F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【「錯」シリーズ】 > 「錯」 Act.16
「錯」 Act.16
09.2.1up
使われていない会議室に(女性とはとても思えない力で)引きずり込まれ、座るようにと指示されて中尉の向かいに座った。
しばらくの沈黙を経て、中尉は重く口を開いた。
「…あの人はあなたが思っている以上に…壊れているのよ。」
「壊れて…って、病気とか?」
それなら治せばいい。
ハボックは前向きに捉えようとしていた。
うすうす真相を解りながらも、そうでないことを希望していたと言ってもいいかも知れない。

「違うわ。精神が…いえ、性癖と言ってもいいわね。それが異常なのよ。」
「異常…。」
「イシュヴァール戦でのこと、本当はもっと早くあなたに話すべきだったのかも知れない。
 けれど私たち…私と中佐は、あなたに大切に愛されることを知れば…あの人が変われるかと期待していたの。
 …願っていたのよ。」
(イシュヴァール戦でのこと?オレはロイが錬金術で大量虐殺をしたとしか聞いていない。
 それで傷ついているロイを癒して、護ってくれとしか。)
「なにが…あったんすか?」
問いかける声が震えていた。

「落ち着いて聞いて貰えるかしら?」
この氷の女帝が今まで見たこともない、伺うような視線を向けている。
「できるだけ…。」
「…とにかく最後まで話を聞いて頂戴。お願いだから。」
こんな低姿勢な中尉も見たことがない。
「解りました。」
この時のハボックに、それ以外のナニが言えただろう?

「イシュヴァール戦の終わる…前日の夜だったわ。
 私たち、と言っても中佐が知ったのだけれど。
 大佐が雨の日にはいつも、何人もの男達に犯されていたということ。
 それはとても酷いされ方だったということ。
 それから後になって…あの人が…あの人の精神が異常をきたしていたということ。」
ざ、と血の引く音がハボックの耳に聞こえた。
同時に冷たくなっていく顔と、それとは逆に熱くなっていく感情。

(ロイが戦場で…犯されていた?
 何人もの男に?
 それはロイが守ってきた仲間の兵に?
 いつも?雨が降る度に!?)

「異常って…?」
漸う言葉を吐き出したハボックの顔を見つめ、長い溜め息をホークアイが付いた。
そしてしばらくの後、覚悟を決めたように口を開いた。
「…求められれば相手が誰でも拒まなくなった。
 『拒む』という選択肢すら浮かばないようだわ。」
言われてみればロイが女ったらしの異名を取ったのも、どんな相手であろうと求められれば拒まないという姿勢の故なのだろう。
ぼんやりとハボックはいささか逃避した思考を繰り広げていた。

「だからあなた以外の人間に抱かれたからといって、あの人を責めないで欲しいの。
 あの人には理解できないのよ。
 ただ一人の人間だけを性行為の相手にすべきだという、当たり前のことが。」
「どうしてなんですか!? そんなの恋人がいるなら当たり前…」
「だから!『当たり前』のことが解らないの!
 それが自分の精神を護るたった一つの術だったのよ!」
ハボックの言葉を遮って悲鳴のように告げられた言葉は、そのまま中尉の心の叫びだった。

「精神を護る…。」
「そう。軍人が上官命令に逆らえないことはあなたにも解っているでしょう?
 それに唯でさえ暴行と同様の犯され方だったらしいわ。
 拒むなんてすればもっと酷い蹂躙を受けたでしょう。
 …だからあの人は自分の精神を護るために、『それ』が『普通』なんだと。
 求められれば抱かれるのが『当たり前』なのだと自分に思い込ませたのよ。
 …そうした結果、他の男に抱かれるとあなたが哀しむということが、あの人にはどうしても理解できなくなってしまった。
 そういった倫理観が…壊れてしまったのよ。」
中尉は俯き、自分の頭に片手をあてた。
頭痛がするとでもいうように。

「性癖については…最初は気付かなかったの。私も中佐も。
 ただ自分が大量虐殺を行ってしまったことと、内乱の間中酷く犯され続けたことで精神が傷ついているだけだと。
 …東部に帰ってしばらく経ってからだったわ。
 ある日大佐…その時はまだ中佐でいらしたけれど、あの人が背中に妙な怪我をしていて。」
「妙な…。」
「そう。上着を脱いだら血が滲んでいたから治療をしようとして、おかしいと思ったの。
 任務の時は私が側にいるのだから、この人が怪我をしたことに気付かないはずがない、と。」
それはもっともなことだとしか思えず、ハボックは曖昧に頷いた。
「どうしたのかと聞いても、まともな返事が返って来なかった。
 そして背中を見たら…あれはムチか何かで打たれたとしか思えない傷だった。」
あの店で男達にベルトで打たれて悦んでいた姿がハボックの脳裏に甦り、怒りにも似た激情に躰が震えた。

