F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【瑠】シリーズ > 「瑠」 Act.1
「瑠」 Act.1
16.12.30up
[言い訳です]
パラレルの全く原作ともアニメとも関係のないロイエドロイです。
この話の国には海があります。(人魚なのでどうしても…)





「瑠」 Act.1


「ここ…どこ?
 オレ…は?
 …どこから…来たの?
 …オレは
 …何?」
気が付いた時には、誰かと手を繋いで砂浜を歩いていた。
「ここは島だ。君は…。」
くすり、と手を繋いだ人が笑った気配がした。
「君は海から来たんだ。
 君は。
 …人魚なんだよ。」
「? …人魚?」
そこで夢はいつも終わる。
あれは誰だったんだろう?

     *********************

島に来て8ヶ月。
オレの記憶は一切戻らないまま。
この8ヶ月の記憶しか持っていない。

不思議とこの島の人達はオレを自然に受け容れた。
どこから来たとも聞かれたことはない。
オレが誰なのか。
どうしてこの島に来たのかも。
当たり前のように『人魚』としてオレをここに住まわせた。


「エードー!アールー!起きなさーい!!」
ウィンリィの怒鳴り声が聞こえた。
「ああ。今行く!」
オレも大声で返す。
「ほらアル、行こうぜ。」

オレはピナコという人の家で暮らしている。
ウィンリィとアルフォンスという子供のいる家だ。
ウィンリィはピナコばっちゃんの孫で、アルはばっちゃんの友人の子供らしい。
両親が亡くなってばっちゃんが引き取ったそうだ。
三人で朝食のあと馬鹿話をしながら学校へ向かう。


学校は海の際に建っている。
台風でも来たら波に攫われないのだろうか、といつも思う。
でも島の人たちは気にしてないみたいだ。
ここは台風が来ない土地なのかも知れない。
(『台風』というものを自分が知っているのは疑問だが、記憶喪失には色々な段階や種類があるらしい。オレは言葉や一般常識がある状態だと医者に言われた。その医者も記憶喪失の『人魚』をめずらしがらなかったこともオレには疑問だ。)

教室と特別教室、職員室のある教室棟は一つの建物で、食堂と倉庫の食堂棟は別棟で屋根のある渡り廊下で繋がっている。
食堂棟は入り口前のテラスが階段状に下っていて、そのまま海中へと落ち込んでいる。
20uほどの広さはすっかり海の中で、波を透かして手すりがぐるっと海中に立っているのが見える。
(まるで生け簀みたいだ。なんのために?
 いや、これは学校が建ってから地面が陥没したのか?
 でなければ説明がつかない不思議な造りだ。)
入り口に立つ度、同じコトを思う。

でも、ここに立って海を見るのが好きだ。
瑠璃色の小さな魚たちがひらひらと泳いでいるのを眺めるのが。

     ******************

「マスタング先生、エドワード君の様子はどうですか?」
ホークアイ先生が聞いてくる。
職員室(と言っても小部屋だ。たいした職員がいるわけでもない)には今私と彼女しかいない。
「それは貴女の方がご存じでしょう?」
思わず苦笑して答える。
あの子は私を避けているようだ。
「ええ。成績はまったく問題有りません。というより優秀過ぎます。」
私の気持ちなどとっくに解っている応えが返ってくる。
「学校に通わせるのは、慣れさせてリラックスさせるのが一番の目的ですからね。」
「ただ、体育だけは苦手なようです。」
それは意外な言葉だった。
「運動は得意そうですが?アルフォンスに習っている体術も相当なものだと聞いていますし。」
「運動自体は得意なんですが、人と組むことが苦手なんです。どうも浮いてしまうのか、自分から避けてしまうのか。」
なるほど。
あの意志の強そうな瞳を思い出す。

