だ?
枕元の銀時計を見るとまだ5時だ。
起きる必要もない。

と思ったらベッドに男がいない。
どこに居るのかと起きあがるとベランダに続く窓の側に立っている。
オレが起こさないと仲々起きない男にしてはめずらしいことだ。
「どうした?もう起きたのか?」
オレも起きあがって窓際に立つ男の側による。

窓の外は雪だ。
「ああ。雪か。」
男の躰に触れると冷たくなっている。
「!? あんた、いつからここに立ってるんだ!?」
見ればパジャマのままでガウンすら羽織っていなかった。
「ああ。おはよう。」
そんなこと言ってる場合じゃないだろ?
「おい!いつからここにいるんだよ!?」
腕を掴んだオレの顔をぼんやり見ている。

「さあ?瞳が覚めたら雪が降っていたから。
 …眺めていた。」
大丈夫か?こいつ。
「雪は…好きだ。
 なにか護られているような気になれるのでな。
 なあ、エドワード。
 知っているか?
 雪は音もなく降り積もるようだが、その気配は意外と大きいんだ。
 部屋の中にいても、雪が降り始めるとそれが気配で解る。」
そんなことを聞きたいんじゃなくて!

「躰が冷え切ってるぞ!?
 風呂を沸かすから入れ。な?
 とりあえず、ベッドに戻れ!」
まだ雪を見ていたそうな男を無理矢理にベッドに戻す。

風呂のスイッチを入れ、寝室に戻った。
大人しくベッドに居る男の横に入り、抱きしめる。
ホントに冷え切ってやがる。
オレは男を更に強く抱きしめた。

「雪が好きなのは解った。
 でもな、こんな冷える日にロクに服も着ないで窓際に立つのはやめろ?
 風邪をひくぞ?」
こんな冷えた躰を抱いてたらオレが風邪をひきそうだよ。
オレの言葉に
「…すまなかった。
 あまりに雪が綺麗だったから。」
子供のように謝ってくる。

「いや、雪を見るのが悪いってんじゃないんだ。
 もう少しあったかい格好で見ような?」
オレも子供に言い聞かせるように言う。

ああ、こいつはどこまで壊れて変わってしまったんだろうな。
オレはこいつが雨の日に無能だったことしか知らない。
雪の日にナニが有ったんだろう?
それはオレの知るべくもないことだったが。
「メシを喰って、出勤までに時間が有ったら雪を一緒に見よう。
 な?」

オレの言葉に男は嬉しそうに…笑った。





Act.35

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