F.A.SS -
「鋼の錬金術師」の二次創作
【基本のエドロイSS】 -
原作をベースにした、エドロイSSです。
時系列順に並んでいます。
(下に行くほど後の出来事になります。)
誰がために - (まだロイの片想い)08.06.25up
- (両想いでもお互い気付かない)08.6.26up
水の中の月 - (告白)08.6.29up
- 08.6.30up
- (初めての触れ合い。大佐が咥えるのみ)08.7.1up
- (初体験)08.7.11up
蹟(しるし) - (大佐から初めてのキスマーク) 08.7.16up
シチュー - (大佐が熱を出さなくなったあたり)08.7.16up
- (大佐が壊れてます。ちょっとギャグ)08.7.22up
フソク - (豆がいないと闇がぶり返す大佐)08.7.22up
摂取 - (「フソク」の続き。相変わらず闇に囚われている大佐と帰ってきた豆)
08.7.22up
Turn R
Turn E
幕間 - (ごめんなさいなギャグ)
08.8.8up
- (ヤってるときのエドVer. 「虚」と対になってます。)
08.8.8up
- (ヤってるときのロイVer. 「彩」と対になってます。)
08.8.8up
- (「虚」の続き。どーしようもなくグダグダなロイ)
08.8.8up
- (兄さんと酔ってご機嫌の大佐。未然ジェラシー)08.10.25up
- (鬼畜い兄さん♪後、ヘタレ)08.10.25up
【遊 シリーズ】 -
パラレル。税務署長のロイと税理士のエド。

このSSは途中からRPG方式で、「遊」(ロイエドVer.)と「遊 脇道」(エドロイVer.)に枝分かれします。
但し、「遊 脇道」は「遊」本編と「遊 番外編」数本を包括した入れ籠構造になっておりますので、
「遊」→「遊 番外編」→「遊 脇道」の順に読まれることをお奨めします。
その順番にupして行きます。

「遊」vol.1〜vol.9 - 「遊」「遊 脇道」とも枝分かれするまで共通です。
「遊」vol.1 - 08.11.12up
「遊」vol.2 - 08.11.12up
「遊」vol.3 - 08.11.13up
「遊」vol.4 - 08.11.13up
「遊」vol.5 - 08.11.13up
「遊」vol.6 - 08.11.16up
「遊」vol.7 - 08.11.16up
「遊」vol.8 - 08.11.16up
「遊」vol.9 - 08.11.16up
「遊」 Vol.10以降(ロイエドVer.) -
ロイエドがお嫌いな方も、これはこの後のエドロイver.がこの「遊」のロイエドバージョンを含んだものですので、お読み戴ければ幸いと存じます。

