F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【遊 シリーズ】 > 「遊 脇道」(エドロイVer.) > 「遊 脇道」Act.6
「遊 脇道」Act.6
08.12.19up
なんかこいつの腹に入れた方がいいよな。
消化のいいモノ。
しばらく男の寝顔を眺めていたが、こうしてばかりもいられない。
オレも腹減ったし。

立ち上がってからふと、オレがいないことでこいつが不安になったら困るなと思った。
男の携帯をサイドの棚に置いて、メモをつけた。
『メシ作ってる。起きたらオレの携帯を鳴らせ。
 オレはちゃんと居るから大丈夫だ。
 エドワード』
「と、こんなもんでいいかな。」
目が覚めてオレがいなかったらこいつはまた泣いてしまいそうな気がしたから。
こいつが泣くのなんて昨日初めて見たな。
驚いた。
いや、物理的に痛いからっつぅのは解るけど、その後も泣いてたよな。
うーん。

あ、こいつ携帯の番号知ってんのかな?
アルが教えてそうだけど、確認しとくか。
なかったらアドレス帳に登録しないとな。
男の携帯を開くと待ち受け画面はオレの写真だった。
「おい…。これ職場で開けんのか?」
開けるんだろうな。こいつは。
ホークアイさんに見せたりとかしてそうだ。
しかも嬉しそうに。

つか、こんな写真いつ撮ったんだよ?
嬉しそうに笑ってるオレ。
これ…この前家族でレストラン行った時だな。
豪華なメシを前にした笑顔に違いない。
あの時向かいに座ってたのは…親父だ。
そういや、携帯で写真撮ってたような気がする。
料理を撮ってるんだと思ってたよ。
「あのバカ親父…。」
それをこいつに写メしてたのか。

なんかがっくりと力が抜けた。
「とりあえず…オレの番号…。」
アドレス帳を開いてみる。
「エドワード…で登録はないな。センセイ…もない。
 エルリック…これは事務所の番号だ。番号検索してみるか。」
オレの携帯番号で検索してみると
登録名は『私の愛しい天使』!?
「『わ』かよ!?探しにくいったらありゃしねぇ!」
(あ、英語だと『m』ですね。)
つかこっ恥ずかしいヤツ。なんだよこの登録名。
後で替えさせよう。
今替えると掛けてこらんなくなるからな。

キッチンで昨日のミネストローネを温め直して卵を落とす。
これにパンを千切って入れればいいか。
野菜も摂れるしな。
鍋をかき混ぜていると携帯が鳴った。
ヤツからだ。(さっきオレの携帯に男の番号を登録しておいた。)
「起きたか?」
「ん…」
「今行くから待ってろ。」
コンロ(ここんち同様、最近の高級マンションはIHクッキングヒーターを使っているが、停電の時はどうするのか常々オレは疑問に思っている)のスイッチを切って、湯で濡らしたタオルを手に寝室へ行く。

「具合はどうだ?」
ベッド脇の椅子に座って額に手をあててみる。
まだ少し熱があるようだ。
「喉…が痛い…。」
掠れた声だ。
「ああ、昨日盛大に吐いてたからな。
 胃液で喉を焼いちまったんだろ。
 今甘い飲みもん作ってきてやるから。」
頭を撫でていたオレの手を握って
「私も…行く。」
オレを見つめながら言う。
「熱があんだから寝てろって。」
「厭だ…離れたくない。」
うわ。泣く?泣くのか!?

「解った。じゃあソファに寝てろ。それならいいだろ?」
聞くとこくりと頷く。
よかった。泣かれなかった。
「汗かいただろ?着替えような。」
オレ、すげえちっちぇえ子を相手にしてる気分だ。
持っていたタオルで躰を拭いて、ベッドサイドチェストに積んでおいた乾いたタオルを着替えたパジャマの中に入れる。
「手慣れているな。」
感心したように言う。
「オレ、兄ちゃんだからな。アルが熱出すとこうやって着替えさせたりしたんだよ。」
小さい頃のアルは可愛かったなー。
なんか思い出しちゃったぜ。

「歩けるか?」
「ん…大丈夫だと思う。」
躰を支えて男をおこす。
途端に顰めた顔が痛々しい。
つらいんだろうな。
「掛け布団を持ってろ。」
「? センセイ?」
「いいから布団持って。横になれ。」
言う通りに掛け布団をまとめて男がまた横たわる。
「せーのっ…と!」
オレは男の脇と膝の下に腕を差し入れて抱き上げた。
いわゆる『お姫様抱っこ』ってヤツだ。
「うわ!センセイ、大丈夫か?」
「ああ。普段鍛えてるからな。力には自信がある。」

