F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます)
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます)
08.12.26up
男は退官しても構わないと言ったが、ルジョンが嘘八百の診断書を書き、ホークアイさんが病気休暇の手続きをしてくれた。

「5年間で8日しか出勤しなくても満額の給与が貰えるのよ?
 公務員の利点を活かさないでどうするの。
 それにね。まだまだネタを提供して貰わないと困るの。
 辞められる訳にはいかないわ。」
にっこり笑ったホークアイさんは
「署長を宜しくお願いしますね。
 本当にどうしようもない無能だけれど。
 あなたを愛する気持ちだけはきっと有能だろうと思うのよ。」
入院の理由を知っているだろうにオレを責めることもなく、軽く肩を叩いて病院を去っていった。

でもホークアイさん、それは公務員としてもマズいから今問題になっているのでは?(←当時こういう公務員が居て、話題になっていたんです。)


朝昼晩とメシを運んで、男が食べ終わったら帰る。
そんな日々が続いた。
あと2,3日で退院できる見込みだそうだ。

一度手を振り解いてしまったせいか、その後帰るオレを引き留める仕種を見せることはなかった。
夜にはまた独りで泣いているんだろうが。

それでも少しずつ病室にいる時間を増やそうと努力して、それが仲々実らないでいた。
笑えなくなってしまうから。
男の気持ちを考えると。
オレがいないことで男を哀しませる。
でもこいつの側で自分が幸福になることは赦されない。
オレは自分がどうすればいいのか解らないままだった。


「エド?たまには実家に帰っていらっしゃいよ。
 ロイさんの様子も聞きたいわ。」
のんびりした声が肩の力を抜かせる。
母さんのそんな電話に実家に帰ってみようかという気になった。
アルにもその後のことはなにも連絡せず、仕事を休んだままだったし。

自律神経の不調だと適当な理由をつけて見舞いは断った。
他人が来ると自分を偽って平静を装ってしまう。
そんな時間を少しでも減らしたかったから。

親父がめずらしくオレを書斎に呼んだ。
書斎に人を呼ぶのはその人とだけ話をしたいときだ。
オレは滅多に呼ばれた憶えはない。
昔アルと酷いケンカをしたときくらいだ。

「マスタング君の具合はどうなんだい?」
相変わらず人を喰った男だぜ。
「さっきも言ったろ?
 自律神経失調症で、副交感神経がどーたらこーたららしい。
 オレには良く解んねぇ。
 ただ、大したことはないそうだけど本人にはつらいから入院だってさ。」
「という建前は聞いたさ。
 …なにがあったんだ?」
じっとオレを見つめてくるのはいつもの親父じゃない。

自分の親ながら底知れないとこがあんだよな。
まして今のオレはこいつが『光のホーエンハイム』と呼ばれて四百年生き続けた過去を知っている。
かつてオレをこっちの世界に戻すために命を落とした。

「精神を…ちょっとヤられたんだよ。
 今は落ち着いてる。
 そんだけだ。」
話を終わらせようとしたオレに
「焔の大佐がか?彼はとても強い人間に思えたけどな。」
なんでもないことのように言う。

「あ…親父も記憶があるのか?」
「ああ。彼に記憶が有ることも知っている。
 エド、お前も思い出したんだな。」
いつ知ったんだ?
あいつに昔の記憶があること。

「ああ。ついこないだな。」
「そうか。
 …エド、幸福か?」
は?
なんで?
いや、今あんまし幸福じゃないけど。

「あ、あのさ。
 親父はずっと記憶があったのか?」
「ああ。今回生まれ落ちたときから昔の記憶があったよ。」
「ならさ、また母さんと結婚することに戸惑わなかったのか?」
オレの言葉に不思議そうな顔をする。
「なぜだい?トリシャは私の最も愛する女性だ。
 今度は腐ることのない躰を持って生まれたんだ。
 結婚するしかないと父さんは思ったけどな?」
どうして?
と聞かれた。

「だってさ。前の時、親父は母さんやオレ達を置いて出てっちまっただろ?
 それで母さんは病気で死んで、オレ達は人体錬成の罪を犯した。
 それを自分のせいだって、だから今度の人生で幸福になる訳にいかないって思わなかったのか?」
いや、別に人体錬成をしたのは親父のせいじゃないけどさ。
すると理解できないとでもいう顔をされた。