「遊」vol.10 - 08.11.19up
「遊」vol.11 - 08.11.19up
「遊」vol.12 - 08.11.19up
「遊」vol.13 - 08.11.19up
「遊」vol.14 - 08.12.7up
「遊」vol.15 - 08.12.7up
「遊」vol.16 - 08.12.7up
「遊」vol.17 - 08.12.7up
「遊」vol.18 - 08.12.7up
「遊」vol.19 - 08.12.7up
「遊」vol.20 - 08.12.7up
「遊」vol.21 - 08.12.12up
「遊」vol.22 - 08.12.12up
「遊」vol.23 - 08.12.12up
「遊」vol.24 - 08.12.12up
「遊」vol.25 - 08.12.12up
「遊」vol.26 - 08.12.12up
「遊」vol.27 - 08.12.12up
「遊」vol.28 - 08.12.12up
「遊」vol.29 - 08.12.12up
「遊」vol.30 - 08.12.12up
「遊」vol.31 - 08.12.16up
「遊」vol.32 - 08.12.16up
「遊」vol.33 - 08.12.16up
「遊」vol.34 - 08.12.16up
「遊」vol.35 - 08.12.17up
「遊」vol.36 - 08.12.17up
「遊」vol.37 - 08.12.17up
「遊」vol.38 (これで完結です) - 08.12.17up
「幻」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。ロイVer.)
「惑」 (「遊」 番外編)(エドロイ) - 08.12.17up - (旧テレビアニメのラストから映画シャンバラのその後。エドVer.)
「遊 脇道」(エドロイVer.) - 「遊」Vol.10以降
こちらはエドロイバージョンのうえ、ロイが精神的に壊れてしまっています。
しかも暗いです。
弱いロイが厭だという方はお読みならないで下さい。
「遊 脇道」Act.1 - 08.12.17up
「遊 脇道」Act.2 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.3 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.4 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.5 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.6 - 08.12.19up
「遊 脇道」Act.7 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.8 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.9 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.10 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.11 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.12 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.13 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.14 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.15 - 08.12.21up
「遊 脇道」Act.16 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.17 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.18 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.19 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.20 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.21 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.22 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.23 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.24 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.25 - 08.12.23up
「遊 脇道」Act.26 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.27 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.28 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.29 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.30 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.31 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.32 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.33 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.34 - 08.12.24up
「遊 脇道」Act.35 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.36 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.37 - 08.12.26up
「遊 脇道」Act.38(とりあえず完結ですが、「澱」へ続きます) - 08.12.26up
「澱」 (「遊 脇道」完結話) - 08.12.26up - (「脇道」のロイVer. これで「脇道」の本編は終わりになります)
「寥」 (「遊 脇道」 番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (「幻」の割愛部分)
「仕」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (駅前相談するセンセイ)
「誤」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (ある日税務調査が…)
「加」 (「遊」番外編 エドロイでもどっちでも) - 09.1.7up - (本編に入れ忘れた生協の小ネタ)
「罪」 (「遊 脇道」番外編) - 09.1.7up - (そして今2人は)
「問」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 09.1.7up - (そして今2人はその2)
「策」 (「遊 脇道」番外編 エドロイ) - 16.12.29up - (あの夜の男は)
【その他 ロイ受】
「戯」 (ブラロイ) - 09.1.7up - (ロイにホムンクルスと知られ、別れを告げるブラッドレイ)
「蓮」 (キンロイ) - 09.1.7up - (イシュヴァールにて。意外にほのぼのかと…。)
「痴」 (エドロイ)(単発) - 09.1.7up - (淫乱ロイの純情)
「羞」 (エドロイ前提ハボロイ)(「痴」シリーズ?) - 09.1.7up - (「痴」の続編。エドを愛しているロイだが、ハボに…。いや、ハボは被害者なのですが。)
- 上下につながりはありません
「紅」 (エドロイ) - 09.1.7up - (久しぶりに司令部に来た兄さん)
【単発 ロイエド】 - (焦れたロイにレイプされるエド。18禁のレイプものですんで、ご注意下さい)
「赦」 Act.1 - 09.1.7up
「赦」 Act.2 - 09.1.7up
【単発 ハボロイ】
「憂」 - 14.10.16.up - (ロイとハボックの阿呆らしいすれ違い)
「今更」 - 09.1.7up - (自分の想いに気付くロイ)
「蜜」 - 09.1.7up - (恋人になった後。エロシーンばっか)
「背」 - 09.1.7up - (ハボの背中に惹かれるロイ)
【「錯」シリーズ】 - ハボロイオンリーです。
イシュヴァールでの経験がロイに与えたものは…。
- 今はなき某数字SNSで、2007年9月から書いていたものです。
「錯」 Act.1 - 09.1.7up
「錯」 Act.2 - 09.1.7up
「錯」 Act.3 - 09.1.11up
「錯」 Act.4 - 09.1.11up
「錯」 Act.5 - 09.1.12up
「錯」 Act.6 - 09.1.16up
「錯」 Act.7 - 09.1.16up
「錯」 Act.8 - 09.1.17up
「錯」 Act.9 - 09.1.17up
「錯」 Act.10 - 09.1.18up
「錯」 Act.11 - 09.1.20up
「錯」 Act.12 - 09.1.21up
「錯」 Act.13 - 09.1.24up
「錯」 Act.14 - 09.1.27up
「錯」 Act.15 - 09.1.29up
「錯」 Act.16 - 09.2.1up
「錯」 Act.17 - 09.2.6up
「錯」 Act.18 - 09.2.12up
「錯」 Act.19 - 09.2.15up
「錯」 Act.20 - 09.2.20up
「錯」 Act.21 - 09.2.26up
「錯」 Act.22 - 09.3.9up
「錯」 Act.23 - 09.3.13up
「錯」 Act.24 - 09.3.20up
「錯」 Act.25 - 09.3.26up
「錯」 Act.26 - 09.4.7up
「錯」 Act.27 - 09.4.21up
「錯」 Act.28 - 09.5.6up
「錯」 Act.29 - 13.5.21up
「錯」 Act.30 - 13.5.22up
「錯」 Act.31 - 13.5.23up
「錯」 Act.32 - 13.5.26up
「錯」 Act.33 - 13.5.31up
「錯」 Act.34 - 13.6.2up
「錯」 Act.35 - 13.6.17up
「錯」 Act.36 - 13.6.19up
「錯」 Act.37 - 13.6.26up
「錯」 Act.38 - 13.7.11up
「錯」 Act.39 - 13.7.14up
「錯」 Act.40 - 13.7.19up
「錯」 Act.41 - 13.7.27up
「錯」 Act.42 - 13.8.13up
「錯」 Act.43 - 13.11.22up
「錯」 Act.44 (完結) - 13.11.26up
「聴」 (『錯』番外編) - 最終話後、ツケを支払に行くロイ。
Vol.1 - 17.1.7up
Vol.2 - 17.1.7up
【瑠】シリーズ - 【注意書きです】
これはいつものロイエドロイと、また原作とも異なるパラレルのロイエドロイSSです。
(すみません!最初間違えて『ロイエド』と書いてましたが、ロイエドロイです。)
原作またはアニメ設定以外受け容れないと言う方はお読みにならないで下さい。
最初は「人魚」のタイトルでしたが、後に「瑠」にしました。
「瑠」 Act.1 - 16.12.30up
「瑠」 Act.2 - 17.1.1up
「瑠」 Act.3 - 17.1.3up
「瑠」 Act.4 - 17.1.11up
Gift - 頂き物など
取調室にて -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
give me more -
ヒューズ×ロイ from 志乃さま
> 【「錯」シリーズ】 > 「錯」 Act.8
「錯」 Act.8
09.1.17up
んはー。よく寝た。
オレは寝覚めがいい方だ。
元々ベッドに転がればすぐに眠る質だったが、軍に入ってからは益々短時間に深く眠るのが得意になった。
(どんな状況でもがっつり眠らなくちゃ保たないからな。)

