F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊」vol.1〜vol.9 > 「遊」vol.1
「遊」vol.1
08.11.12up
 
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
(その順番にupしてあります。)


【言い訳です】
えと、アメストリスにも税金はきっと存在するわけで。
そうなると税金を徴収する機関=税務署と、それに対して一般国民に払うべき税金を計算して差し上げる職種=税理士もいるだろうと。
その辺に二人を当てはめてしまいました。
すみません。パラレルですので、原作以外受け付けないという方はお読みにならないで下さい。

アメストリスが舞台なのですが、こちらでは
エド=19歳 税理士 
    アルの分の負担がないので「豆」じゃないです。(身長170pです。)
アル=まだ税理士の登録はしていないけれど、科目合格者。
    エドと会計事務所を経営。
ロイ=エルリック事務所の管轄区域の税務署長
リザ=ロイの秘書官
となっております。


「遊」vol.1


その日税務署から事務所に送られてきた書類を見て、オレは叫んだ。
「なんだよーー!この日程!!」
それは確定申告の無料相談の日程表。
オレの名前が3回も入っている。

オレは税理士だ。
国家資格(ということは身分を国に保証される代わりに、国からの要請があればいつでも仕事に引っ張り出される。)である為、税理士には確定申告時期(1月〜3月)に納税者(一般の人)に対する無料相談に行く義務がある。
しかしそれは特に希望を出さなければ一度で済むハズで。
なにしろ確定申告時期は税理士にとって最も忙しいので出来ればやりたくないと言うのが本音だ。
(まれに仕事に慣れたい新人とか、顧客のすくない事務所とか、単に無料相談の方が気が楽だという変わり者とかがいて、そう言うヤツらは希望をすれば無料相談の回数を増やせるのだ。ま、国から謝礼は出るしな。)
オレはそんな希望は出していない。断じて。

最早忌々しくもソラで覚えてしまった直通の番号を電話に叩き込む。
「はい。署長室です。」
ホークアイさんの声だ。
税務職員名簿など配布されても必要がなければ見ることもないが、このホークアイさんの名前だけは貰うと同時に探してしまう。
金髪の素敵な女性だ。
常に『あの』マスタングの秘書官というのが気に入らないが。
しかし、今は秘書官といえど、調査官であった頃のホークアイさんの腕前は凄かったらしい。
『まるで銃で脅されたように』調査対象が自ら脱税を認めたというのは今でも有名な話だ。

そんなことを思いつつ、オレは言葉を続ける。
「マスタング署長をお願いします。」
「失礼ですが、お名前は?」
「エルリックと申します。」
「あぁ。ちょっと声が低くなったのかしら。判らなくてごめんなさい。少々お待ち下さいね。」
ホークアイさんはオレたち兄弟のことを可愛がってくれる。
そのことがこの言葉の砕けように出ているんだろう。
ちょっとホークアイさんの声を聞いたことで怒りが抑えられた。

しかしそこへ聞こえてきたヤツの声がまたオレを苛つかせる。
「はい。お電話代わりました。マスタングです。」
職場の電話ではさすがにいつもの様子ではなく、役人に相応しい口調で話してやがる。
「おい!なんだよ!この無料相談の日程!!」
「これはエルリックセンセイ。いつもお世話になっております。
 今回も無料相談へのご協力ありがとうございます。」
うっわ。前言撤回。役人じゃねぇな。この慇懃無礼さ。
「なんで希望も出してないのに、オレが3回も入ってんだよ!」
「…あれ?」
「あ!?」
「…もし…もしもし…?」
「はぁ!? なに遊んでんだよ!あんた!!」
「申し訳ございません。ちょっと電話の調子が悪いようですので、すぐにこちらから掛け直し致します。それでは。」
ツーッ、ツーッ、ツーッ…。
はい!?