「…エド、人は何の為に産まれてくると思う?」
その問いに少し前までは自信を持って答えられたのに。
「オレは…『幸福になる為』だと思ってた。
 でも…今は『贖罪の為』の人生もあるのかと思ってる。」
少しの間があった。

「マスタング君のことか。
 エドが彼を置いてあちらの世界に行ってしまったから、それで彼を不幸にしたから今も側にいられないと?」
「…そうだ。
 オレがあいつの精神を壊してしまったんだ。
 だからもう、側にいてオレが幸福になるなんて赦されないと思ってる。」
思わず俯いてしまう。
ああ、今あいつはどうしているんだろう。
また泣いているんだろうか。

「そうか…。エド、お前若いな!」
いきなり笑いだしやがった。
「ああ!?
 オレはマジメに…!」
「ああ。解っているよ。
 それでも大切だろう?
 愛しているんだろう?」
ナニを当たり前のことを。

「ああ。だからこそ、自分が赦せないんだよ!
 あいつを壊した自分を!」
なんで嬉しそうな顔すんだよ!?
「そうだな。
 うん、父さんもお前くらい若かったらそう思ったかも知れないな。
 エド、父さんからのプレゼントだ。
 『一番大切なことはなんだろう?』
 この言葉をお前に贈るよ。」
オレとともに書斎から出るまで親父は嬉しそうだった。
なんでだ?

『一番大切なことはなんだろう?』?
なんだ?そりゃ。

『一番大切なこと』
そんなん、あいつに決まってるだろ?
あいつの幸福だ。
あいつの笑顔だ。
だからそれを壊した自分が赦せないんだろ!?

そして書斎からリビングに歩きながら
「夜中に寂しい思いをしているだろう。
 今晩行ってやりなさい。
 そして彼を見て、自分の出来ることを知るといい。」
ぽんぽんとオレの頭を叩いた。
親父のこんな仕種は久しぶりだ。

「あ!?夜中って、面会時間終わってるだろ?」
朝、面会時間の前に忍び込んでメシを届けてるけどな。
「お前ならそんなこと簡単だろう?」
そうだけどさ。
オレは骨折したり怪我したりの外科ばっかだったけど、入院歴はそれなりにある。
夜中に病室に忍び込むくらいは軽いぜ。
…それはうちの家族全員だけどな。
母さんもよく夜中にも逢いに来てくれたな。
そういや、ルジョンも面会時間前に入り込んでた。
あいつも医療関係者だからその辺の敷居は低いんだろう。


リビングに戻るとアルがなにやら紙とテキストを持ってくる。
「ねえ、兄さん。こんなの本当に証明できるお医者さんっていると思う?」
見るとそれは『銃砲所持許可に係る診断書』と『猟銃・空気銃所持許可の手引き』だった。
アル、お前マジで銃を持つつもりか?
鬼に金棒、キ○ガイに刃物より怖いぞ?

診断内容は
『上記の者は、精神分裂病、そううつ病(そう病及びうつ病を含む。)、痴呆、てんかん、(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害がもたらされないもの及び発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)その他の自己の行為の是非を判別し、若しくはその判別に従って行動する能力を失わせ、若しくは著しく低下させる症状を呈する病気又はアルコール、麻薬、大麻、あへん、若しくは覚せい削の中毒者、ではないものと診断します。』
とある。

同じく持ってきた銃砲所持許可の欠格事由に
『・18歳に満たない者(一部の銃砲については14歳に満たない者)
 ・精神障害又は発作による意識障害をもたらし、その他銃砲又は刀剣類の適正な取扱いに支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものにかかつている者
 ・アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者
 ・自己の行為の是非を判別し、又はその判別に従つて行動する能力がなく、又は著しく低い者
 (後略)』
とあった。

ああ、男の小さいフェイクがここで解けたな。
男が猟銃を持てない理由はここにあったのか。
精神障害の発作を持つ男には銃を持つ資格は取れないんだ。
…あの時この事に気付いていれば。
その後もっと精神を追いつめるようなことをしなくて済んだかも知れないのに。
腕を拘束して目隠しをし、薬を使って無理矢理に犯すような真似をしたのも、今回のことに拍車を掛けてしまったのかも知れない。
オレがあの時声を聞かせていれば。
男はちゃんとそのことを言葉にしてくれてたのに…。

「ねってば!兄さん!」
思考に沈んでしまったオレに声が聞こえた。
「あ…ああ。悪い。アル。
 なんだって?
 ああ、この診断書か?
 こんなん、ルジョンに書いて貰え。
 大丈夫だ。全部証明できる医者なんざ、いねぇから。」
「ルジョンは皮膚科医じゃないのさ。
 これは神経科か内科じゃないの?」
ルジョンは神経科医としても優秀だぞ?

