F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) > 「遊」vol.12
「遊」vol.12
08.11.19up
そっと額に落ちる唇を感じて眠りから覚めた。
「…はよ。なにしてんの?」
今日もキス攻撃でオレを起こすつもりだったのか?
「おはよう。いや、熱が出ていないかと確認していた。身体は大丈夫か?」
「…。」

そうかアレはやはり夢じゃなくて現実か。
横たわったまま、身体を少し動かしてみる。
うん。少しだるくて腰は痛いが、なんとかなりそうだ。
「大丈夫だ。仕事には行ける。」
「無理をしないで休んだ方がいい。」
「いや、そろそろ資料も届いてるだろうし。さて、朝メシ作るか。」

よっと起きあがったオレに慌てて男が身体を支える。
「? なにしてんの?オレ大丈夫だって。」
そのままベッドを降りた。
「歩けるのか!?」
なにをそんなに驚いているんだ?
あ、でも腰痛てぇ。身体のあちこちも少し強張っているようだ。
「うん。腰が結構痛いけどな。
 オレ、昔キャンプで骨折っても遊び回ってたくらいだから。大したことねぇよ。」
「…。若いと順応性が高いんだな。」
感心したように男が言う。
おい!順応なんかしたくねぇぞ!

「オレシャワー浴びてくる。…絶対入ってくんじゃないぞ!」
パジャマを来ているということは夜中に男が身体を拭いてくれたんだろうけど、ちょっと気分をすっきりさせたい。
脱衣場でふと鏡を見ると紅い痕が目に入った。

うわ!なんだこれ!?
鎖骨の下…は覚えてる。
胸に幾つ付いてんだ?
これは心臓の辺りか?
首!首筋!これは服から出るだろう!
二の腕にまで付けてやがる。
そうだ手首! これ絶対シャツから出る。
右手だから字を書くとき横向きになるよなー。
あー、腿のは当分消えないな。こりゃ。
…。
どうしてくれよう。あの痴れ者。


確かに男に対する恐怖心はもうない。
しかしだからといって受け容れるとは言い切れない。
それはあの行為をこれからも受けるということで。
まだあの暴力に対する恐怖感は拭えていない。
熱めのシャワーを頭から被り、栓をしたバスタブに座り込む。
強張った身体のあちこちにシャワーを当て、ほぐしていく。


寝室へ戻り、着替えを済ませてからキッチンへ向かう。
コーヒーの香りが漂っている。
男はコーヒーを煎れることにだけは有能なようだ。
昨日のミネストローネに火(こいつんちはIHクッキングヒーターだけど)を通しながら、ベーコンエッグ、トースト、シリアルとサラダの簡単な朝食を調える。
それらをオレの席に置いて、向かいに座った男には皿に載せた生のセロリを一本置いた。

「等価交換だ。」
きっぱりと言い放ってやる。
「昨日のあんたの行為の代償がそれだ。喰え。」
「セ…センセイ…?」
情けない顔は罪悪感なのかセロリに対するものなのか。
どっちにしろ、みっともない顔だ。
「オレは昨日のあんたの行為をまだ許せてない。」
ま、一口でも食べたらちゃんとした食事を作ってやろう。
その程度のイジワルだった。

「これを…食べれば許されるのか?」
「ん。済んだことだ。許してやる。」
「…最初に聞いておきたいのだが。」
「あ?なんだ?」
「一度飲み下せば、その後吐いてもいいだろうか?」
「あー。かまわないけど一度飲んだセロリの味と匂いがまた口に戻ってくるんだぜ?
 セロリ・リターンズって感じ?」
男が考え込んでいる。

「コーヒーは飲んでもいい。マヨネーズを付けるか?」
本当に喰うとは思えないが、一応ルールを決めてやろう。
お?セロリを手に取った。
悲壮な顔で一口…うわ。すげぇ。丸呑みしたよ。こいつ。
セロリって結構固いよな。
喉につっかえねぇか?
続けて齧っちゃぁ丸呑みしている。
「おい。もういいよ。」
オレが言うのと男が立ち上がるのとは同時だった。
口を押さえた男の顔は真っ青だ。

「大丈夫か?」
涙目の男はオレを一目見て、トイレへと走り去った。
うーん。これは許してやらないとな。
男が残したのは、セロリの葉の部分だけだった。
よほど悪いと思ったんだろうな。
まぁ、オレのあのつらさとセロリを喰うのとどっちが大変よ?
とは思うが、男の努力は認めてやろう。

しばらくして、まだ涙目の男が戻ってきて席に座った。
「これで昨日のことは許してもらえるのか?
 昨日のことは無かったことに?」
「ああ。許してやる。
 …あんたは『無かったこと』にして欲しいのか?」
無かったことにされても腹が立つが、男はそれを望むんだろうか?
疑問に思った。