一方的に切られた電話に唖然としながらも、握っていても仕方がないので受話器を戻す。
すると同時に着信音が鳴った。
「はい。エルリック事務所です。」
「やぁ。元気だったかい?」
いつものスカした声が聞こえる。
廊下にでも出て携帯から掛けているのだろう。
「元気じゃねぇよ!なんだよ、この日程!
 オレは希望なんか出してねぇぞ!!」
「ああ、無料相談希望者の名簿に君の名前を書いておいたんだよ。
 3回とは少なかったね。もっと君に逢えると思ったのだが。」
「なに勝手なことしてんだよ!このクソ忙しい時期に!」
「だって君、年末調整の説明会に参加しなかっただろう?
 折角逢えると思って楽しみにしていたのに。」
「なにヌかしてんだよ!大体あんなのにまでフツー署長がくるか!?」
「ずっと待っていたのに、私が席を外した隙に年末調整の手引きだけ持って行くとは汚いと思わないのかね?
 戻ったとき君の事務所の引き取り票を見てガッカリした私の気持ちが解るかい?」
「汚いも綺麗もねぇ!あんたがいようといまいとオレには関係ないし。」
「今回はCGを使った説明だったのに見なかっただろう?
 国税庁にもIT化が進んでいるのだよ。」
誇らしげな声がバカバカしい。

かつて行った説明会では、税務職員が
「イット化です。」と言いやがって、笑うところなのかどうかみんな悩んでたぞ。
「あんな初心者向けの説明会に行く必要なんかねぇよ。
 あれ、おかしいぜ。会計事務所の人間に『年末調整とは?』なんてスライドから入るの、意味が無い。時間のムダ。」
「おや、嬉しいね。」
「あ?」
「君が説明会の向上に協力してくれるなんて嬉しいよ。
 これも私への愛ゆえかね。」
「なっ!バカ言ってんじゃねぇ!
 そうじゃない、オレが言いたいのはこの無料相談だ!
 取り消せよ!これ!」
「それは無理だな。
 すでに日程が組まれて区内の全税理士事務所に配布済みだ。」
「んなの知るか!あんたが勝手にやったことだろう!
 オレは行かないぞ!」
「欠員が出ては他の先生方に迷惑がかかるぞ。いいのか?」
「オレが悪いみたいに言うなーーーー!!」

一般の納税者の方はご存じないと思うが、いや、常識的に考えればお解りかも知れないが、『無料相談』や『説明会』などに税務署長(支店長みたいなものかな?子会社の社長?)は来ない。決して。
つか、そんなヒマなのか?署長って?
毎回毎回オレが行く無料相談や説明会にヤツはいる。
ヤツと知り合ってしまった人生最大の汚点はオレが9歳の頃に遡る。


オレの親父も税理士で、税務署の調査は普段顧客の会社や事務所でなされるのだが、たまたまオレの親父自体に調査が入ったため税務職員が家に来た。
その時はまだ統括だったロイ・マスタングが担当官の一人だった。
(「まだ統括」と言っても役所としては異例の年齢に合わない出世だったそうだ。興味がないのでよくわからないが。普通の会社で言えば部長くらいの地位か?)
オレは母さんに頼まれて、ヤツらに茶を出しに行った。
「お…お茶、ドウゾ。」
ヤツは親父の差し出した帳面や資料を見ていたが、オレの言葉に顔を上げ
「おや、かわいらしい息子さんですね。」
と言った。
常日頃親バカだとは思っていたが、親父がその言葉に飛びついた。
「ありがとうございます!自慢の息子なんですよ。
 器量もいいが、頭も良くてね。」
にこにこ語る親父とそれに笑顔で応える税務職員。
親父にとって『ゼイムショ』は敵だ。と吹き込まれていたオレにとって、無論ヤツは『敵』だった。
警戒心を丸出しにしていたオレに
「きっと美人になるよ。楽しみだね。」
と(胡散臭い)微笑みを浮かべた顔が今でも忘れたいのに忘れられない。
いや、本当に忘れたいんだってば!