「こういうのはな、歯科医以外は誰でも証明を出せるんだよ。
 医師免許取得課程が同じだからな。」
「そうなんだ!?」
お、めずらしく兄ちゃんを尊敬してくれたな?
兄ちゃんは今、眼科医はどうだったか心配になってるけど関係ないからいいよな。
よく産婦人科医がコンタクト屋のバイトしてるから平気だよな?

実家で夕メシを食べ、男の分も貰って帰った。
「ごめん。遅くなったな。」
夕メシを届けに行くと、男は一瞬嬉しそうな顔を見せかけて、すぐにそれを押さえ込む。
これはオレに逢えて嬉しいけど、迷惑を掛けているから申し訳ないということか?

あれからオレ達の間には極端に言葉が足りなくなった。
お互い怖いんだと思う。
オレは今みたいに男の心情を想像するだけでそれを聞けない。
こいつの『本当の気持ち』が怖いから。
オレを責めない為に自分を誤魔化して語られる『本当』の気持ちが。
それはオレを護ろうとするあまり、また男を傷つけてしまいそうだから。

男は多分、オレがあの時男の手を振り払ってしまったけどその理由を言わなかったことで、オレの気持ちをもう聞いてはいけないと思い込んでいるんだろう。
その気持ちの中に『もう戻らない』という言葉が含まれるのも怖いんだろうが。

お互いがお互いに怯えて接している。
それでも表面上はナニもないが如く過ごす。
こんなのはきっと男の精神に良くない。
けれどオレ達はそれを払拭することが出来ないままでいた。

いつものように夕メシを食べ終えた弁当箱を持って帰り支度をする。
男の瞳は寂しそうだがあれから決してオレを引き留めようとはしない。
ただ礼を言って名残惜しそうに見送るだけだ。

「また明日な?」
くしゃ、と髪を混ぜて言う。
「ああ。また明日。
 でも君が厭になったら、いつでもやめてくれて構わない。」
これもいつもの言葉だ。
男はもうオレをねだらない。
気を遣って遠慮するだけで。

「明日はミネストローネにしようか。
 それともクラムチャウダーがいいか?
 いっそシン風のワンタンスープにしようか。」
これもいつものこと。
それは明日も来るつもりだという意思表示。
こう言うとようやく男はホッとしたように素直に食べたいモノを言う。
「クラムチャウダーが食べたいな。そろそろ季節も終わりだろう。」
「そうだな。じゃあ明日はそれを持ってこよう。」
もう一度髪を撫でて病室を後にした。


さて、エドワードさん。
この病院の警備状況はどうですかね?
いや、エドワードさん。
ちょろいモンですよ。
…別に独り芝居で自分を盛り上げているわけではない。
時刻は夜の11時過ぎ。
オレはまだ眠れないだろう男の病室に入り込もうとしていた。

面会時間がどーたら言うが、死にそうな患者がいればその家族はスルーだ。
同様に騒がず迷惑を掛けなければ別に面会時間以外に病室に入ってもそうそう咎められることはない。
こそこそせず堂々としていればな。

そっと引き戸を開き、男の病室に身を滑り込ませる。
気配に気付いたのか
「誰だ?」
男が聞いてくる。
「しっ!オレだ。」
小さな声で言うと息を飲む音が聞こえた。

「エドワード!?」
それでもちゃんと小さな声で聞いてくる。
うん。聡い人間は話が早くていいな。

オレはベッドまで近づいた。
「どうしたんだ?こんな夜中に。」
男が聞いてくる。
「うん?寂しがってるかと思ってさ。」
嘘です。
親父に言われて来ました。

よく見えないが灯りを点ける訳にはいかない。
看護婦さんにバレてしまうから。
廊下からの非常灯の灯りと月明かりでなんとかしないと。
まだ瞳が慣れないオレは手探りで男の肩を抱き、そっと頬を撫でた。

「ああ、やっぱり泣いていたのか。」
指先が濡れた。
「あ、いや。…そうではない。」
この期に及んで誤魔化そうとするか。
それはオレを責めないためなんだろう?