「それで…。今日の体育でもちょっと有りましてね。」
あぁ、さっきの問いかけはこの報告の糸口だったのか。
「何があったのですか?」
さりげない風を装ったつもりが、どうも失敗したようだ。
含みを持った笑顔を向けられてしまった。
同僚ということになっているが、実は副官のこの女性に私はどうも敵わない。

「クラスの一人があの子に突っかかったんです。
 ケンカならいつものことなのですが、『人魚』であることを揶揄されまして。」
「珍しく落ち込んだと?」
「ええ。記憶が無い上に、あの子の事情は他の子とは違いますから。相当不安に思っているのをいつも押し隠しています。」
行ってあげて下さいますね。と目で示される。
「やれやれ。私は彼に嫌われているようなんですがね。」
肩をすくめて溜め息を付く。

「今なら独りで食堂棟の倉庫に隠れているはずです。逃げられずに済みますよ。」
内心の嬉しさまでお見通しか。全く。
「では様子を見てきましょう。」
立ち上がって扉に手を掛けたとき。
「あ、マスタング先生。くれぐれも倉庫の鍵は掛けませんように。」
しっかりと釘を刺された。
「あんな小さな子供に手は出しませんよ。」
まだね。とは心の中で。

さて、と渡り廊下を通って食堂棟へ向かう。
今の生徒数は15人。
小さな島だ。人口も限られている。
倉庫にいると言っていたな。
隠れるところなどたいしてないが、それでもどこに隠れているかまで把握している副官に、
道理で仕事をサボってもすぐに見つかるはずだ。と改めて溜め息をつく。

     *********************

薄暗い空間は落ち着く。
倉庫の隅に丁度あったカーテンらしき布にくるまって座り込んでいた。
雑多なものがある中だ。
頭までかぶっていればそうそう見つからないだろう。

オレはぼんやりと膝に広がる布のシワを見ていた。
『オレ』は一体なんなのだろう。

『人魚』は大抵それを見付けた人と暮らす。
ほとんどがそのまま家族になるそうだ。
でもばっちゃんはオレを見付けた訳じゃない(らしい)。

「お前なんか捨てられたんだよ!見付けた人に!お前に家族なんかいないんだ!」
体育の時間に言われた言葉が耳に残る。

だいたい『人魚』ってなんなんだ?
オレはシッポなんかはえてないし。
普通の人間だし。
たまたま海で見つかったからおとぎ話に例えてるのか?
でも、今までにも何人かそう呼ばれている人がいたようだ。
漂着者をそう呼んでいるのかな?
こんな島だしな。

つらつらと考えていると、入り口の開く音がした。
瞬間的に布に深く潜る。

うわぁ。午後の授業サボってるしな。
リザ先生だといいな。
しかしドアを閉めた音の後の
「エドワード?そこにいるのか?」
と聞こえた声。
期待は外れた。
声の主はロイ先生だった。

なんっか苦手なんだよな。
嫌いって訳じゃないんだけど。
この人を見ると落ち着かない。
ええい。しかたがない。
きっちり怒られるか。

「はい。」
それでも情けない声になってしまう。
布から顔を出すと先生は俺の前まで歩いてきて膝を付いた。
まさかいきなり殴るなんてことはないよな。ないといいな。
覚悟を決めていると
「そんなものをかぶっていて、暑くないのか?」
あれ?笑ってる?
「ごめんなさい。」
とりあえずあやまっとこう。
「ん?」
なんか先生楽しそう?
こう言うところも訳が解らなくて苦手だ。
しかめてしまった顔を先生から逸らす。

「そんなに君は私が嫌いか?」
溜め息をついて先生が言う。
「いや、嫌い…じゃないけど。」
「手伝いを頼んだり、訓練に行かせたりするのが厭?」
意外なことを聞かれた。
時々、島から出て『軍』というところで簡単な仕事を頼まれたり、『訓練』と言うものを受けたりしている。
先生は
「みんなも学校を出たら仕事をするんだけど、君は特別に優秀だから手伝って欲しい。」
と言っていた。