その後、「税理士は一生に2回調査を受けることはまず無い。」の常識を覆し、親父は調査を数年ごとに受け続けた。
その度にヤツがあまりにオレを褒めるから、調子に乗った親父が必ずオレを同室させていた。
それがある年からなくなったのは、『マスタング統括が個人課税部門から出世したから』と気付いたのは随分後のことだった。(いつも調査担当官が同じで、これもあり得ないことだった。親父、疑問を持てよ!とオレは思う。そんな親父は今半引退状態だ。)


「だーかーらー!オレは忙しいの!
 3回も無料相談なんて行ってらんねぇ!」
「でも君。今回は3回とも対面式の相談だよ。
 君は『お客さんの相談は最後まで責任を持ちたい。』と言っていただろう?」
「う…。」
男は更にイヤなことを思い出させる。


アレはオレが税理士に登録して初めての無料相談だった。
たまたまその年、初めての試みとして国税庁は『年金生活者のみを対象とする確定申告の無料相談』というものをブチ立てた。
それは試験的なモノで。
だから仕方がなかったのだが、結論として言えば
『軍医や衛生兵までも傷をおった野戦病院』状態だった。
一部屋に数百人の年金生活者。
それに対して数人の税務署員と税理士。

「聞きたいことや分からないことが有ったら、手を挙げて呼んで下さい。」
のアナウンスと共に上がり続ける手、手、手。
「おーい、こっち!」
「はい!どこが分からないのでしょう?」
「はいはいはい!!!」
「はい!今行きますから、ちょっと待って下さい!」
「すみませ〜ん」
「あ、すみません。こちらが済んだらすぐ行きますから。」
「あ、ここにこの数字を書いておいて下さいね。また来ますから。」
ゆっくり一人一人と向かい合うことなど不可能で。
あの人はきっとこの後の記入につまずくだろうから、また後で見てあげたいと思っていたのに他の人に呼ばれてソレが出来ず。
そんなことの繰り返しでちょっと哀しくなってしまった。

「午前の納税者が終わりましたので、税理士の先生方は昼食をどうぞ。」
税務署側の言葉に、ふらふらと出口を目指したオレの腕をヤツが掴んだ。
「…放せよ。」
「どうした?」
「んでもねぇよ。放せったら。」
「この辺はあまり店がないんだ。一緒に昼食を摂ろう。」
もう、逆らう気力もなかった。

「つかれたのか?元気がないな。納税者には笑顔で接していたのに。」
近くのファミリーレストランに落ち着いて、男が話しかけてくる。
「笑顔は怖がらせたくないからムリヤリ浮かべてただけだ。
 んかさぁ。この企画、人員足りてねぇよ。」
出された水を飲みながら、オレは喉が渇いていたという事実にその時気付いた。
「初めての企画だからな。」
同じように水を飲みながら男が言う。
なにしろ二人とも耳の遠いお年寄り相手に大声で説明をし続けていたのだ。
「オレ、もっと相談してきた人には責任持ちたいよ。
 こんな中途半端な説明じゃ分からない人も、その後困る人もいるだろ?」
まだ新人のオレだった。
拙いけれど、知識も足りないけれど、とにかく人の役に立ちたかった。
でもそれが出来ないのが悔しかった。(若かったからな。)

食事の後、会場へと歩いていたら路地裏にひっぱり込まれた。
「なっ!なにす…!」
言葉は最後まで言えなかった。
ヤツに口を塞がれたから。
唇で。
「んっ!んーーー!」
オレの腰と首の後ろに手が回され、離れることも出来ない。
無理矢理入り込んできた舌を噛みちぎってやろうかとも思ったが、その温度になんだかささくれ立っていた気持ちがなだめられて。(いやいや、そんなことはない!間違ってるぞ。あの時のオレ!)