「寂しかったんだろ?
 オレが恋しくて泣いていたのか?」
こんなこと言う権利がないのは解ってる。
けれどこの灯りのない空間はお互いを正直にさせるのかも知れない。
「…ああ。
 寂しかった。
 エドワードに逢いたくて…。」
オレの胸に顔を埋め、静かにまた泣き始める。

声を殺して男は泣き続けた。
オレは黙って男の髪を撫でていた。
明日はこいつの髪を洗ってやろう。
別に外科手術の後でもない。
こいつはいつでも自由に風呂に入れるんだろうが。

「エドワード…。置いて行かないでくれ。」
やがて少し泣き止んだ男が言った。
「私を…捨てないでくれ。
 君がいなければ生きている意味がないんだ。
 愛している。
 エドワードしか要らない。
 どうかお願いだ。
 私の側にいて欲しい。」
ああ。
身も世もなくオレを欲しがる男を愛しいと思ったのも、ほんの数ヵ月前のことだ。
あの頃も今も愛しいこの男。

「オレも愛してるよ。
 もう少しだけ考えさせてくれ。
 オレはまだ自分が赦せないんだよ。
 …でもあんたを愛してる。
 それだけは変わらないから。」
愛してる。
その真実は変わらない。
オレはどうすれば…

「エドワード。抱いて欲しい。」
突然の発言でオレの思考は遮られた。
はい!?
ここは病室で、見回りの看護婦さんがいらしたり。

「マズいだろ?そりゃ。」
オレは慌てた。
「見回りはさっき来た。
 あと数時間は来ない。」
だってこんな静かな病棟じゃ声も…。
「バレるよ!声も漏れるし。」
「声は我慢するから。」

男の指は既にオレのモノに掛かっていて。
ついでに言うならここ数日は男を抱いてなくて。
ウィンリィんちにいる時はもちろん、男の家に独りで寝ている時もそんな気にならなくて。
はい。
平たく言うと、溜まってます。
だからそういう誘いはマズいですdeath!

「ダメだって。やめろよ。」
「エドワード。」
はい。
「欲しい…。抱いてくれ。」
改めて耳元で囁かないで下さい。
下半身にクるから!

「本当に声を抑えられるんだろうな?」
いや、やっぱり無理と言われても今更やめられないけど。
「ん。」
オレは男の夜着に手を掛けた。


「ふ…」
男は両の掌で強く口を覆っている。
早く済ませなければと思いつつ躰中にキスを落としてしまった。
今はオレを受け容れるために呼吸を変えている。
「も…平気か?
 オレを受け容れられるか?」

もうこの言葉の意味を知ってしまったな。
でもそんなことはどうでもいい。
「ん…。」
小さく頷いた男の躰をオレ自身で貫いた。

「っ…!」
しばらくぶりだ。
やはり苦痛が大きいのだろう。
躰を震わせてオレを受け容れている。

「あ…。キツ…い。けどいい…な。」
正直な感想だったんだが、ふる、と男の躰が震えた。
「ん…ン…!」
覆った掌からくぐもった声が漏れる。
「あ…その声もイイ…。」
「ん…っ!」
あれ?
抗議の声だったのか?
それとも感じてる?
「ロイ。…愛してる。」
「…ン…ッ」
うん。
これは感じてるんだよな?

しかしオレが動く度にベッドがかなりの音を立てて軋む。
男もソレが気になったらしい。
とんとんと指で肩を叩かれた。
「ん?どした?」
動きを止めて聞くと
「スプリングの…音が大きいな。」
乱れた息で囁いて来たかと思うと躰に腕を廻して躰を反転させ、オレを押し倒した。

「あ?どうすんだよ?これで。」
オレのモノが抜けてしまった。
「この方が音が小さくなるだろう。」
言うなり男はオレに跨り、オレのモノを受け容れた。
これって騎乗位ってヤツぅ?
あー。こんな贅沢久しぶりだ。

相変わらず声をあげないように掌で口を覆っている。
でもオレの上で紅潮した躰が震えながら上下するのはうっとりとするような眺めだ。
時折快感が勝ってしまうのか動きが止まるけれど、その分男のナカは痙攣しながらオレを締め上げる。

月明かりと非常灯に照らされて、涙を零しながら切ない表情でオレを受け容れる男はぞくぞくするほど妖艶で、視覚からもオレを酔わせた。
たまらず男のモノを扱きながら下から突き上げると白い喉を大きく晒す。