実はウィンリィにガキの頃
『結婚式で花嫁を抱き上げられない男なんて男じゃない!』
と言われ、昔からアルと必死にお互いを抱き上げあってたんだが、それはこいつには内緒だ。
こいつの体重がアルとたいして変わらなくてよかった。
人生ナニが役に立つか解らないモンだな。

リビングのソファに男を降ろし
「ここで大人しく寝てろよ?」
男が持っていた布団を掛けてやりながら言う。
こいつんちは羽布団だ。
この軽さと暖かさはきっと高級品なんだろうな。

「ここからではキッチンが見えない。」
やっぱ熱のせいか、いつものこいつじゃない。
こんな子供のような駄々をこねるなんて。
(それもかわいいとか、ちょっと思っちまったけどな。)
「解ったよ。待ってろ。」
しょうがない。
オレは男を乗せたままソファをガガガとキッチンの近くへ移動させた。
これはちょっと重い。
フローリングでよかった。カーペットだったら不可能だったな。
「ほら!これでいいだろ?」
あー。床に傷がついたかも。
よく見えるようにと頭の下にクッションを入れて支えにしてやるとようやく納得したようだ。
全くこの手間のかかる甘えたさんは誰なんだ?

とりあえず先に喉をなんとかしてやらなきゃな。
ショウガを摺り下ろして鍋に入れ、水を入れてコンロに掛ける。
はちみつでも有るとよかったんだが、無いから砂糖を多めに入れた。
最後に少しコーンスターチを入れてとろみを付ければ出来上がりだ。
これはアルが好きで冬になると母さんがよく作っていた。

マグに入れるより、横になったままスプーンで飲める方がいいだろう。
引き出物の山の中から小さめのサラダボウルを出して注ぎ、ソファに戻るとその前の床に直接座った。
「これ喉にいいんだ。きっとすぐ治る。」
スプーンで混ぜてみるが、あまりに熱そうだ。
「ちょっと冷ますか。あ!」
そうだ。税務署に欠勤の連絡!
時計を見ると九時近い。
ホークアイさんならもう出勤しているだろう。
「あんたの欠勤の連絡入れないと。自分で…は喉が痛いか。
 オレが入れて大丈夫か?」
黙って男が頷く。
そうか。やっぱりな。
まあいいけど。

「はい。署長室です。」
いつものようにホークアイさんが出る。
「おはようございます。エルリックです。」
やっぱりきびきびとした話し方はいつ聞いても気持ちがいいな。
「エルリック先生? おはようございます。
 ごめんなさい。無能はまだ来てないのよ。」
いきなり上司を『無能』呼ばわりですか!?
仮にも公用の回線ですよ?

「いや、あの。違うんです。今日ショチョウが熱を出してまして欠勤の連絡です。」
「あら。風邪かしら。
 バカは風邪ひかないって言うけど、無能はひくのねぇ。
 解りました。届けを出しておきます。」
酷いことをさらりという人だ。
やっぱ怖いかも。
「では宜しくお願いします。」
「了解しました。…全くエルリック先生だってお仕事があるのに、困った無能ね。
 申し訳ないのだけれど、よろしくね。」
「はは…。了解です。失礼します。」
乾いた笑いしか出ねぇや。
「はい。ご連絡有り難うございました。失礼致します。」

なんかこいつ可哀想…。
黙って横たわっている男に、ちょっと同情してしまった。
まあそれだけ普段ホークアイさんに手間を掛けさせているんだろう。
自業自得と言えばそれまでなんだが。
「あんた、部下に恵まれてんなぁ。」
自分で連絡したくなかった理由も解った気がした。

いい具合に冷めたショウガ湯をスプーンで掬うと黙って口を開ける。
同性同士で『あーん』ってヤツか…。
いいけどさ。
負担を掛けたくないからそのつもりだったし。

掬ったものに息を吹きかけて冷まし、温度を見るために唇にあててみる。
このくらい冷ませばいいか。
「熱かったら言えよ?」
一口含ませると
「熱い…。」
涙目になって言う。
あれ?
「熱かったか。ごめんな。」
喉が痛いんだもんな。ぬるめにしないとな。
少し多めに吹きかけてまた唇で温度を見る。
こんなもんかな。

「ほれ、口開けて。」
男の顔が紅いようだ。
「どうした?顔が紅いぞ。熱があがったか?」
スプーンを男の口に入れてからボウルに戻し、額に手をあててみる。
そうでもないか。
いや、少し熱があがってるかな?
「熱はあがっていない。
 美味しい…けどこれ、喉にしみる。」
拗ねたような声と表情で言う。
「それが喉に効くんだよ。ワガママ言わないで飲め。」
ホントに甘えたさんだな。
いつもと全然違う様子がおかしくて…ちょっと嬉しい。