「え?いや、訓練は好きだし、手伝いだって島の人には世話になってるからできるだけしたいと思ってる。」
どうもオレは大人にたいする口の利き方がなってない(らしい)。
それを先生達は咎めないけれど。

「軍で厭な思いはしていないか?」
「してない。みんな優しくしてくれる。駐在さんも手伝いに行ってるからいろいろ面倒見てくれるし。」
四角いメガネの駐在さんの顔が思い浮かぶ。
たしか軍では『ヒューズ中佐』と呼び変えるんだった。
そういえば消防の人達もよく軍で見かける。
特にハボックという兄ちゃんがちょっかい出して来て、いつも面白い話を聞かせてくれる。
どうも手伝いばかりのボランティアで成り立っているらしい。
『軍』というところは。

「それで?どうして拗ねているんだ?人魚とからかわれたからか?」
それもあるけど。
「オレ、捨てられたんだ。」
「…。誰に?」
「オレを見付けた人。人魚は見付けた人のものだって言われた。
 でもその人、オレをいらないから捨てたって。」

一瞬、先生の身体が強張ったみたいだ。
怒ってる?
思わずオレの身体も強張った。
でも次の瞬間。くしゃ、と頭を優しく撫でられた。

「え?」
先生の顔を見上げると優しく、でも苦笑?してる?
「独身だったから。男の独り暮らしで。」
は?

「ロックベルさんのうちならウィンリィもアルフォンスもいるから、早く慣れるかと思ってね。退屈もしないだろうし。」
「あの…?先生?」
「私なんだよ。君を見付けたのは。決して捨てた訳じゃない。不安にさせてすまなかった。」
「!?」
「きちんと話しておくべきだったな。君は随分混乱していたから、覚えていなかったのか。」
すまなかった、と繰り返す。

「じゃ、じゃあ!
 オレと手を繋いで歩いてたのはロイ先生?」
「君を見付けたときか?そうだよ。」
そう…だったんだ。
「うん。ずっとあれは誰だったんだろうって、
 うん、…ずっと…思ってた。」
「そうか。私は君が私を避けるから、嫌われているのかと思っていたよ。」
「や、嫌ってないから。
 っていうか…そうかぁ。先生を見ると落ち着かなかったのは、オレの家族だったからなんだ。
 オレ、ちゃんと家族だって、特別な人だって解ってたんだ!」
すごく嬉しい。そうか。

あ?暗い。
うわ。
先生がオレを抱きしめてる!?
「嬉しいよ。エド。私を嫌いじゃないんだね。」
「う…うん。あの…先生?」
先生の顔を見上げる。随分真上を向かないと見えない。
「なんだね?」
先生もオレの顔を見ている。
優しい瞳だ。と初めて思った。

「えっと、家族だったら…こうやって抱きしめるのって、アリ?」
「当たり前じゃないか。」
そうか?そうなのか。
うん、嬉しいや。暖かいし。

「エドワード。」
「ん?なに?先生。」
「私は君を大切に想っているよ。いつか一緒に暮らしたいと思っている。君は厭か?」
そんな風に想って貰ってたなんて、全然知らなかった。
「オレはそうなったら嬉しい。オレも先生と一緒に暮らしたいな。」
だって家族だもんな。

先生が手の平をオレの頬にあてた。
大きな暖かい手。
「よかった。では約束しよう。学校を卒業したら一緒に暮らすこと。」
「うん!」
「じゃあ約束の証。」

え? と思う間もなく唇が重なった。
「これが約束の証!?」
にっこり笑って先生が
「そうだよ。君と私とだけのね。」
と言うから。
先生が言うのならそうなのかと、素直に理解した。

「それからもう一つ約束。君の帰るところは私だ。いいね?」
また一つキス。
「そして絶対忘れてはいけない約束。君は私のものだ。」
頬に添えた手と反対の手がオレのうなじに回される。
そして受けたキスは今までと全然違ってた。
先生の舌がオレの口に入ってきて。