今日は今まで生きてきた中で一番いい朝なんじゃないか?
だって横にはオレの生命より大切なロイが眠っている。
こんな子供みたいな顔で眠るんだな。
あどけなく見えるのはきっと、瞳が見えないせいだ。
野心を秘めた力強い光を持つその瞳。
それが閉じられているから、こんなに儚く見えるんだろう。
…いや、2人で過ごすときはやはり瞳が違っている。
優しいというか、穏やかに見える気がするな。

虹彩と瞳孔の彩差がほとんどない瞳。
ロイはオレの蒼い瞳が好きだと言ってくれるけど、オレはロイの漆黒の瞳が好きだ。
黒炭色の艶やかな髪と同色のこの瞳に見つめられるとどこまでも引き込まれそうな気がして、そんな酩酊感もオレを酔わせる。
どこまでも深くて、どこまでも愛おしいこの人。
オレの腕に掴まえられるなんて、つい一月前までは考えられなかったのに。

「腕枕させてくれませんか?」
昨夜聞いたオレに
「ダメだ。お前の腕が痺れるだろう。」
差し出した腕に、頑なに頭を乗せようとしなかった人。
理由はオレにも解っている。
オレはこの人を護る楯で、矛だ。
多少頭は悪いかも知んないが、銃の腕は(中尉には敵わないまでも)この人の役に立てるモノだと自負している。
そのオレの最大の武器である腕が使えなくなるから。
だから腕枕を拒んだんだってことは。
それでもオレはこの人に腕枕をしたかった。