しばらくして、自由に息が出来るようになってから
「ん…にすんだよ?」
自分にしては弱いと思う声が出た。
「君がかわいいから。」
理由にもならない言葉を言われた。
「あんた変態?オレは男で、あんたも男で。」
「それは失礼な。いや、私もそういった性癖は無いのだが、あまりに君がかわいくてね。
 これは最早君のせいだと私は思うのだが。」
「はぁ!?ナニぬかす?この変態オヤジが!」
「君がお年寄りに優しいのは知っていたが。これほどとは。」
オレの言葉など知らぬように男が言う。
「は?なんで知って」
「君はおばあさまをとても大切にしていたそうだな。
 お父上から聞いたよ。」
「…。別にトラウマとかじゃないぜ?オレがばあちゃんを好きだっただけで。」
「ああ。わかってるよ。」
本当にわかってんだかどうだか。
男の腕に込められた力は変わらない。

「君は責任を取りたいのだよな。こんな慌ただしい環境ではなくて。
 来年からはシフトを変えるようにするよ。」
耳元で囁かれ、耳たぶを舐められて身体が震えたのは嫌悪感からだ。
絶対そうだ。


その翌年、対面式の無料相談で知識の足り無さから大嘘を教えかけていたオレに後ろからヤツが
「センセイ、この方の場合はこちらの規定の適用が可能かも知れません。」
と適用もナニもハナっから間違えていたオレの立場を悪くしないような訂正をされた。
もちろん納税者の方には
「ちょっとお待ち下さい。
 あー、そうですね。条件に当て嵌まりますからもう少し税金が安くなります。」
とにっこり笑って説明したが。

その帰りに「新人センセイ、お礼は?」と言ったヤツの笑顔の胡散臭さは絶対忘れねぇ。
あれはどんな兵器より細菌よりタチが悪い。
まだ仕事が山積みだってのにヤツの家(オレの事務所のすぐ近くなのは偶然か?)に連れ込まれてしまったのはオレが悪かったのだろうか。
そうだろうか。
オレは否定したいのだけど。
つか、間違えたくらい(と言うのはマズいが本心だ。)でなんであそこまで要求されなきゃ…。

それからずっとヤツとの腐れ縁が続いている。
なぜ異動もナシにオレの事務所の地域税務署に居続けられるのか。
それも大いにナゾなのだが、一介の税理士に分かることではない。


「とにかく!今回は仕方ねぇから3回とも行くけど、来年は絶対こんなマネすんじゃねーぞ!」
「君の事務所は11月は顧問先の決算が無かったな。」
「はぁ!? なんで知って…。つか、オレの話を聞けよ!」
「私も君に迷惑を掛けるのは心苦しいからね。
 11月には『税を知る週間』があるから今年はそちらの無料相談を頼むことにしよう。」
「あ!?」
「そうだな。6月には資産税の無料相談も入るから、資産税を勉強しておきたまえ。
 君、資産税苦手だろう。」

実のところ無料相談が入る度に勉強のし直しをするので、結構知識が付いてくるのは事実だ。
絶対ヤツには言わないが。
「んなに呼び出されてたまるか!
 オレはオレの事務所の仕事があんの!」
「新会社法の研修にはちゃんと出たまえよ。まだ調べてないのだろう?」
「う…。」
改正が入る度にこうして指摘されるのはオレ、プロとしてマズいよな。
日々の仕事に没頭しやすいオレをこうしていつも気遣われる。
悔しいが。

その時、事務所のインターフォンが鳴った。
「わりぃ。お客が来た。」
「あぁ。切るよ。」
ヤツにしては珍しくあっさりと電話を切った。

「はい。」
ドアを開けた先にいたのはヤツ。
「やあ。君のことだから昼食まだだろう?食べに行こう。
 それとも家にくるかね?」
無言でドアを閉めようとしたが、ヤツがドアの間に靴を挟み込んできた。
マルサ(国税局査察部査察官。普通の税務職員と違って強制捜査権を持つヤツら。)ご愛用の鉄板入り安全靴だ。
なんで署長が履いてんだよ。そんなモン。