「いや。して欲しくない。
 許される行為だったとも思っていない。
 それでも、君のすべてを奪ったことを無かったことにしないで欲しい。」
「オレはっ!あんたのものになった訳じゃない!」
男が立ち上がって近づいてくる。
「わかっている。君は君のものだ。
 そうではなく、私が君のものなんだ。」
足もとに跪いてオレを見上げる。

「オレはあんたを愛せる訳じゃない。
 オレはもうあんなことされるのはイヤだ。」
「もう無理にはしない。
 厭だというのなら、君に挿れることはしなくてもいい。
 それでも私を愛せない?
 もう…触れられるのも厭か?」
オレだって解ってる。
あの暴力的な行為がイヤなだけで、この男には惹かれているってこと。
それはこの男も解っているんだ。
その上で許しを乞うなんてずるい。

「それであんたは我慢できんのか?」
視線を逸らしてぶっきらぼうに問う。
「君を泣かせるくらいなら、もう二度としないと誓うよ。
 君が望まない限りは。」
オレの右手を取り、甲にキスをする。
昨日のように手を返して、手のひらにももう一つキスを落とす。
「誓いの口づけと、懇願の口づけだ。
 もう私は君のものだ。好きにしてくれていい。
 どうか私を愛してはもらえないだろうか?」

こんな芝居がかったセリフ、こいつじゃなかったら吹き出すのに。
笑い飛ばすのに。
どうしてオレの顔は今紅いんだろう。
「メシ!作ってやるからちゃんと喰え。
 朝メシは大事なんだぞ。」

同じメニューの朝食を作るオレの背後に立って
「答をもらえないか?」
耳元で男が囁く。
「火を使ってんのに力が抜けるようなマネをすんな!」
「どうか答を。君に愛されたい。」
焦げるんだよ!今手を離すと!
もういい。どうせ喰うのはこいつだ。

「答は『浮気は許さねぇ』だ!」
ああ。まだ見ぬオレの妻と子供。
オレ、きっと愛して幸せにできたと思うのに。
もう逢うことはないんだな。
ごめんよ。
オレだって本当は逢いたかったんだよーーー!!


オレはいいと言ったのに、こいつは事務所まで送ると言って聞かなかった。
「もういいからあんたも仕事に行けよ。」
さっさと男を追い払いたくて言うが、男は
「アルフォンス君にきちんと君を手渡さなくては、私の役目は終わらないよ。」
と事務所を去ろうとしない。
そういうアルは電話中でオレ達に気が付かない。

電話が終わった。
アルが受話器を置いて、ふとこちらを見た。
「あ、兄さん!来てたんだ。
 ロイさん、おはようございます。
 今ブラッドレイ社さんから電話が有って、急ぎで試算表(合計残高試算表の略称。その時点でのどれだけ儲かってるかとか、どの位資産や負債があるのかを示す表のことだ。銀行からの借入なんかに必要とされる。)が欲しいって言われたんだけど。」
「あ?帳面来てるか?オレは受け取ってないぞ。」
「僕は知らないけど?」
オレは自分の机に向かい、受け取りをした資料の箱をひっくり返してみる。
ない。
そもそも受け取った記憶も記録もない。
しかたがないので、ブラッドレイ社に電話を入れる。

「いつもお世話になっております。
 先程お電話を戴きましたエルリック事務所でございます。
 試算表が必要と伺ったのですが、帳面はお送りいただいたのでしょうか?」
「…。」
「はい。それでは試算表は作れませんので、至急帳面をお送り戴けますか?
 ええ。はい。届き次第、ただ申し訳ございませんが、年末調整の時期ですので若干のお時間を戴くことになるかと思います。」
「…。」
「はい。なるべく急いでお送りできるように致しますので。
 ええ。申し訳ございません。
 どうぞ宜しくお願い致します。」
丁寧に挨拶をして電話を切る。

「…。ったくよぉ!」
うって変わってと言われても仕方がないだろう。
吐き出すように言ってしまう。
オレは外面はいいんだよ。そうだよ。
お客さんの我が儘にだって怒ったことはないさ。
面と向かってはな!