びっくりして顔を離そうと思ったけど、回された手がそれを止めて。
「んんーー!!」
なんかぐにゃぐにゃしたものが口の中で暴れていて、オレの舌に絡んだり引っ張ったり。

これ、家族のキスかぁ!?
先生が離れたときはもう息があがっていた。
「…先生…これって…。」
「ん?どうした?約束を忘れたか?じゃ、もう一回…」
「いいいいいいい!解った。解りました!」
「ははは。少しは元気になっただろう?」
そういえばさっきまでの暗い気分なんかぶっ飛んでいた。
「…うん。」

「じゃあ教室に戻ろう?もうそろそろ授業の終わる時間だ。」
立ち上がった先生に思わず
「先生。…さっきのホントだよな?」
「ん?」
確認をしたくなる。オレにとって大切なことだから。

「さっきの約束。オレを元気づけるためにウソ言ったんじゃないよな?」
そんなことないよな。
「卒業したら…一緒に暮らしてくれるんだよ…な?」
オレ今情けない顔してるんだろうな。
先生がオレの手を引き上げて立たせる。
「もちろんだ。君こそ約束を忘れてはいけないよ。君は私のものだ。」
顎に手が添えられ、またキスをされる。
今度は逃げずに舌を受け容れた。
嬉しい。オレにも家族がいたんだ。


**************


「どんな魔法を使われたのですか?」
職員室に戻ってきたホークアイ先生が上機嫌な私を見て言う。
「教室でエドはどうでした?」
質問に質問で答えてはいけないと生徒に教えているクセに、とでも言いたげにちらりと私の顔を見た。
「先生ほどではありませんでしたが、元気でしたよ。」
「それなら問題はありませんね。」
そこで話を終わりにするつもりだった。

「また訓練に参加させるおつもりですか?」
優秀な副官のことだ。私の考えなど見通しているのだろうが。
「軍人としても優秀だからね。いい部下は一人でも多く持ちたい。」
「…軍人としても有用であると証明すれば、人魚として…使い…果たされないかも知れないと?」
言い淀んだのは彼女の優しさだろう。
「とりあえずの延命でしかないだろうがね。」
「それでも…ですか?」
「それでも。その間に私は駆け上がるよ。私の許可無しに人魚に手が出せない地位まで。」

彼女の心配はわかっている。
私は軍人にあるまじきほど彼に肩入れし過ぎていると。
それが逆に失墜に繋がりかねない。
「それでも…軍が彼を使うと決めたらどうなさるおつもりですか?」
その可能性の方が高い。
そしてその後私がどうなってしまうのかを懸念しているのだろう。

しかし今私に彼女の望む答は告げられなかった。
「そうだな。彼の故郷で暮らすかな。彼と二人で海の底で。」
私の言葉にわずかに肩を落としたが、それでも失望の色は見せなかった。
「夢を…見させるのですね。あの子は。あなたに。」
我ながら感傷的だという自覚はある。
それでも
「泡にはさせたくないね。」
折角私の元に来てくれたのだから。


その時オレは、まだなにも知らなかった。








というような夢を見ました。
いやマジで。
テラスから見る海がものすごく青くて、瑠璃色の小さい魚が翻っていて不思議なくらい綺麗でした。
ちょっと面白かったので説明が付きにくいところを省いて載せてみました。
本当はもうちょっと複雑だったんです。
続きを思いついたら、また書きたいと思います。

マスタング先生、「最初のキスで舌を入れると振られる。」と言うのが私の経験則ですのでお気を付け下さい。
ちっ!私もうなじに手を回して逃がさなきゃ良かった。

でも先生、あんたそれ犯罪だよ。
「家族」と「恋人」をワザと勘違いさせるのも詐欺だし。






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