しっかりと抱きしめたかったから。
腕枕をした腕で肩を抱き、もう一方の手で腰を抱き寄せ脚も絡めて。
この人の全部をオレは今抱きしめているんだと確認したかった。
2人でいるときはどこか儚いこの人を、しっかり掴まえているんだと実感したかったんだ。

そんなオレの気持ちが解ったんだろうか。
「じゃ、眠るまでの間だけ。ダメっすか?」
そう言ったオレに、ようやく
「私かお前のどちらかが眠るまでだぞ?」
もっともらしく頷いた顔は仕方がないとでも言いたげで。
そのクセ、腕に乗せた頭をもぞもぞと動かして、据りのいい場所を探り当てた時にはえらく満足そうな顔を見せた。
オレはそれを見て安心しちまったんだ。
くすりと笑ってしまったくらいに。
オレ達は今、同じ幸せを抱きしめ合ってるんだなんて。


いつまでもこのかわいい寝顔を見つめていたいけど、今日も軍務が待っている。
すぐに食事を抜くこの人に、しっかり朝メシを食べさせなくては。
ふと窓へ視線を向け、それからこの部屋全体に瞳を向けると、なんだかオレの心情と同調するように優しい空気に包まれているような気がした。
ロイと過ごすようになってからだ。
空気が優しいなんて感じるようになったのは。
極小さい幽かな光の粒が部屋に満ちているような、そんな感覚。

これが幸せってヤツかも知んねぇな。
そんなことを思いながらロイのデコにキスをして、そっと起き上がった。

「んー。トーストと、スープ…は朝でもポタージュが好きなんだよな。
 卵はオムレツでいっか。」
そんでも野菜の足りない人には、昨夜茹でた野菜にチーズとハーブソルトを掛けてと。
トーストとコーヒーをセットして、フライパンを持って献立を考えていると、いつもは朝飯が出来てから叩き起こす人がキッチンに現れた。
瞳を擦りながらだけど。(くぅ〜!ホント可愛い♪)

「ロイ?今日は早く起きたんですね。」
「んー。ハボ…。」
あれ?寝ぼけてる?
や、別に『ジャン』って呼んで欲しい訳じゃ…あるけど。
「どうしたんスか?」
寝乱れている髪を梳きながら問うと
「起きたらお前がいないから。」
言いながらオレのシャツの裾を握る。
ん〜。オレ、朝からサカっちゃいそうだぜ。
「すんません。あんたの朝飯を作んなきゃと思ったんで。」
「ん。」
納得したのかしないんだか。
きゅ、と抱きついてくる人はまだ寝ぼけてる。

「ジャガイモがありますね。」
「ジャガイモ…。」
好き嫌いのはっきりしている上官が呟く。
「解っております、Sir。
 揚げたのと焼いたのが割と好き。煮たジャガイモは嫌い。
 でも、マッシュポテトはお気に入り、ヴィシソワーズとジャーマンポテトは大好物、ですよね。」
最早暗記してしまった好みを言うと
「ん。さすがに解ってるな。
 …他に私の好みは解っているかね?」
瞳が覚めたのか、いたずらな表情で聞いてくる。

「Sir。金髪金目の少年がお好き。」
と告げると
「まぁ、あの綺麗な獣は確かに好きだな。」
好き、って程度じゃないだろう。あの構い方は、とは思いつつ
「鎧の少年もお気に入り。」
「うん。あの子は優しいな。強くて優しい。」
「金髪にはしばみ色の瞳の女性もお好みですよね。」
すると小さく笑いながらの返事が返ってきた。
「確かに、恐ろしい存在ではあるが、中尉も好きだ。」
「黒髪に緑の瞳、スクエア・グラスの理解もあんたには必要でしょう?」
「その通りだ。だが…。」
なんだか歯切れの悪い答えだ。
「Sir?」
「…ヴィシソワーズが飲みたい。」
とん、とオレの胸を押して後ろを向いてしまった。
ご機嫌を損ねたか?
「申し訳ありませんが、アレは朝じゃ時間が足りません。」
作るのはいいんだが、冷やす時間がない。
「じゃあいい。」