「帰れ!」
「つれないねぇ。君、また家に帰らずに事務所に泊まり込んでいるんだろう?
 ご母堂が心配されていたよ。
 なぜ私の家に来ない?
 君には鍵を渡してあるというのに。」
「あぁ!? なんであんたの家にオレが行かなくちゃならないんだ?」
「君がゆっくり休んで気力を取り戻すためだよ。
 君の家より私の家の方が近いだろう?」
「いらねぇって!オレは元気だ!オレ…他人がいたら眠れないし。」
「そんな心配は無用だよ。君の眠りが浅いのは知っているが、意識を飛ばすほど責めれば朝までぐっすり眠れるだろう。」
「あんたナニするつもりだ?
 それじゃ翌朝動けないだろう!」
「ほう。艶っぽい想像をできるようになったものだ。」
「いらねーーーーーー!オレは変態じゃない!あんたなんかいらねぇ!」
「聞き捨てならない言葉を吐くね。君。」


「あ!署長さん、こんにちは。」
昼食に出ていた弟のアルの声が聞こえた。
アルはまだ税理士ではないが、科目合格をしていて仕事を一緒にやっている。
「やあ。アルフォンス君、こんにちは。昼食は済んだのかね?」
「はい。今食べてきました。」
「それはよかった。ところで君たちの事務所は今日も仕事が忙しいのかい?」
答えるな!弟よ!!
弟に必死に伸ばそうとした腕を男に掴まれた。
「アルっ!余計な…」
今度は別の手で口を塞がれる。
「ふんがーー!!」
「いいえ。今日はお客さんからの資料待ちで、やれる作業がないんですよ。
 忙しいのに、こうしてぽっかり数日仕事がなくなったりするんです。」
「では明日も仕事がない?」
「えぇ。このまま資料が来なければいっそ休みにしようかと思っていたんです。」
逃げ出そうとしても掴まれた腕がふりほどけない。
「そうか。お兄さんがお疲れのようだ。
 私の家で休ませるから、ご両親にそう伝えて貰えるかな?
 明後日にはここへ出勤させるよ。」
「いつも気を遣って戴いてすみません。
 兄さん、仲々休もうとしないからそうして貰えると助かります。」

なぜお前等が決める?オレの意見はどうした?
やっと男の手が覆っていた口から離れた。
「お前等勝手に決めんな!アル!オレはオレのうちに帰る!
 なんでコイツんとこ行く話になってんだよ!」
「だって兄さん、家にいても全然休もうとしないじゃない?
 仕事のことばかり考えて。もっと気分転換した方がいいよ。」
「だからってなんでコイツの家って発想になんだ!?」
「そりゃ…。」
アルと男が視線を合わせた後、二人してオレを見て
「愛し合ってるから「だろう?」「でしょ?」」
同時に言いやがった。
「〜〜〜〜!!!!違ぇよ!!」
怒りで頭に血が昇りすぎたようだ。
めまいがしてきた。
腕を放されたまま、その場にへたり込む。

「はいはい。照れないの。ロイさん、これが兄さんの荷物です。」
「ああ、ありがとう。ではもうこのまま帰宅と言うことでいいかな?」
「ええ。どうぞ宜しくお願いしますね。」
「君はいつも礼儀正しいね。」
なぜ和やかな会話なんだ?
アル、お前はなぜこの男をファーストネームで呼ぶ?
いつからだ?
おま、ホークアイさんのこともファーストネームで呼んだりするのか?
それはずるいぞ。
オレも今度ホークアイさんにファーストネームで呼んでもいいか聞いてみようかな。
そしたらオレのことも『エドワード君』とか呼んでくれたりするかな。

最早オレの思考は完全に現実逃避していた。




Vol.2


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