「そんなことが何度かあって。
 誰にされたのかと詰問を繰り返して、ようやく『将軍に』と答えを得たわ。
 それでもその時は出世のために仕方なくとか、上官命令でなのだと思っていた。
 勿論それもあったのだけれど。」
とうとう両手で頭を抱え込んだ中尉は、絞り出すような声で話し続けた。
「まだ…この人の悪夢は終わらないのかと、中佐とも話をしたけれど私たちに出来ることはなかった。
 でもやがて…気付いてしまった。
 あの人が自分に植え付けてしまった性癖に。」
「それ…って。」
自分の声が掠れている。
無意識にハボックは咳をしてもう一度繰り返した。

中尉は躊躇ったように何度か口を開いては閉じ、やがて諦めたように言葉を吐き出した。
「マゾヒスト。というのでしょうね。
 男に抱かれるときは女性に対するような行為ではなく、酷い陵辱をされるのが『当たり前』なのだと自分に思い込ませた結果、それを……自ら望むようになってしまったあの人の性癖を。」

どこかで解ってはいた。
いたけれど、信じたくなかった『真実』を突きつけられたハボックは、どこか暗いところへ突き落とされた感覚に陥った。
『女性に対するような行為ではなく』と中尉が認識しているのは、ロイが女性に対しては非常に紳士的なことから伺えるのだろう。

『女性に対するような行為ではなく』
この言葉は別の意味でハボックを打ちのめした。
「ただ…なんだか…女のようだと思ってな。」
初めてロイにキスしたときに言われた言葉。
それは『まるで女性のように大切にされる』ことに慣れていない、いや、違和感を感じるという彼の正直な感想だったのに。
あの時、有頂天になっていてその事に全く気付いてやれなかった。

ロイ自身も自分の性癖が異常であるということは既知していた。
うすぼんやりとではあるが、ことあるごとに中尉が諭してくれていたから。
だからそれを『健全』なハボックに悟られまいと、そんな彼に望まないようにしようと努力をしていたのだ。
ロイにとっても(その認識はおそらく他人と異なるのだろうが)ハボックは大切な恋人であり、彼を哀しませたくはなかったから。
ただ、ハボックとのセックスでは満足できない躰を持て余し、その壊れた倫理観に基づいて自分を求める男の相手をしていたに過ぎない。

彼には理解できなかったから。
他の男に抱かれると彼が哀しむということを。

「オレは…どうすればいいんでしょう。
 これからあの人が他のヤツに抱かれるのを黙って見ていろと?」
中尉が顔を上げた。その顔色はとても悪いとハボックはどこか冷静に観察した。
「それは…ないと思うわ。」
「どうしてそう思うんです?さっき責めるなと言ったじゃないですか。」
ヘンに冷めた口調だ。自分の声をハボックはそう聞いた。

「あなたが教えればいいのよ。
 他の人に抱かれるのは哀しいからやめてくれって。」
「それだけ?それだけであの人がやめるって言うんですか?」
ゆるゆると中尉が頭を振った。
それは肯定とも否定ともとれる動作だった。

「ええ。今まであなたとは普通の性行為しかしてこなかった。
 大佐はそれについて何の要求も、不平も言わなかった。そうでしょう?」
それはそうだ。だからこそ…。
ハボックにも理解ができた。

「オレが『そういう』セックスを望んでいると思ったからなんですね?」
(そうだ。オレはあの時「優しく抱きたい。」と言ったんだ。
 あの「厭だ」は本当は名前を呼んで欲しかったんじゃなく「そんな抱き方は厭だ」と言いたかったんじゃないか?
 それでもオレが望んでいるなら、とあの人は思ったんだ。)

「おそらくね。
 あなたに嫌われたくない、あなたの望まないことはしたくないという気持ちはあるのよ。
 その方向や内容があの人の思考では想像し難いだけで。」

ある意味、一途で純粋な人ではある。

「解りました。そう…言ってみます。
 けど、そうしたらあの人はどうやって…あの人の躰は満足できないんじゃないですか?」
それもイヤだ。とハボックは思う。
(勝手なのはオレだ。どうしろってのはロイのセリフかも知れない。)
「それは…申し訳ないけれど、あなたと大佐とで解決して貰う問題だわ。」
もっともなことだ。
どんな性癖を持っているとしても、自分と恋人とのことなのだから。