そのままキッチンを出て行こうとする。
「ロイ?」
後ろからそっと抱きしめると
「どうして…ぃち…が出てこない?」
やっぱり拗ねているようだ。
「は?すみません。聞こえなかったんですが?」
いち?位置?市?
「なんでもない。着替えてくる。」
「ナニを怒ってるんスか?『いち』の続きは?」
振り解こうとする躰をもっと抱き寄せて耳元に囁いた。
「…」
小さく躰を震わせながら、それでも応えてくれないから。
「いち?ナニ?」
重ねて聞いた。
「い…一番好きなモノをお前が…あげないから…。」

ごめんなさい!中尉。
遅刻してもいいっスか!?
このまま押し倒したいんですけど!?

「ロイの一番好きなモノって、ナニ?」
それでもロイの口から聞きたくて。
「ばっ!…」
そのまま黙ってしまうのも可愛すぎだ。
「ねえ。言って?」
ロイの弱い低い声で囁くと、しばらくしてから口を開いた。
「…蒼い瞳で…」
「うん?」
ああオレ、今しまりのない顔してんだろーなー。
「金色の毛並みの。」
毛並み?
「雑種だが飼い主には忠実な、駄犬だ。」
「うへ。やっぱ犬なんスね。」
しかも雑種で駄犬かよ。
くるりとオレの方を向いて
「嘘だ。お前は仲々いいイヌだ。」
ちゅ、とキスをくれてすぐ翻る。
「着替えてくる。」
やられた。と思ったがその後ろ姿から覗くうなじが紅く染まっていた。

ちくしょー。マジ、可愛すぎるぜ。
もうオレは幸せ真っ直中だった。

この時気付かなくちゃいけなかったのに。
この人は自分の希望なぞ、全くオレに求めてなかったことに。
オレが望むことしかしようとしてはいなかったってことに。


それからは、もー超絶幸せな日々が続いた。
少なくともオレにとっては。
軍務はオレがロイの護衛官である為、結構重なっていることが多い。
それ以外ではオレは肉体労働中心で、書類に追われるロイと離れて外回りのこともあったけれど。
シフトがずれてロイが後から帰宅するときは、オレは食事を作り(ロイの)家の灯りを点けて待っていた。

それは一度ロイが後から帰ってきたときに、しみじみと玄関からリビングを見渡して
「いいものだな。」
と呟いて。
「は?ナニがっスか?」
聞いたオレに
「うん。帰って来るときに家に灯りが点いていて、誰かが出迎えてくれるとはいいものだと思ってな。」
やはり小さく笑って言ってくれたことがあったから。
それからオレは必ず灯りを灯すようにしていたんだ。


ある日、日勤だったんだが仕事が片付かず、オレが深夜近くにロイの家に帰った(そう!もう『帰る』って言える状態だった♪)時、ふと道から見上げるとリビングの灯りが点っているのが見えた。
ああ、これか。ロイの言っていたことは。
オレにも理解が出来た。
あそこにオレを待つ人がいる。
そのことが心に暖かいものを灯すんだ。
オレ達の場合はちょっと違うんだろうけど、家庭を持つ幸せってこういうものかも知れないな。なんて思ったりして。

それでももう遅いから眠っているかも知れない。
そう思ってそっと鍵を開けて家にはいると、リビングのソファで眠っているロイと、テーブルには山盛りのデリカテッセンの総菜。
オレがうるさく言わないとすぐに食事を抜く人が、わざわざ食事を買ってくるなんて。
なんだか感動してしまった。
オレの為に買ってきてくれたってのも勿論嬉しかったが、きちんと食事をしようとロイが思ってくれたことに。

とても食べ切れなさそうなその量はそのままオレの幸せの量に見えた。
食の細いこの人がきっと迷いながらあれもこれもと買ったんだろう。
その光景を思い浮かべるだけで嬉しくなる。

錬金術の本を読んでいて眠ってしまったらしい。
傍らに本を落として眠っているロイにそっと毛布を掛けてから、オレは総菜を温めて皿に盛った。
先日の話を思い出したのか、ヴィシソワーズは買ってきているクセにパンを忘れているのがロイらしくておかしい。