その後も一匙毎に温度を確認してから男の口に運んだ。
「こんなもんでどうだ?喉の調子は。」
小振りなボウルはほとんどカラだ。
やっぱり顔が紅い。
大丈夫かな。

「ん。センセイが口づけしてから飲ませてくれたんだ。
 余計に効きそうな気がするな。」
はぁ!?
あ、口にあててたことか?
「なっ…バカか!? ありゃ温度見てただけだ!」
小さかったアルに飲ませるときのクセが出てたんだな。
「一匙ごとに祈ってもらっていた気がしたよ。
 まじないのように見えたんだ。」
くすくすと笑うその顔は、やっぱりいつもよりも素直で甘えている。

「ま…あ。早く治るといいなっつぅのは事実だ。
 でもそんな風に見てたのか。
 あ!だから顔が紅かったのか?」
つ、と目を逸らすから図星だったようだ。
余計に顔が紅く染まっている。
「…嬉しかったよ。」
視線を逸らしたまま男が呟く。
「そか。…よかった。」
くッ!この甘えたさんが!
かわいいじゃねぇか。チクショウ!

「腹は減ってるか?
 我慢できるようならすぐに塩辛いモン喰うより、少しそのまま置いた方が喉にはいいんだけど。」
もうこいつがかわいくて、ついオレの手はこいつの髪や頬を撫でてしまっている。
できることなら抱きしめてしまいたいが、躰に無理が掛かりそうなのでそれは我慢する。
男はオレの撫でる手に気持ちよさそうに目を細めて、時折頬を擦り寄せる。
猫みたいなヤツだ。
豪奢で艶麗な黒猫。

「ん…。まだいらない。
 センセイが先に食べてくれたまえ。」
安心しきったような声が聞こえる。
喉は大分良くなったみたいだ。
「そうだな。あんたと同時には食べられないから。
 じゃ、オレ先に食べるわ。」
立ち上がるとそれでも不安そうに見上げてくる。
「すぐ戻るから。」
笑いかけると黙ったままこくりと頷いた。

うっ!
普段能弁なヤツの無言で頷く様は下半身に来るな。
昨日の夜もそう思ったけど、今日も何度か見たその仕種は確実にオレの体温を上げる。
元気になったらしなくなるかな。
その方が平常心は保ちやすいが、もったいない気もする。
って、オレなに考えてんだ?
昨日あんなにつらい思いをさせたばかりなのに。

自分を鎮めようとキッチンでミネストローネの鍋を温める。
トーストとベーコンエッグを焼いて。
後はシリアルと簡単なサラダでいいか。
熱いスープは喉にキツイだろうから、男の分も今作っておこう。
パンを千切って大きめのカレー皿に置き、上から卵入りのミネストローネを注ぐ。
それよりも小さめの皿に自分のミネストローネを入れた。
トレイ…。
引き出物にはきっと有るはずだからと探すと、シンク下の棚に有った。
(やっぱ引き出物の王道、花柄かー。ま、いいけど。)

「待たせたな。あんたの分も作ったから、冷めたら喰わせてやるぞ。」
ソファの前にトレイを置いて、オレは食べ始めた。
さっさと喰って、こいつにも喰わせなきゃな。
んがんがと咀嚼しているとオレの携帯が鳴った。
アルだ。
「んもー。」
まだ口にベーコンエッグとトーストが入ってる。

「おはよう、兄さん。
 ロイさん大丈夫?」
やっと口ん中のモノを飲み下した。
「ああ。熱が出てるんだ。…風邪…かな?」
ははは。と応えたオレに
「ふーん。風邪ねぇ。」
含みを持たせたようなアルの声。
何だよ。その態度は。

「ああ。ここんとこ寒かったしな。」
「事務所の方はまだ資料が来てないから、大丈夫。
 なにか買ってきて欲しいモノとかある?」
色々ある。
オレが買いに行こうと思ってたんだけど。
「ごめん。アル、ちょっと待ってくれ。」
言ってから男に向かって
「あのさ。あんた、オレが買い物に行くって言ったら…」
「私も行く。」
間髪入れず答えが来た。
「だよな。
 アル、コンビニでいいからスポーツドリンクとプリンとかアイスとかヨーグルトとか消化の良さそうなモン、買ってきてくんねぇか?
 あ、あと蜂蜜。」