「ンッ…ン!」
このひくつき方はもう限界が近いな。
オレは続けて突き上げた。
籠もった声が一際高く上がると男は達した。
その躰の痙攣でオレも果てる。

乱れた息を整えながら、オレはここになんの為に来たかを思い出した。
「なあ?」
オレの上に倒れ込んで抱きついている男に声を掛ける。
「ん?」
「あんたの『一番大切なこと』ってなに?」
オレの質問に間髪入れず
「エドワードと一緒に2人で幸福になることだ。」
答えが返ってきた。

「そか…。」
それを聞ければいいや。
後は明日考えよう。
どっかの映画のヒロインのようなことを思った。

「明日、また来るから。」
男の躰を清めて服を直し、オレは男にキスを落とす。
軽くするつもりが男から舌を差し入れられ、深いキスになってしまった。

「離れたくない…。」
小さな小さな声だった。
それでも込められた想いはきっと大きい。
「明日また来るから。」
同じ言葉を繰り返してもう一度キスをし、オレは病室を後にした。


さて、どうしよう。
翌日昼メシの後、病院から帰ってまた考え始める。
ここ数日考えても結論が出なかったんだ。
今日も出なくても仕方がないか。
しかし今日は河岸を変えてみた。
オレと男を知っているウィンリィの仕事場。
つまり元オレの部屋だ。

「ねえ、エド。あたしは『幻』と『惑』をわざと一冊にまとめたのよ。」
うだうだと悩み続けるオレにウィンリィが言った。

構成からそれは当然のことだと思えた。
そう言ったオレに
「バカね。そうじゃない。
 アレはお互いがお互いを許して欲しいと思ったから、同時に読んで貰えるよう一緒にしたのよ?」
微笑むウィンリィは、まるで母さんのように優しかった。

意味をはかりかねたオレに噛んで含めるように
「ロイさんも苦しんだ。エドも苦しんだ。
 お互いを愛しているし、全てを受け容れたいと思ってる。
 エドはまぁ…言いにくいけど…、他の人達に犯されてしまってもロイさんを愛せるでしょ?」
俯いてしまったオレの顔を覗き込んでくる。

「オレは…前の人生のことだし、済んだことだと思ってる。
 あいつが悪いんじゃないし、そのことで苦しんでるのも知ってるしな。」
オレの言葉に
「…ねえ、エド。
 エドはそれをお互い様と思うことはできないの?」
笑いながらウィンリィが言った意味が解らない。

「あ?」
その疑問のまま言う。
「ロイさんだって、エドがロイさんを置いて行ってしまったことや、あっちのロイさんにそっくりな人に内心縋ってしまったことを『前の人生のことだし、済んだことだ』と思うとは考えないの?
 あんただって、そのことで苦しんでるんでしょ?」

オレはあいつが何をしても、どういう状況だったかにしてもそんなのは関係ない。
むしろそれを包み込んでやりたいと思ってる。
『今』生きているあいつを幸福にしたいと思っている。

…それをそのままあいつも思っているとしたら?

すとん、と何かが腑に落ちた。

「なあ。ウィンリィ?
 『一番大切なこと』って、なんだと思う?」
男にとってそれは
『オレと一緒に2人が幸福になること』だと言った。
「んー?
 自分の愛する人を幸福にすることじゃないの?
 それで自分も幸福になること。
 あたしはそう思うけど?」

オレにとってそれは
『男を幸福にして、あの笑顔を護ること』だ。

「ウィンリィ、あいつはまだオレを必要としてくれると思うか?」


   −オレ達は『今』生きている。−


「当たり前でしょ?
 ロイさんがあんた以外になにを必要とするって言うの?」


   −『今』オレ達は『幸福になる為』に生を受けている。−


「オレ、あいつの手を取っても赦されるのかな?」
「あたしはあんたがロイさんの手を離したら赦さないわね。」
ふふん、と腰に手をあて、偉そうに笑う幼なじみがこんなに頼もしいと思ったことはない。
どうみても悪役だけどな。

「ウィンリィ。ありがとな。オレ、あいつと幸福になるよ。
 …今度こそな。」
「気付くのが遅いっての!
 ほら!早く行きなさい!ロイさん、待ってるわよ!」

どん、と背中を殴るように押した手がオレを前へと『未来』へと押し出した。
オレは走った。
愛する男のもとへ。
お互いがお互いを幸せへと導ける者のところへ。


   −『今』生きているこの時間に、ともに『幸福になる為』に。−




            fine


061116



(注:現在は精神保健指定医及び一定の条件を満たす医師のみが銃刀法における診断書の作成を認められています。)



「澱」へ
 ↑ これで本当に完結になります。

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