「解りました。
 …一つだけ教えて貰えませんか。
 中尉と中佐は、大佐があの店に通っていることを…」
「…知っていたわ。」
「そう…そうですか…。」
「それについては申し訳なかったと思っているの。
 それでも、あの人があなたに知られまいとしていたから。
 どうしても言えなかった。
 もしかしたらもうあなたと付き合うようになれば行かなくなるかとも思って…。
 …いえ。ごめんなさい。何を言っても言い訳にしかならないわ。」
「いいえ。気持ちはオレも解りますから。」
ただ…悔しかった。
全てを把握していた2人とは違って、自分が何も知らなかったことが。
その事で愛する人を苦しめてしまっていたことが。

「ただ…危険じゃないですか?
 あんな店で無防備に…その…目隠しをされていたんです。
 テロリストにでも狙われたら。
 軍に知れたらもっと困りますし。」
それは本心からの意見だったし、疑問だった。
中尉ともあろう人が、どうしてあんな危険な状況にロイを置いておくのかと。

「その心配はないわ。」
今まで以上に言いにくそうに中尉が口を開いた。
「あの店は…あそこの客はすべてどこの誰か解っているの。
 『ユーリ』の相手をしているのは…その…」
言い淀む様子で悟ってしまった。
「中尉の…知り合いなんですね?」
「……ええ。」
道理で。
納得は出来たが、気分が悪いことに変わりはない。

「じゃあオレがすんなり『ユーリ』のところへ通されたのも。」
「私が指示してあったからよ。
 …事前にあなたの容姿をマスターへ伝えていたの。」

は!
笑いが洩れてしまった。
(オレってどこまでめでたいんだろう。
 中尉も中佐も全てをご存じで!
 オレだけが有頂天になって何も知らず…。)

「本当に悪かったと思っているわ。
 でも…あの人を護りたかった…。
 それだけなのよ。」
真摯な瞳。
その言葉に嘘はないのだろう。

この忠誠心溢れる女性を責める気にはなれなかった。
ロイを大切に想う気持ちは一緒だから。


「落ち着いて。どうかあの人を責めないで頂戴。お願いだから。」
執務室へと戻る間にも何度も繰り返された願い。
「解っています。…大丈夫です。」
その度自分の口から零れる言葉を何処か他人事のように聞きながら、それでも自分でも何度も(責めてはいけない。落ち着くんだ。)と言い聞かせていた。


ドアを開けると、ソファに座る蒼白な顔のロイが見えた。
掻き合わせたコートの襟を両手で握りしめ、俯いている。
近づいてみると、凍えたように震えているのが解った。

「帰りましょう。」
「…。」
差し出した手を、じっと見つめたまま動こうとしない。
「大佐?帰りましょう。」
出来る限りの努力をして、優しく聞こえるような声を出した。
「…ボ…ク?」
震える唇から幽かな音が聞こえた。

「さ、大佐。家へ帰りますよ?」
もう一度声を掛けるとゆるゆるとハボックの顔を見上げ、また差し出された手へと視線を落とす。
「…。」
そしてようやくそっと、躊躇しながら本当にそっと、震える指がハボックの手に触れた。

その手をしっかりと握り、自分へと引き寄せた。
「…っ!」
瞬間強張った躰をしっかりと抱きしめて
「さ、家へ帰りましょう。腹、減ったでしょ?」
背中を撫でると
「…ハボ…。一緒に…ってくれ…のか?」
切れ切れの言葉が酷く聞き取りにくい。
「ええ。一緒に家に帰りましょう。」

「お前…自分の家に…帰ったりしないか?」
「2人であんたんちに帰るんですよ。」
ハボックの言葉に、相変わらず震えたままだが強張りが溶けてきた。
「お前も一緒にいてくれるか?」
少し落ち着いた声で念を押してくる。
「ええ。話したいこともありますし。」
言った途端、また躰に力が入ったのが解った。

なにか言わなくてはと思いはしたが、ハボックも何も言えなかった。
ここで何を言っていいのかまだ解らなかったから。
そのままロイの家に着くまで、2人とも一言も口にしなかった。






「だから!『当たり前』のことが解らないの!」という台詞、
ジブリの『おもひでぽろぽろ』で、算数が出来ないタエ子ちゃんのことをお母さんがお姉さんに
「普通じゃないの!タエ子は!」
というところを思い出しました。
(いや、だからなんだと言われましても…。)






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