(普段は無能と呼ばれているが)軍人として有能で戦闘能力が高く、錬金術師としても優秀で、若くして大佐の地位にいて、女にモテまくりで。
なにより指導者としてカリスマ性とさえ言える程の類い希な資質を持つ、外見は欠点のなさそうなこの人。
でも本当は子供のようにあどけないところがあって、結構抜けている人。
オレの前では儚くて物静かで、もうめちゃくちゃに可愛い人。

食卓を調えて、ソファの前に腰をおろす。
そっとロイの髪を撫でながら、名前を呼んだ。


ロイの部下になったばかりの頃。
それはイシュヴァール戦からそう経ってはいない時だった。
その頃のロイは喩え眠っていても、誰かがそばに来るだけで瞳を覚ましていた。
サボって中庭や書庫で眠っているときは勿論、仮眠室で眠っているときでも。
オレ(に限らず誰か)が近づくだけで瞳を覚まし、無意識だったようだが射るような瞳でこちらを見ていた。
近づいても瞳を覚まさなくなったのはどの位経ってからだっただろう。

それでも触れるだけで、やはり瞳を覚ましていた。
そう言えば一度、名前を呼んでも起きないからと腕に手を置いた途端、弾かれたように躰を起こして、なんだか怯えたように後退ったことがあったな。
すぐに大きく息を吐きながら「夢を見ていた。」と言っていたが。
やはりイシュヴァール戦はこの人の心に傷を残しているんだとその時実感したのを覚えている。

そのうちにオレ達がいても平気で眠るようになった。
それは執務室でも同様で、中尉が青筋を立てることが多くなったんだけど。
それでもオレ達に気を許していることに、中尉も安心して喜んでいるのがなんとなく解った。

やがてオレが触れても起きなくなって。
それはオレに限らないのかと思っていたら、ブレダに聞いても誰に聞いてもそんなことはないと言われた。
(未だにそうらしい。)
ああ、オレだけにそんなに気を許してくれてるんだと思ったら、以前からもやもやと心に浮かんでた想いが形を持ったんだ。


そんなことを思い出しながら、髪を梳いて名前を呼び続けるとようやく瞳を覚ました。
「ハボ…?」
寝ぼけながらの舌っ足らずな声で。
「食事の用意が出来ましたよ。」
デコにキスを落とすと
「ああ…おかえり。ジャン。」
腕を廻して抱きついてくれる。
可愛い愛しいオレの恋人。

「食事を買ってきてくれたんですね。有り難うございます。」
「ん…。ジャンが腹を空かして帰ってくるかと思ってな。
 それにお前は私に食事をさせるのが好きだから。
 …何がいいのか解らないから適当に買ってきた。」
うん。確かに改めて見ると野菜が少ないな。
「オレの好きなモンばかりですよ。」
「そうか…。良かった。」
伏し目がちに小さく笑う、その顔がいきなりストライクゾーンを直撃っす。

「夜も遅いし、ワインとこれでいいっスかね?」
主食がないことを悟らせたくなくて、そう言ったんだが。
「え?バゲット…。…あ!すまない!」
あ、解っちゃったか。
「いえ。オレが買い置きを切らしちゃったんで。すんませんでした。
 足りなければパスタを茹でますけど?」
「いや、私はいらないが…。」
ソファに座ったまま俯いてしまった。
ああ、そんなに萎れなくても。

「あんたがちゃんと食べようと思ってくれただけで、オレは嬉しいんスよ?」
抱きしめて、俯いた顔を覗き込むように唇にキスを落とした。
「うん。すまなかった。」
ああもう。可愛すぎだってーの。
「だからいいんですって。さ、食べましょ?」
「ん。…ジャン?」
ようやく顔をあげてくれた。
「なんです?」
「もう一度…キスしてくれ。」
そう言って、またオレに腕を廻してくる。
ああああああ。もう。
あんた飯を食いたくないんですか!?
オレ、このまま押し倒しちゃいますよ!?






あーっはっはっは!
話が全然進まーーん!!







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