「やっぱりまだ帳面来てなかったんだ。」
苦笑をしながらアルが言う。
「帳面も無しに試算表が作れるかってぇの!
 オレ達を錬金術師かなにかと勘違いしてるんじゃないか?」
「ははは。錬金術師だって、材料が無ければ錬成出来なかったそうだから、同じようなもんじゃないの?
 等価交換っていうんでしょ?」
他のお客さんの資料を入力していた途中なんだろう。
アルがオフコンに向かいながら答える。


錬金術。
それは今の科学の元だとされているが。
オレ達にとっては昔々のお伽話。
荒唐無稽な魔法のようなもの。
「そうだな。顧客のよこした材料を理解、分解、つまり仕訳をして会計ソフトに入力して、出来上がった元帳から財務諸表や申告書を錬成する。
 まさに君たちが行っていることは錬金術だな。」
黙っていた男がオレ達に言う。
あんた、まだいたのか。
とは口に出さない。
オレって優しーなー。

「うーん。まどろっこしーな。こうやってさぁ。」
両手をぱんっと合わせる。
「錬成が完了したら、オレ達も楽だよな。」
ははっ。とアルと男に言う。
あれ?軽口だったのに、男が動かなくなってしまった。
「ショチョウ、どした?」
気になっちまうじゃないか。

「いや…。
 昔…錬金術師の中には、錬成陣を書かなくても両手を合わせるだけで錬成をした人々がいたそうだよ。」
「へぇー。それって便利でいいな。」
そりゃホントにお伽話の範疇だわ。
「…それは禁忌を犯した咎人だったらしいがね。」
「禁忌?金の錬成でもしたのかな。
 そりゃ禁忌だな。経済が成り立たなくなっちまう。」
最近の価格破壊だって経済を成り立たなくさせているんだ。
このうえ、金の違法製造なんてあったらこの国の経済は破綻してしまう。

「な、もうアルへの引き渡しは終わっただろ?
 あんたも仕事に行けよ。」
いくら出来たホークアイさんでも、早退と遅刻ばっかの上司の尻ぬぐいはイヤだろう。
その原因にもなりたくないし。
うーん。憧れの人なのに。好きなのに、恐怖心がぬぐい去れないのは何故なんだろう?
なにかぐずぐず(例えば「いってらっしゃいのキスは?」とか)言われるかと思ったが、男はあっさり
「それでは失礼するよ。」
と事務所を後にした。
あまりのあっけなさにこっちが違和感を覚えるくらいだ。

「ロイさん、どうかしたのかな?」
ほら。アルにまで不審がられてる。
「さぁ。あいつの考えてることなんて分かんねぇよ。
 それよりアル、あいつのオレを伴侶とする挨拶を簡単に受け容れたって本当か?」
オレは愛する弟の良識を疑いたくは無かった。
しかしコトと次第によっては思いっきり疑いたい。

「え?ナニを今更?ロイさんと兄さんは愛し合ってるんでしょ?」
「は?その誤解はどこから生まれたんだ?
 兄ちゃんに分かるように説明してくんないか?」
オレがあいつを受け容れたのは今朝初めてのことだ。

んー。と考え込むような仕種の後でアルが言った。
「だって兄さん、普段はあまり他人に対して自分の感情をぶつけないのに、ロイさんにはそうじゃないでしょ?」
「う…そうか?」
「うん。それにロイさんって兄さんが見ていないとき、兄さんのことをすごく切ないくらい優しく見ているんだよ。
 いつもはイジワルそうな顔を兄さんに向けてるけどさ。
 あの顔を見ると、本当に兄さんを大切にしてるんだなぁって分かるんだ。
 あと、兄さんって、ロイさんがいると必ず意識を向けてるでしょ?
 ロイさんをいつも意識から外さないようにしてる。
 以前調査に来たときからずっとそうだったよ。」
「そう…なのか。」

「相思相愛っていいよね。羨ましいよ。」
おい。それが同性同士でもか?
アル、お前はナニか悩んだりしないというのか?
オレは充分悩んでいるんだが。

「アル、お前オレのことあいつに色々バラしたろ?
 マンガも渡したし、車やビールの好みとか。」
「え?ビール?それは母さんだよ。
 父さんも母さんもいろいろロイさんに兄さんのこと話してたよ?
 まぁマンガを渡したのは僕だけどさ。
 だって新刊出てまとめられなかったら兄さんイヤでしょ?」
それは確かにイヤだ。
流石にオレの弟。オレを分かっている。
じゃなくて!

「じゃあ、オレのいつも食べてるシリアルだけを教えたのは誰だ?
 あいつ、朝食に水もスープも無しにシリアルだけ出したぞ?」
「あー、シリアルね。
 アレは僕がロイさんにそれしか教えなかったんだ。
 キッチンに何もないと面倒見のいい兄さんのことだから、ほっておけなくなってご飯作ったりすると思ったんだよね。
 でなきゃ、さっさと帰って来ちゃったでしょ?
 僕の計画はやっぱり成功だったね。」
「アル…お前はオレがアブノーマルな道に進むことを願っていたのか?」
「イヤだなぁ。兄さん。僕が願っているのは兄さんの幸せだよ♪」

ごめん。アル。
オレ今、お前の良識をものすごく疑ってるよ。



Vol.13

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