「それだけでいいの?
 他に要るものはない?」
「お前、時間あんのか?」
「だから資料が来てないんだってば。休みにしてもいいくらいだよ。」
「なら、悪いけどまな板と包丁、それと氷枕と食糧を適当に頼む。
 消化の良さそうなもん。
 お前なら解るだろ?」
「解熱剤はいらないの?」
「無理に熱を下げたくはないんだ。
 でも、一応それも頼む。
 あ、電子レンジ欲しいわ。頼んでいいか?」
濡れタオルを作るのに便利だ。
「電子レンジの機能とかメーカーに希望有る?」
「あんまない。あ、オーブン機能がついてると嬉しいかも。」
「了解。じゃ、後で行くから。」
「すまねぇな。よろしく。」
「うん。兄さん、ボクは賭けに勝たせて貰ったから今日のこの買い物はボクの奢りでいいよ。じゃね。」
意味不明の言葉を残して愛しい弟は電話を切った。
賭けって…ナニ?

自分の食事が終わって、男にミネストローネとそれに浸したパンを食べさせ終わったところにアルが来てくれた。
「おお!悪いな。」
二人でアルの車(っつってもオレと共有なんだけど。)から荷物を運んだ。
「すまないね。アルフォンス君。君にも迷惑を掛けてしまった。」
さっきまでの甘えた態度をどこに隠したんだか、いつもの調子で男が言う。
ソファに横たわったままだったけど。
「いいえ。お加減はいかがですか?」
「ああ。一日寝ていれば治る。
 少し気持ちが弛んでいたようだ。」
きっと傍目からは『爽やか』とも言える笑顔で返す男は限りなく胡散臭い。
そうだ。
オレも今までこういう顔しか知らなかったんだよな。
「お大事になさって下さいね。
 じゃ、ボクはこの辺で失礼します。」
うん。
アルの『爽やか笑顔』もかなーり胡散臭いけどな。
ま、その辺は身内の欲目で見なかったことにしよう。

「オレ、アルを送ってくるから。」
だから泣くなよ? と思いながら男に言う。
「ああ。見送れなくて申し訳ない。
 アルフォンス君、どうも有り難う。」
助かったよと言う男に、いえいえ、ボクでお役に立つならと返す弟。
こいつら…。
キツネとタヌキ?
いや、そんなことを考えてしまうオレの心が穢れているのか?
もっと人を信じなきゃいけないな。オレ。

そんなことを考えながら車庫まで送るオレに
「ボクはそっちに賭けたけど、正直意外だったよ。」
アルが言いだした。
「あ?そういやさっきもそんなこと言ってたな。
 賭けって、なんのことだ?」
「兄さんとロイさん、どっちが抱かれる方かって賭けだよ。
 母さんと父さんは、兄さんが抱かれる方に賭けたんだ。
 ボクは意外性もあるけど、まあ二人に賭けられちゃったからね。
 兄さんが抱く方に賭けたんだ。」
なななななんですと!?
オレとロイの…!?
そんなんが賭けの対象に!?

「ば…バカか!?お前等!」
「母さんと父さんにとっては重要だったみたいだよ。
 自分の息子が『受け』か『攻め』かっていうのはさ。
 ボクから見ると、どっちにしたって子供が出来るわけでもなし、と思うんだけどね。」
『受け』?『攻め』?
なんだ?ソレ。
「で…お前の出した結論は…?」
なんで賭けの終了が解るんだよ!?
「ロイさんの発熱、兄さんが抱いたせいでしょ?」
「う…。」

昔からこの人の心の機微に聡い弟になにか誤魔化せたコトがない。
「全く、無茶して躰を壊させないようにね。
 こう言っちゃなんだけど、ロイさん若くないんだから。
 兄さん鈍いから解ってなかっただろうけど、ロイさんはずっと兄さんだけを愛してくれてたよ。」
「ああ。…そうみたいだな。」
「その想いに応える気になった?」
この弟にナニを隠しても意味はないだろう。
「ああ。オレ、アイツが好きだ。
 気が付いたのは昨日だけどな。
 …大切にしたいと思ってる。」

ふぅ、と溜め息をついてアルが言う。
「そっか。良かった。
 ボクも兄さんとロイさんのこと、応援してるよ。
 ま、道ならぬ日陰の関係でも愛を育んでね!」
オレは心がねじ曲がっているのだろうか。
愛しい弟の言葉にどうしても微かなトゲを感じてしまうのだが。
「有り難うよ。」

ああ。
本当に小さい頃のアルは可愛かったなー。
…小さい頃は本当に
…かわいかった…のになぁ…。




Act.7

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